人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

まほろばの月  四章

 

 

 疾風迅雷。阿弥率いる輝夜一家はその後も大阪、広島、福岡そして宮城と、この四場の仕事を計画通り一気に成功させ東京に帰って来た。今回の成果は総額8000万円と実に上々の出来であった。既に隠れ家には宴席が設けられ一行は旅の疲れを癒やすべく豪勢な料理を召し上がり酒を飲みながら互いの苦労を労う。東京で留守を守っていた頭の英二が音頭を執る。

「親分、ご苦労様です、何時もながらの見事な仕事っぷり流石で御座います、みんなもご苦労だった、今宵は大いに飲んで食べて語らってくれ」

「へい!」

「頭、留守居役ご苦労だったな」

「有り難う御座います、ところで清吾の顔が見えないようですけど」

「あいつは破門にした」

「そうですか、惜しい人物を失いましたな~」

「あぁ、でも仕方ねーよ、波子も一時謹慎だ」

「そうですか」

 この英二もまた阿弥の心意気に惹かれて一味に加わったのだが、元ヤクザである英二の風格は阿弥に勝るとも劣らず、他のメンバー達は彼の存在自体に恐れを成す程で組織の厳粛化には欠かせない人物であった。

 阿弥の隣に座していた英二は改めて口を切る。

「親分、清吾の破門解く訳には行かないですか?」

「それも考えてる、だが今直ぐって訳には行かなねーだろ、折を見て解くつもりだが勿論条件がある」

「あいつの半端な性格ですね」

「そうだ、今のままのあいつでは話になんねー、別に波子と付き合う事が悪いって言う訳でもねー、あいつはどう見ても堅気の人間だよ」

「確かに......。」

 英二は訊くまでもなく親分の思惑に感づいていた。だが敢えて訊く事に依って親分の本心を炙り出したかったのだが流石は阿弥、全く隙を見せないその物言いは事の本質には到底辿り着かない。英二は己が行為を恥じていた。

 もし阿弥の真意が組織の掟の他にあるとすれば流石の英二にも分からない。阿弥と清吾、波子、この三者の境遇とは一体どういうものなのだろうか。もしかすると阿弥本人でさえ知り得ぬ事であったのかもしれない。

 

 秋の装いは未だ続いており紅葉、人々の快活さ、虫や鳥の鳴き声は正に花鳥風月、四季に恵まれた日本の美そのものであった。

 病院を後にした波子は家に帰り今回の下手打ち、そして自分の半生を振り返る。酒が飲めない彼女はお茶を飲みながら暗鬱な想いに耽る。まず自分の落ち度としては清吾と裏で通じ合っていた事、そして清吾を動揺させた事が全てであった。普通の男女ならごく当たり前の事かもしれないが、裏の仕事を持つ者としてそれが仕事に影響してしまったのは明らかな失敗であり弁解のしようもないぐらいである。だがそれを謹慎程度の処分で済ませてくれた親分には頭が下がる。波子は阿弥の情けだけを有難く汲み取っていたのだった。

 そんな波子の半生も阿弥や英二に引けを取らない程の凄まじく数奇なもので、彼女はまず両親を知らない。生まれて直ぐ捨てられ施設の世話になっていた彼女には親というもの自体が何なのかが分からなかった。

 その後養子に出されたのだがそこでも過酷な生活は続き、彼女は更なる絶望のどん底に叩き堕とされる。義父からの虐待に強姦は幾日も続き彼女が死のうとした事は数え切れない。しかし義父は死ぬ事さえ許してはくれずその悪行は執拗に繰り返される。

 役所は無論、警察でさえ何もしてはくれない。そんな中、波子が12歳にの頃、阿弥に出会ったのだった。今から10年前、阿弥は虐待狩りと称して全国を飛び回っていた。組織の情報網は凄まじく波子の家にまでその手を伸ばした阿弥達は義父を一瞬にして叩きのめし、波子を浚(さら)い東京へ連れ帰り自分の下で育ててくれたのだった。

 波子が看護師になれたのも全ては阿弥のお陰で、阿弥は彼女を実の子のように可愛がってくれた。こうして二人は道を同じくする事になったのだが、そこに清吾のような出来損ないが混じって来たのは二人にも想定外だった。でも清吾の腕と気さくな性格に感心した阿弥は彼を一味に加えてしまう。この時点で阿弥にも人情があった事は確かであろう。だが阿弥ほど女を見せない人とは違い波子は清吾に対し女を見せてしまった。

 今思えばこれこそが最大の失敗であったのかもしれない。波子はお茶を飲み終えると同時に床に就くのであった。

 

 今の所次の仕事は無かった。表の稼業である居酒屋の店主に精を出していた阿弥は常連客達から問い詰められる。

「阿弥ちゃ~ん、何で1週間も休んでいたのよ? 俺達は愛想尽かされたの? 淋しいかったよ~」

「何言ってんすか兄さん、野暮用ですって、だから今日もこうして店開けてんじゃないですか」

「野暮用って男だな」

「違うってば!」

「ほらムキになった、阿弥ちゃんはほんと正直だから、でもそんな阿弥ちゃんだからこそみんなも好きなんだよな、取り合えず元気そうで何よりだよ」 

 阿弥は1週間振りの開店だけあって精一杯の手料理で客をもてなした。みんなは美味しそうに食し大いに盛り上がる。そこには阿弥が一時裏稼業の困難を忘れさせてくれる明るさがあった。

 何時になればこんな暗い稼業から足を洗う事が出来るのか、ふとそんな憂愁に陥る彼女であったが本懐を遂げるまではこんな弱気ではダメだ、たとえ自分が死んでしまう事になってもその想いだけは遂げなくては自分は勿論子分達にも示しが付かない。

 酒に強い阿弥は客勧められた酒を飲みながらも己が目的だけは凛として持ち続けるのであった。

 然るに人の上に立つ者の器量というものは一体どのような事を指すのであろうか。この阿弥の男勝りな気性と隙のない周到さ、これらは裏稼業をするに当たっては至極当然でこれが無くては話にもならない。それに加えて頭の英二の貫禄、各地に散らばる一党の絆。これら全ての力が合わさって初めて組織な成り立つ。

 でも今回のように清吾を破門にした事に依って頭が多少なりとも動じていた事も事実で、口に出さずとも他のメンバー達の動揺は手に取るように分かる。

 仕事は成功を収めたが今回醜態を晒した事は全て阿弥自身の行いに起因するのではなかろうか。敗軍の将は兵を語らず、阿弥は己が短慮を清吾と波子の二人に罪を着せてしまったのではと悔恨の念に駆られていたのだった。

 

 風化雪月。晩秋を迎える頃、花や、人、動物と同じく月もまた、自然の理(ことわり)を表すように四季折々の美しい姿を天に映す。

 満月の今宵、阿弥は次なる的を絞っていた。これも勿論理に適った仕事ではある。この神秘な月灯りは阿弥だけだはなく清吾、波子、この二人の目にもはっきり見えている筈だ。三人は己が想いを託すべく月を仰ぎ見るのであった。

 

 

 

 

 

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