人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

極道女子高生 

  三章

 

 

 「セイヤ! セイヤ!」

道場にはけたたましい掛け声が響き渡る。初めの内は正拳突き一つ出来なかった誠二も徐々に慣れて行き今では組手の稽古まで行っていた。

あやはそれを横目で見ながら安心していた。

師範は言う「あや、この子初めての割には覚えが早いし素質も十分あるぞ、このまま行くとお前を抜いてしまうんじゃないか」

「こいつこの前街でたむろっていた半端もんをいきなり殴ってぶっ飛ばしたんだぜ、凄いだろ」と自慢げにあやは言った。

「あれほど喧嘩はするなって言っただろ!」

「加減してますから」

「しょうがない奴だな」

稽古が終わった二人は清々しい顔つきで一緒に歩いて帰る。その道すがらあやは

「お前、何時か学校で虐められてただろ? あいつらぶっ飛ばしたくねえか?」

「もういいよ」

「いくら私がいたってあくまでもお前個人の問題だと思うけどな」

「・・・」

あやは「じゃあな!」と言って途中から走って家に帰った。

誠二はあやの後ろ姿を見ながらふと我に返った。俺はあいつの事が好きなのか、本当に強くなりたいのか、これからどうなるんだ、と色々な思いが錯綜する中一歩づつ歩みを進める。

だがまだ若い誠二は家に帰り腹一杯ご飯を食べて稽古の疲れも所為もあったが気持ちよく眠りに就いた。

 

翌朝起きて窓を開けると空は花曇りだった。

あやは悪天候が嫌いだった。これだけ破天荒な性格なのに不思議なものである。

「ちっ、今日は晴れてねえのかよ」と独り言を口にする。

学校へ行くと妙な噂が持ち上がっている。あやがその噂に耳を傾けると

「ねえ最近あやと誠二君が付き合ってるらしいよ、何であんな弱っちい子と付き合うのか分からないわよね~、あやってそんなもの好きな癖でもあったのかしら、まあデマとは思うけど」

あやはそんな事は気にせず全く動じなかったが誠二の事が気に掛かった。

 

昼休みになり誠二に会いに行こうと廊下へ出ると何か鋭い音が聞こえて来る。女子生徒の一人が「喧嘩よー!」と叫んでいる。あやは駆けつけた。

そこには三人の男子生徒が倒れていて更にそいつらを睨みつけている一人の男の後ろ姿が見える。

それは紛れもなく誠二だった。

あやはやったな~と思いながら誠二に近づく。すると誠二は何も言わずにあやの顔を見た。

倒れていたうちの一人が立ち上がろうとした時誠二はもう一撃喰らわした。

あやは間髪入れずに「もういい、ここまでだ」と制止する。

先生達が颯爽と駆け付けて一同は職員室に促される。

 

先生は愕いていた。

「何でお君みたいな大人しい子がこんな事をしたんだ?」

誠二は暗鬱な表情を泛べながら説明し出した。

経緯はこうである。

三人組に揶揄われ前のように鞄を蹴り回されていた所、一人の女子生徒がそれを止めに入ったのだがその三人はその女の子にまで手を挙げたのだ。そこで流石に怒りが天に達した誠二は有無を言わさずそいつらをボコボコに叩きのめした。というあんばいである。

それを訊いたあやは満を持して口を開いた。

「カッコいいじゃねーか、男らしいぜ、女に手を上げる男なんてクソだろ、これは誠二のした事が正しいよな」と。

「君は黙っていなさい」

「何だよ連れねーなー」

するともう一人の女子生徒なみが誠二に礼を言う。「本当にありがとう」と。

実はこのなみもあや、誠二とは小学生からの同級生であった。

 

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あやはその日も上機嫌で誠二と一緒に帰る事にした。

「今日の稽古も頑張ろうぜ!」

「いや、今日は休むよ」

「何でだよ、そっか、ちょっと疲れてんだな、無理もねーよ、あんな事があったしな」

「・・・」

「じゃあ一緒に遊びに行こうぜ、それならいいだろ?」

「そうだな」

 

二人はカラオケBOXに行く。

今日の運転手の若い衆は余り知らない奴だったのであやは誘わなかった。

二人はお互い好きな曲を歌い亦デュエットをして大いに盛り上がった。

歌い終わった時誠二はまたふと我に返る。俺はこれでいいのか? と葛藤している。誠二は生来神経質な性格だったのかもしれない。

だがそんな時あやが直ぐ傍まで身を摺り合わすように近寄って来る。そして誠二の顔の目の前まで自分の顔を寄せて目を瞑っている。誠二はどうしていいのか分からなかった。するとあやは誠二の顔を自ら自分の方へ引き寄せて唇と唇を合わせる。

誠二にはドクンドクンとする胸の鼓動がはっきり聴こえて来る。成す術もなくあやの唇を厚く舐める。それは実に甘く芳醇な香りがして誠二はその色香に酔いしれた。

 

暫くして目を開けるとあやは微笑を浮かべている。誠二は生まれて初めての経験だったのでただ恥ずかしがっていた。

あやは言う「良かっただろ、下らねー事考えなくていいからもっと正直に生きるこった」

誠二は「そうだな」と言い軽く頷く。

「お前は何時もそれだな、ま、いいや」と笑いながら言うあや。

家まではそれぞれ別で帰った。恐らくはこの大して知らない若い衆に詮索される事を嫌ったあやの考えだろう。

 

家に帰ったあやは風呂場で自分の唇を鏡に映した。我ながら美しい唇である。あやはその唇をそっと指で撫でる。「結構良かったな」と心の中で呟いた。

 

一方誠二も同じような事をしていた。

だが誠二は初めての経験であるにも関わらずそれほど有頂天になりこの時初めて自分はあやの事が好きなのを確信した。

 

誠二はこの夢の行きつく先が観たくなった。

 

 

 

  

 

  

 

 

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