人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

汐の情景  九話

後ろを振り返る事を嫌う者はいても、一度だけでも過去に戻りたいと思う者は結構な数で存在するのではなかろうか。 前向きな精神に虚勢を感じるとは言わないまでも、その人生に於いて只の一度も昔に戻りたくはないといった思想には多少なりとも無理があるよう…

汐の情景  八話

数ヶ月が経ち英和が高校一年生を終業した頃、家庭裁判所からの呼び出し状が届く。外はまだ少し寒い冬の面影を残し、吐く息の白さは一刻も早い春の到来を期待すると共に昨年度という過去に秘められた万感の思いを表すように自らを切なくさせる。 移り行く気節…

汐の情景  七話

幼い頃に夢や将来像を訊かれる事はよくあると思えるが、英和が夢見ていたものとは一体何だったのだろう。 思い起こしてもこれといったものは浮かんで来ない。強いて言えばバスや電車、船の運転手に、野球やサッカー選手などの如何にも男子が謳いそうな定番の…

汐の情景  六話

翌日も晴天だった。まだ少し眠気が残る英和ではあったが早朝の肌寒さはその身体に程好い刺激を与え、吸い込む空気は何時になく新鮮に感じる。 日も昇らない静寂に包まれた街並みに人影などは無いに等しく、車さえも殆ど走っていない状況は英和が乗る自転車を…

汐の情景  五話

景色が人の心に齎す影響力を数字に表す事は不可能と思える。無論そんな必要性などないとも思えるが、自然の情景は言うに及ばず、たとえ人為的なものであっても見惚れてしまうほどの深い感動を覚えてしまう事が人間の性ではなかろうか。 幸か不幸か結局雨まで…

汐の情景  四話

天為とも呼べる気象が時として思いも依らぬあからさまな意思表示をする事は往々にしてあるだろう。正に小春日和であったここ数日の穏やかな気候が俄かに曇り始めたのは何かの兆しを示唆するものなのだろうか。 とはいえ雨や嵐でもないこの現状は憂慮するにも…

汐の情景  三話

地元の者ばかりで形成されている公立中学と違い、色んな地域の者が通う高校には柵がないという点では幾分気楽な印象を受ける。 それまではどちらかと言えば自分に固執し過ぎていたような英和も羽を伸ばすといっては大袈裟だが、比較的自由奔放に高校生活を送…

汐の情景  二話

一緒に銭湯に行こうと提案して来た義久という友人は英和に輪をかけて口数の少ない人物であったが、一言に大人しいといっても少々短気な英和と比べて遙かに鷹揚なその為人は康明同様に或る意味では真逆なタイプのようにも思える。 それを証拠に恐らくは喧嘩な…

汐(しお)の情景  一話

一章 秋の夕暮れ時に吹き付ける少し冷たい海風は頬に心地よい刺激を与えてくれる。遙か彼方に佇む真っ直ぐな水平線と、薄っすらと覗く美しい稜線は幻想的に映る。 細めた目で遠くを眺めながら黄昏れていると自ずと切ない気持ちになり、向こう岸に見える淡路…

バス旅シリーズは面白い

人知れず 秋を儚む 天意かな(笑) 真に春秋の短さを感じているのは人間よりも寧ろ天、自然であるような気もしないではないのですが、実際にはどうなのでしょうか。 皆様お久しぶりです。ようやく落ち着いたのでまたブログに復帰しようと思います。 宜しくお…