欲望の色 終章 ─決意の朝─
俺は気が動転していた。いくらあいつがアホとはいえそんな簡単に死ぬタマでもないし、お互いまだ二十歳過ぎ。訳が分からないまま竜に迫った。
「しょーもない嘘つくなよ」
「嘘やったらええけどな」
「マジかいや」
「ああ」
「で、何で死んだんや?」
「それが・・・」
「ええからはっきり言うたれや」
「f先輩や」
「何?」
「あいつヤクザなった頃から虐められとったらしいわ、何も出来ひん奴やったからな、それで何時になってもシノギの一つも出来んし相変わらずシャブばっかり食うとったしf先輩もここんとこ羽振りが悪かったから八つ当たりみたいな感じでボコボコにシバかれてそのまま死んでもたらしい」
俺はあのガキわ!(f先輩の事)と怒りが込み上げて来た。
「ただf先輩は直接手出してないから他は捕まったけど我がだけは捕まってないねん、用意周到なとこはあの人らしいわな」
腐れ縁とはいえ修二は昔からの仲間で英樹にとっても一番古い友人であった。
「みんな集めや! カエシに行くど!」
「ちょっと待ったれや、なんぼあいつが外道言うても一応本職やし、十代の頃と違って声掛けたとこで何人集まるか分からんど」
「・・・」
「それに英樹よ、お前にだけは死んで欲しくないねんや、分かるやろ! 何か策を練ろうや」
取り合えずみんなは修二の葬儀に出た。哀しみと怒りが英樹を襲う。
葬儀には修二の親族一同が参列していたが親御さんは「あんなアホな事ばっかりしとったからこうなったんや、親不孝もんが」と口汚く文句を言ってるがその表情は悲嘆に暮れている。
修二にはまだ中学生の妹がいたんだがその子が英樹に対して
「何でお兄ちゃんを見殺しにしたん? 親友やったんやろ! 英樹さん強いんやろ! 仇取ってよ!」と泣き喚く。
英樹はどうしていいのか分からずただ下を向き黙っていた。
その夜俺はやけ酒を呑んでいた。『確かに俺らはガキの頃からやんちゃばかりして何百人とシバき回して来たし悪い事もして来た。だが自分なりに筋を通して来たつもりやしそこまで人様に迷惑を掛けた覚えもない、勿論人を殺めた事など一度もない、でもあいつだけは許せない』そんな感じで色々と思いを巡らし葛藤していた。
親父が「英樹お客さんやで」と言う。
突然あゆみが訪ねて来た。
今夜は綺麗な三日月が出ていた。今日みたいな日にこんな綺麗な月なんかいらんねんと思った。
俺は「あゆみ何で来たんや、もう夜も遅いのに、危ないやんけ」と言った。
「どうせこんな事やろうと思って来たら案の定やわ」
「何がや?」
「綺麗な月ね、綺麗な月を見たらいい事が起きるって言われてるのよ」
「・・・」
あゆみは酒に付き合ってくれて俺の愚痴も聞いてくれた。
「あんたは喧嘩は強いし男気もあるし男前や、でも不器用で半端なとこもある、人が好過ぎるねん」
「今更何言うとんねん」
「今更言うてんのよ、」
「俺にどうせえ言うねん」
「どうこうしろとは思わないわ、それはあんたが決める事」
その夜二人は抱き合って眠りに就いた。
翌朝あゆみは「じゃあ私帰るわ」
「気つけてな」
「まだ迷ってるのなら私のお父さんに会ったら」
とだけ言い置いて去った。
数日後俺はあゆみの親っさんに会いに行った。
何時もながら貫禄のある人だった。例の和室に通されて話をする。
「おう久しぶりやったな」
「ご無沙汰していました」
「またえらい事になったみたいやの~」
「・・・」
「で、どうするんや? 何やったら力貸そか?」
「いいえ滅相もありません、その必要はありません」
「おう、言うやんけ、どないか出来るんかい?」
「いや、それはまだ」
「まだそんな眠たい事言うとんかい、あゆみが言う通りやのー、お前は甘過ぎるわ」
「・・・」
「色即是空空即是色、人間の腹(心)は色や、人間誰しも欲望はある、わしにもあるしお前にもあるやろ、でもあいつ(f先輩)のは汚な過ぎるんや、あれの腹は真っ黒や、いや灰色やな、とにかく汚く薄汚れとんや、わしらみたいな極道がこんな事言うんもおかしいけどな、わしが見る所お前の腹の色は綺麗や、澄み切っとるわ、何でか分かるか?」
「いいえ」
「お前は欲望を実際に叶えて来たからや、それも正攻法でな、でもあいつは小賢しい事ばかりして来て、まして今ではコジキ同然のチンピラヤクザに成り下がってもたやんけ」
「・・・」
「でも色は綺麗なだけでもあかん、時には汚れる事も必要や、ただあいつのは汚れ切っとる! ただのドブネズミや!」
「・・・」
「それでもまだ義理立てするんやったらお前の勝手やが、話はこれだけや」
「おう、それとあゆみとはどうなっとんや? あんまり焦らすなよ」と軽く笑って俺を丁重に送ってくれた。
俺は決心した。
空を見上げ太陽を仰ぎ一人で歩いて行く。
完
|
|