人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

極道女子高生 十二章

  十二章

 

 

 年が明けて早や3月。寒さも幾分緩和して辺りには桃の花が美しく咲き乱れている。

実はこの梅、桃、桜の花は共に薔薇科桜属の植物で見た目が似ていても仕方なく、その違いは花の付き方と花びらの形に依るものである。

 

3月中旬、あやの一家では定例幹部会が行われていた。

そこには名だたる直参の親分衆が列席していて昇司の姿もあった。昇司は何時ものように渋い佇まいで少し俯き加減で顎を引いて威風堂々と坐っている。あやの父親はそんな昇司を見て、やはり自分の後釜はこの男を置いて他にはないと確信していた。

幹部会ではそれぞれの組織の近況報告と次期執行部の人選が行われており親分は昇司を若頭に推した。

だがこれには結構異を唱える者がいてその言い分はだいたいこんな感じであった。

「昇司さんは確かに武闘派で若い衆達からも慕われてはいるが今の時代それだけでやって行けるんですかね~、昇司さんはあくまでも彫り師が本業でシノギといえば昔ながらの博打と喧嘩、堅気さんのケツを持つ事ぐらいでしょう、ちょっと不安ですね~」

すると親分は「お前ら、今まで誰のお陰でこの一家が安泰でやって来れたのか分かった上で言ってるのか? おー! 今みたいな腑抜けた時代に昇司ほど頼りになる者はいない、お前らの中でここ数年出入りで活躍した奴がいるのか?」

一同は返す言葉もなく黙っていた。

頭の選出は入り札で行われたのだが結局四分六で昇司が次期若頭に選ばれたのである。

親分はほっとしていた。

「昇司、これからも頼むぞ!」

「へい、分かりました。全力で組に尽力致します」

親分は組長の代替わりでもないのに昇司の若頭就任の盃の儀式を盛大に行った。

 

誠二はもはや奈美との事は吹っ切れたのか今ではあやとは正に相思相愛で二人は甘い恋物語を演じていたのである。

或る日あやはスナックに飲みに行こうと誠二を誘う。誠二は「何で飲み屋なんかに行くんだよ? 俺酒飲めねえし」

「別に飲まなくてもいいんだよ、一緒に喋って歌って遊んだらいいだけだよ、結構楽しいぞ」

「ふ~ん、行くだけなら別にいいけどさ」

二人はあやの行きつけの店に行った。ママが「あらあやちゃん、今日はお二人でデートなの? いいわね~」と快く迎えてくれた。誠二は初めてだったので取り合えず軽く挨拶を済ませ大人しく坐っているだけだった。

するとママが「大人しい子ね、あやちゃん、ちゃんとエスコートしてやりなよ」と笑いながら言う。「それは任せておきなって、それはそうとこの前は悪かったな、迷惑かけてよ」

「そんな事はいいわよ、あの人も反省していたみたいだし、寧ろ私はあやちゃんに惚れ直したぐらいよ」

「ママ、やめなよ、ベンチャラは」

誠二はソフトドリンクを飲んでいたが何時の間にか周りの雰囲気に流されて自分まで酔ったような感じになり積極的に喋り出し歌も歌うようになっていた。

「どうだ、楽しいだろ?」

「結構いいもんだな」

みんなは大いに盛り上がり店内は明る空気に満たされていた。

     

店を出て歩いているとあやが少し休んで行こうと公園のベンチに腰掛ける。

既に夜10時を過ぎていて辺りは人影も疎らであった。

煙草に火を着けたあやは遠くを見つめながらこう言った。

「この前昇兄ぃが頭に就任したよ、どう思う?」

「どうって訊かれても、俺にはヤクザの事なんか何も分からないし、答えようもないけど、あの人なら安心出来るんじゃないの?」

「なるほど」

「・・・」

「実はこの前親父に昇兄ぃと一緒になれって言われたんだよ」

「何だって!」

愕いた誠二の顔を見たあやは嬉しくなった。

「で、どうするんだよ?」

「分からなねえ」

「分からないって、迷ってんのか?」

「いや、迷ってる訳じゃねえけど自分でもどうしたらいいのか分からないんだよ」

「でもまだ俺達は高校生なんだし焦る事もないだろ」

「確かにな、でもなるべく早いうちに結論を出しておいた方がいいような気もするんだ」

「・・・」

公園を後にした二人は何も口にせずに歩いて家まで帰る。

3月になったとはいえまだまだ寒く強い北風が吹いていた。

 

家に帰った二人はまた夢を観たのである。

それは実に現実味を帯びており恰もこれからの二人の行く末を暗示しているかのような

夢であった。

あやの夢には相変わらず誠二が出て来るのだが今度は誠二もヤクザになっている。背中には墨も入れており風格のある立派な極道の出で立ちであやに対しても強気な口調で話している。そんな誠二にあやはメロメロで今の関係とは真逆な光景であった。

他方誠二の観た夢には相変わらずもう一人の見知らぬ女が登場して来る。

その女はあやに勝るとも劣らぬ綺麗な容姿で常に誠二の心を乱して来るのであった。

誠二はその女に惑わされている風でもある。そしてその女といよいよ床に就こうとした

時に夢は覚め誠二は起きた。

これは一体どういう事なんだ? 何故同じような夢を何度も観るんだと誠二はまるで御伽噺の世界にでも迷い込んだのか、或いはデジャブなのかと錯綜した思いに苦しめられる。この女はまさかと思い窓を開けて空を眺めた。

その朝も雲一つない晴天であった。

 

