サメとワニ
「兄貴の言うてる事は分からんでもないけど甘いな。そんな事ではこの世の中渡って行けないし所詮人生は勝つか負けるかしかないんだよ。」
「お前は誰に口きいてるんだ? お前からそんな講釈垂れられる筋合いはないし調子乗ってんじゃねーぞコラ」
最近の二人の会話といえば何時もこんな感じでお互い貶し合ってるだけで打ち解ける事はほとんど無かった。
一章 ─神話の時代─
「雄一お兄ちゃーん待ってよー」
「雄二、愚図愚図してたら置いて行くぞ」
「待ってよー」
雄一と雄二は二つ違いの兄弟で何時も仲良く過ごしていた。
兄の雄一は喧嘩早くて短気な所もあったが正義感が強く弟思いのいい兄だった。
対して弟の雄二は喧嘩など幼少の頃からたったの一度もした事はなく優しい性格で友人も多かった。
二人は貧しい家庭に生まれる。父は早くに他界して母子家庭で育つ。母は自営業を営んでいて二人も手伝ってはいたが商売は繁盛せず家計は借金まみれでしょっちゅう借金の取り立てが来ていた。
或る日どうしても借金の利息が払えず強面の借金取り達が
「どうしても払えないのなら家売るかお母さんに風俗で働いて貰うしかないよな~」
と言われると雄二は矢も楯も無く「お前何言ってんだよ、いい加減にしろよ」と突っかかって行く。
「おーおー威勢のいいガキだな~、子供はお勉強でもしてなって」
「舐めんてんじゃねーぞ」
すると母が「本当にすいません、三日後には絶対払いますので」と平謝りする。
「三日後もし払えなかったら、分かってんな!」
ようやく借金取りは帰った。
母は何時も言う「二人共早く一人前になってお母さんを助けておくれ」と。
勿論その事は兄弟二人の共通の信念であり夢でもあった。
雄一は中学生になった。
桜花咲く学校のグランドを見ながら早くここを卒業して一刻も早く親孝行するんだと誓い学業に勤しんでいた。
そんな或る日雄二が泣きながら家に帰って来た。
「どうしたんだ?」
「けんくんにやられたんだよー、お兄ちゃーん」
「またあいつか、よし待ってろ、今直ぐ仇取ってやるから」
健二というのは雄一の同級生の健一の弟で雄二とも同級生である。この二人は兄弟揃って意地悪な性格で雄一も幼い頃から幾度となく喧嘩して来た相手であった。
雄一は近所である健一兄弟の家に行き遊びに来たとの口実で健二を外に連れ出し一瞬で打ちのめした。すると健二は直ぐ泣きべそをかいて謝る。
「もう二度としませんから許して」
「次やったらただでは済まさないからな」
帰って来てその事を言うと雄二は大喜びした。だがその後健二の親御さんが怒鳴り込んで来る。
「またやってくれたわね、今度やったら警察に通報するわよ、分かった?」
雄一が言い返そうとした時母が咄嗟に止めに入る。
「本当にすいませんでした、よく言ってきかせますから」と相変わらず謝るばかりだった。でも母のその目から溢れ出る涙を見ていると雄一は自分のやってる事は親不孝なのかと葛藤する。でも先に仕掛けたのは向こうだ。自分が悪い筈がないと信じていた。
二人はボーイスカウトに入っていた。
ボーイスカウトの第一義は「奉仕」である。漠然とした言葉でまだ少年の二人は無論他のメンバーもその意味を完全に把握している者はいなかったと思われる。
海岸へ行き清掃活動や募金活動、イベントでのプラカード持ち、ロープ結びの勉強や登山にキャンプ等結構面白い活動でもあった。
特に日曜日に行く山登りは頻繁にあり、市内は言うに及ばず市外であっても近場の山なら登った事はないぐらいだった。
キャンプにしてもファミリーキャンプなどとは大違いで自分の背丈よりも高い草が生い茂る山々の奥地でその草を刈って側溝を掘り分厚い生地だが小さく普通に考えれば3人用ぐらいののテントを張ってそこに6、7人で寝泊まりすると。
夜になれば百足等や猪、蛇などと遭遇する事もありの危険な生活を余儀なくされる。
勿論先輩や上の人達も厳しく正にスパルタ教育であった。
水もろくに飲ませてくれない、ちょっとでもバテてたら直ぐにどやされる。
自衛隊予備軍みたいな感じだったかもしれない。でもやりがいはあるし面白い。
二人はこんな少年期を過ごしていた。
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