釈迦の一生 <第二部>
─青年期─
正樹はゆみさんの道場へ行って稽古をつけてもらった。
館長にも世話になる。学校の部活動ではない本格的な稽古だった。
稽古が終わってゆみさんが「あなた今度付き合ってくれない」と聞く。
正樹は何をするのだと不思議に思ったがどうせ空手の関係だろうと思い素直に引き受ける。「え、あ、はい」するとゆみさんは軽く笑った。
約束の日曜日、待ち合わせの場所へ行くとゆみさんはえらく可愛い恰好をしていた。
取り合えずお茶を飲みに行こうと言うのだ。正樹は信じられなかったが付き従うように茶店に入った。
これってデートなのかと思ったが何も言えず座っていた。でも何か言わないといけないと思い、空手の話をし出すと「そんな話はいいから」と言う。他には特別話す事がなかったがゆみさんはお喋りな方だったので会話は意外と弾んだ。
取り合えずその日はそれだけで家に帰った。
学校でも色々と噂されるようになる。でもゆみさんは強いし正樹は何も心配しなかった。その後も二人は仲良く付き合っていた。
やがて高校を卒業し二人は別々の大学に進学する。
それからも付き合いは続いていた。正樹が大学でも空手部に入りもうかなり強くなっていた。その事を知るとゆみも嬉しがってくれた。
正樹は空手で強くなって自身がついた所為か二十歳になっていきなりゆみにプロポーズした。
ゆみは「まだ早いよ~」
「いいやん」
「別に悪くはないけど」
「よし決まったな」
話はとんとん拍子に進み二人は大学在学中に結婚した。
そして大学を卒業する。
正樹は警察官になり、ゆみは看護師になる。
どちらも忙しい職種だ。でもやりがいはあると思い二人は頑張ってそこそこの地位にも就けた。
そうしてやがて一人の子を授かった。
名前は正弘にした。めちゃくちゃ可愛くて凛々しい顔立ちでもあった。正弘はぐんぐん成長し二人の共通の意見でもあった空手を学ばせ事にした。
ゆみの道場で稽古をしていたのだが乱取りが終わった時ゆみの親っさんがこう言った。
「この子はお前らよりも素質があるから将来はとんでもなく強くなる、俺が言うから間違いない、楽しみやな、はっはっは~」
「それは楽しみですね」とみんなは満面の笑みで談笑した
そうこうしてるうちに月日は経ち正弘は中学生になる。
学校でもその強さのあまり誰も正弘には手を出さないどころか口も出さない。
一家は順風満帆な人生を送っていた。
心には何の陰りもない日々が続いていた中正弘は最近ちょっと憂鬱な表情を浮かべる事が多かった。思春期だし両親共にそれほど心配していなかったが話をするとやはり元気がない。「最近何かあったの? 元気ないみたいやけど」
「別にそんな事ないけど」
「何かあるのならはっきり言ったら?」
「最近学校帰り誰かにつけられている気がするんや」
「誰に?」
「それは分からない」
「気のせいよ、ねえお父さん」
「・・・」
「そんなに気になるんやったらお父さんに力になって貰ったらどう?」
正樹は「気のせいやろ、それにそれぐらいの事では警察は動かんし俺が動くまでもないやろ」
それから何もなかったのでみんなは安心していた。
「何もなかったんやろ? もう心配せんと元気出せよ」
「そうやな」
それから数日後正弘は帰らぬ人となった。まだ中学二年生だった。
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