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あやは日課である二頭の愛犬にハグをしてから登校しようとしていた。

家を出ると近所のおばちゃんが「あやちゃんおはよう、学校頑張ってね~」と愛想の良い声を掛けてくれる。あやも「あいよ~」と快活に挨拶を返し元気に登校した。

学校に着いたあやは真っ先に誠二に会いに行く。その途中で奈美の姿が目に入ったのだがもはや今のしゃには奈美など眼中にもなく何も言わずに通り過ぎて行った。

奈美は少しだけ振り返ったが深追いするつもりもなかった。

 

誠二に会ったあやは昨晩観た夢の話をした。誠二も同じく自分の観た夢の話を一切繕う事なく話す。するとあやは「よくバカ正直に言えたな」と感心している。

誠二にはよく分からなかったが恐らくあやは自分と奈美との縁が切れたと思ったのだろうと安心して言ったのだと思った。

だがあやの夢に出て来た自分の姿には戸惑いを隠せなかった。何故俺はヤクザなんだと。勿論誠二はヤクザになるつもりなど全くないし冗談でも考えた事すらない。

しかしその話をしている時のあやの目には何か切ないものを感じる。あやは俺にヤクザになって欲しいのかと訝るぐらいであった。

誠二は思い切ってその事を訊こうとするとあやは「話はここまでだ、じゃあまた放課後な」とだけ言い置いて立ち去る。誠二は先を越されたと少し悔しい気持ちになった。

 

午後からの授業中あやは相変わらずサイコロを振っていた。

見るに見かねた先生が珍しく注意して来たのだがあやは「別に誰にも迷惑は掛けてねーだろ!」と言うと先生も何も言わなくなりそれからはあやの顔を見る事すら無かった。

 

放課後になりあやは当たり前のように誠二を誘う。「今日は何処に行く?、カラオケか? 海か? 或いは・・・」

「或いは何だよ?」

暫く間を置いた後あやは「或いはホテルだよ」

「何だって?」

「だからホテルだっての、こんな事女に何度も言わせるなよ!、相変わらず乙女心が分からない奴だな~」

「あやは乙女だったのか?」と言うとあやは軽く笑った。

「ホテルってまだ高校生の俺達を入れてくれる訳ないだろ?」

「それがいいとこがあんだよ、蛇の道は蛇、私はヤクザの親分の娘だぜ」

「なるほどね~、貸し切りのプールにスナック、次はホテルか、羨ましいよ」

「・・・」

あやにはその羨ましいという言葉の意味がいまいち分からなかった。

 

まだ時間が早いので二人はゲームセンターで時間を潰した。何時ものようにパンチングマシーンをして遊んでいたのだがもはやそれも飽きてきたあやはコインゲームをし出した。競馬や、ポーカー、ブラックジャックにルーレットゲームまであって金を賭けないカジノゲームといった感じであった。

二人はポーカーのダブルアップでぐんぐん持ちメダルを増やして行きその数は優に千枚を超えていた。二人は大いに盛り上がってゲームに熱中していた。

人間というものは不思議な生き物で何かに熱中している時は時間が経つのが実に早く感じられる。時計を見ると既に夕方6時半を過ぎていて日は沈みかけていた。

そしてあやはそろそろ行くかと声を掛けると誠二は何時になく上機嫌で「そうだな!」と返事をする。あやはこいつ今から何処に行くのか分かってるのかと誠二の顔を見て訝った。

そこはホテル街で駅を降りるとそれらしきカップルが結構歩いている。あやは誠二の肩の凭れながら歩く。すると誠二が「何だよ、珍しいなあやのそんな恰好は」とまた鈍感な事を口にする。「お前は本当にバカなんだな、こんなとこで肩で風切って歩いていたらおかしいだろ! ちょっとは頭使えよ」と言うあや。

誠二はそうだなと今更のように自分の振る舞いを恥じた。

 

まだ寒い風が吹く中、二人はいよいよホテルの着いた。誠二はどうすればいいのかさっぱり分からなかったが、あやがさっと慣れた感じで部屋と取り何時の間にか二人は如何にもいやらしい雰囲気が立ち込める部屋に辿り着いていたのである。

その部屋には大きなダブルのベッドが置いてあり内装は少し派手で所どころに光を灯すイルミネーションが何か卑猥である。とてもなじゃいが普通の家の部屋ではない。

そんな状況に少し誠二は戸惑ったが坐るなりあやはいきなり誠二に抱き着く。誠二は取り合えずあやに口づけを交わしてその後目を見つめ合った。

二人は何も言わずに見つめ合っている。少しぎこちない誠二の様子にあやは軽く笑みを泛べる。すると誠二も笑う。そしてまた厚い口づけを交わした。

あやの身体は相変わらず美しい、長い巻き髪に綺麗な項、透き通るような白い素肌、しなやかな越しつきは誠二を酔わせた。

誠二は思う存分あやの身体を堪能したのだが途中で夢に出て来た女の顔が頭をを過る。

「またあの女が出て来やがった! 何故こんな時に出て来るんだ、お前は一体誰なんだ!」と不安になって誠二は思い切りあやの乳房を強く揉み出した。明らかに力が入り過ぎている。するとあやが「ちょっと痛いよ、どうかしたのか?」と問う。

誠二は我に帰り再びあやの身体を貪った。

 

事が終わった後あやが言う「お前さっき何か他の事考えてただろ、何なんだ?」と。

誠二は正直に言おうと決心した。

 

  

 

 

 

 

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