hとsの悲劇 弐幕 ─進展─
夏
今やhとsが恋仲にある事は周知の事実となっていた。
hには恥ずかしい気持ちもあったがそれよりも嬉しい気持ちの方が勝っていた事は言うまでもなく毎日を燦然とした思いで過ごしていた。
夏休みに入ってみんなで海水浴に出かけた時の事である。同級生同士男5人女3人でみんなおおはしゃぎしていた。照り付ける太陽、真っ白い砂浜、大勢の海水浴客、波に揺らめくヨットの群れ、正に夏の海がそこにはあった。
取り合えずビーチバレーをして遊んだ。男と女のチームに分かれて負けた方の一人が勝った方の一人にキスをされるという罰ゲームを定めた。人数的にも男チームが勝つのは明白だったが女チームは「おかしいでしょ~」とか反論しながらもそれでいく事になった。結果は当然男チームの勝利で誰が誰にキスをするのかと誰も後には引かずで盛り上がっていた中tが「hがsにしろよー!」と言い出した。
hは照れながらもsの頬に軽くキスした。これがhの人生で初めてのキスだった。それは一瞬とはいえsの頬は実に艶やかで白く赤子のように澄み切った透き通るような肌でhは感動した。sは軽く笑ってhの顔を見ていた。
こういう状況の中での初キスなどhも不本意ではあったがこれがなければ奥手なhはその後も何も出来なかった可能性は十分考えられたので嬉しかった事には違いない。
それからのhは学業も部活の水泳もバイトも全てが巧く行き充実した日々を正に青春を謳歌していた。学校でも昼休みは毎日必ず二人で行動していたので先生からも「何時も仲いいね」とか茶化される事もあり二人は照れていたが端から見れば微笑ましい光景であっただろう。
そして秋になると二人で登山に行ったり夕暮れ時の海に行ったり散歩したりとラブラブな生活を送っていた。
そして冬
二人で映画を見に行った。ラブストーリー、二人はいい感じになりsの肩を抱き寄せて映画館を出た時の事である。
前から厳つい顔つきをした一人の男が「お二人さんお熱いね~、何してんのかな?」と絡んで来た。こういう類は相手にしてはダメだと思い二人で何食わぬ顔をして歩いていたんだが気づけば4、5人の男達がしつこく追って来る。hはsの手を握って駆け出した。それでもまだ追って来る。ただ他は疲れたのかその時には相手は一人だけだった。hはこれでは埒が明かないと思いそいつを思いっきり殴ったそして蹴った。そいつはあっけなく退散したので一安心したがsは未だに怯えていた。「大丈夫?」と聞くとsは「お願いだから暴力は振るわないで」と言う。せっかく助かったのに何故そんなに悲しむのかhにはさっぱり分からない。でもそういう気持ちにさせたのは悪かったと自責の念にかられながらもsの身体(からだ)を強く抱きしめた。