人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

汐の情景  二十八話

貧しいようで豊か。裕福なようで貧困。世の無常の中にも特に日本という国はそういう漠然性を帯びているような気がする。 それは好不況だけといった経済的な概念で表される単純なものだけでなく、人が皮膚感覚で覚える世界観のようなもので、個人差はあれど戦…

汐の情景  二十七話 

仕事を辞めてからというもの、英和は毎日を暇潰しのような感覚で過ごしていた。それはともすると人生自体が暇潰しに過ぎないといった余りにも虚しい、惰性的で悲観的な考え方をも生じさせる。 それもその筈。仕事もせずギャンブルに明け暮れ、何の目的意識も…

ボートレースに見るスポーツ美学  ~人生観

奔流に 抗う姿 美しく(含笑) 美に耽ると書いて耽美。自分の事を棚に上げて言うのも烏滸がましいのですが、ギャンブルの対象であるボートレースにまで美を追求してしまうのは不遜でしょうか。 所詮はギャンブル。そこに身を窶す者としては儲かれば良いだけ…

汐の情景  二十六話

陰と陽。速さ遅さ。強さ弱さ、脆さ。これら世に現存する様々な対照は相反性だけを表すものではなく、それ自体が二極一対、表裏一体で、どちらか片方だけでは成り立たない、片方だけが存在する事は不可能だろう。 だが普通の人間なら良い方だけを選び、悪い方…

汐の情景  二十五話

まだ時間に余裕があった英和は帰る途中にそのまま村上と会う事にした。仕事の影響があるとはいえ、人と会う時は何時も夕暮れ時になる事を宿命と感じながら。 艶やかな髪を風に靡かせながら相変わらずの清々しい顔をして現れた村上の様子に不審な点はなかった…

汐の情景  二十四話

一行は後味の悪い思いで店を出て、親方の指示で一度事務所に戻った。閑散とした夜半の誰もいない事務所には仕事に使われる資材や道具などが淋しく横たわっていた。 静寂に立ち尽くす一同に対し、親方は満を持して辛辣な表情で問い質す。 「お前ら、何時もこ…

汐の情景  二十三話

工務店に新しい職人が入って来た。職人といっても素人の見習いで、大卒であるにも関わらず大工になりたいという単純な志望動機で入社して来たらしい。 村上健司というその男は実に礼儀正しく凛々しく聡明で、それでいながら可愛らしい顔立ちをしており、毅然…

汐の情景  二十二話

三章 風が吹き付ける。そして当たり前のように流れ去って行く。川水も、海の潮汐も、人も動物も時も、森羅万象全てが一時たりとも留まる事なく常に変化しながら生滅を繰り返し世の無常を物語っている。 不変性を夢見る者の心情に己惚れがあろうとも、そうあ…

今週のお題  ~私が三島由紀夫にハる10の理由

はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由」 風吹けば 靡く心の 潔さ(憫笑) 晩秋の候、皆様方におかれましては益々御健勝のこととお慶び申し上げます。 今日は久しぶりにお題に挑戦してみたいと思います。アホの一つ覚えで小説ばかり書いていて…

汐の情景  二十一話

英和としてはひとり酒に浸りたい気分だった。家ではなく店で。それは駅やパチンコ店などで感じる群衆の中の孤独感みたいなものだろうか。それを良質なもので提供してくれる場所も今では少なく感じる。 だがそれは裏を返せば自分の世界を見出し、確立する事が…

汐の情景  二十話

無気力無関心な為人でありながら正月が大好きであった英和にとって、昨今の日本の正月感の稀薄さは憂うるに足る空虚な淋しさを投げ掛けているように感じられた。 自分が幼い頃は駒回しに凧あげ、歌留多に百人一首に羽根つき、餅つき、そして年末年始恒例の大…

汐の情景  十九話

数日後の或る朝、英和は仕事現場へ向かう道中に車を運転していた康明の様子を訝らずにはいられなかった。 口笛を吹きながら運転する彼のテンションは必要以上に高く感じられる。車中に流れる音楽のボリュームも何時もより大きい。違和感を覚えた英和は素直に…

汐の情景  十八話

まだ日も昇らない外の仄暗い景色はその寒さと共に英和の純粋な焦燥を煽って来る。夢から覚めたばかりの彼には未だに現実との区別がはっきりつかないのか、まるで夢の続きを演じさせられているような思いで康明から訊いていた病院に急行する雰囲気が感じられ…

汐の情景  十七話

「はぁ~......」 道中で先程から何度となく耳にする義久の溜め息。英和には単にパチンコに負けた悲嘆だけを表しているようには思えなかった。 人が時として覚える嫌な予感とは当たり易いものなのだろうか。逆に良い予感などは当たらないどころか、した事す…

汐の情景  十六話

何も考えなくていい。何も思わなくていい。何も感じなくていい。そんな心理状況になれる場所とはどんな所だろうか。 出来るだけ広く、殺風景で、綺麗でもなければ醜くもない大した印象を受けない場所とは。例えば見渡す限り緑が広がる一面の野原。樹々や草花…

汐の情景  十五話

夜の帷が下りる頃、恋人達の心には自然と愛の焔が灯される。先程の黄昏れに物足りなさを感じ、亦煽動されるようにして英和と直子はまた無意識の裡に人目を避けながら現世のエリシオンを目指して歩き出していた。 吹き付ける風は二人の共通意識と相乗し不規則…

汐の情景  十四話

或る日英和は仕事の休憩中に親方である康明の親御さんから苦言を受ける。 「英和君、ええ加減博打は辞めといた方がええで、お母さんも心配しとうと思うし」 仕事以外、いや仕事も含めて苦言を呈された事など初めてではなかろうか。だからこそその言葉には何…

汐の情景  十三話

海中に見る美しい光景。小魚の群れが一団となって素早く華麗に舞い上がる姿は見るものを圧倒する。 まるで鍛え上げられた騎馬隊のような、或いは入念な稽古を熟した踊り子のような。この魚群というものはそんな練習でもした上でここまでの舞台を演じているの…

立冬 ~読書週間

晩秋に 凛と佇む 霜月よ(笑) いやいや、相変わらず短い春と秋という感じもしますが、移り行く四季にこそ日本特有の花鳥風月があると思えば謝意を示すに躊躇うものではありません^^ という事で(どういう事やねん!?)、久しぶりに小説以外の記事でも綴…

汐の情景  十二話

二章 送る月日に関守なし。気がつけば春、気がつけば夏、秋、冬と、人という生命には情緒的にも少し呑気な感傷にふける習慣があるように思える。 それは当然年齢にも直接影響して来る訳で、数えで25歳になる春を迎えた英和は花見の時期が終わった頃合いを見…

汐の情景  十一話

大会が終わって数日後、部活動が始まる前に顧問の先生が例の約束を果たしてくれる。てっきり大会場から帰る時に奢って貰えると高を括っていた英和はこの時間差攻撃を喰らわして来た先生のお手々に嫉妬してはいたものの、律儀に約束を果たそうとするその心意…

汐の情景  十話

或る日英和は何時も通っていた銭湯でばったり義久と出会う。彼の底を見せぬ相変わらずの無表情な顔つきには未だに釈然としないものがあったが、どうせパチンコで負けたであろうと予測する英和は貸した金が返って来る事に期待はしなかった。 風呂場に入った時…