人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

hとsの悲劇 四幕 ─離愁─

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 春になり二人は大学に進学した。

辺りは美しい薄桃色の桜が満開で正に春の到来を思わせる陽気に包まれていた。

 

hには昨年交わしたあの甘く美しく豊かで妖艶なsとの契りが未だに瞼にしっかりと残像のように焼き付いている、あの感動をもっと実感したい、我がものにしたいという己惚れにも似た思いがあった。

二人で花見に行こうとsを誘ったんだが最近体の調子が悪いらしく丁重に断られたのでhはやむなく諦める。心配になったので家に行くよと言っても大した事ないから気にしないでとhを慰めるような感じで言う。

hは一時この綺麗な桜を眺めながら「桜も見ように依っては憎らしく思える事もあるんだな」という思いにふけっていた。hは元々桜よりも2月のまだ寒い時期にひっそりと咲く梅の方が如何にも花鳥風月を思わせる風情があって好きだった。

hは工学部の建築科に入り建築士を目指すべく勉学に勤しんでいた。

1回生の時から成績も良く得意の水泳でも自己最高記録を更新するなどして充実したキャンパスライフを送る。

そんな中hに一通の手紙が届く。そこには達筆なsの字が書かれていた。

「背景新緑の候、hには益々ご健勝の事と・・・以下省略」そして最後には「もう会えなくなってしまったので私の事はどうかお忘れになって下さい」と括ってある。

hには何がどうなっているのかさっぱり分からない、単に俺が嫌われただけか、或いはsに何かあったのか、これは冗談なのかとある事ない事色々と思いを巡らし矢も楯もたまらずsの家に急行した。だがsは出て来ない、親御さんも出て来ない。インターフォンを何度鳴らしても大声で叫んでも一向に何の音沙汰もなかったので玄関のドアをバタバタと叩いていたら警察が来て連行された。近くの派出所で事情聴取を受けたがhは何も言わずただ呆然としていた。巡査にどれだけ執拗に聞かれても全く動じない。そして「ご迷惑を御掛けしてすいませんでした」と一言だけ言い置いて家に帰る事には成功する。

それからのhは何をしても面白くない、何も手に就かないといった感じで放心状態に陥っていた。幼馴染みで親友でもあるtに相談したところ「気持ちは分かるが長い人生そんな事があってもおかしくはないだろ」と軽く笑い飛ばされる。hはtのこの余りにも楽観的な性格が昔から羨ましかった。

車の運転免許を取得したがドライブに誘う筈のsはいない、2級建築士の資格を取ってもsには喜びを知らせる事も出来ない。卑屈になり毎日を味気無くやりきれない想いで時には酒に溺れ、時にはギャンブルは嵌り自堕落な日々を過ごしていたがどうしてもsの事は忘れられない。

とはいえ何時までも悲嘆にくれている訳にも行かず取り合えずは学業に専念する事にした。

 

時は過ぎはや4回生、hは無事大学を卒業し念願の大手建設会社に入社した。