人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

まほろばの月  五章

 

 

 世に蔓延る半端な悪は法の目を掻い潜り私服を肥し未だにのうのうと生きている。何時の時代もその犠牲になるのは弱者である。それは世論は言うに及ばず輝夜一家にとっても由々しき事態であった。

 阿弥は何時も思っていた。自分達がしている事は決して底の浅い短絡的な正義感から来る世直し隊などでは無い、ただ純粋に半端な輩が嫌いなだけである。言い方を変えると真の悪は寧ろ阿弥にも好印象を齎してくれる。しかし悲しいかな今の時代には真の善悪などは存在しないようにも思える。ならばこそ自分達が真の悪になってやろうではないか。窃盗をシノギとしている阿弥はあくまでも己が生業を悪と割り切っていたのだった。

 阿弥は次の的を決めた。悪徳金融、ヤミ金の類である。世間から見ればそんな所から金を借りる方が悪いというのが定説であろう。だが中には止む負えず手を出してしまった、もっと言えば嵌められた人までいる。

 阿弥はこれまでもヤミ金業者を的に掛けた事はあったのだが今回の敵は今までの相手とは違い少し大掛かりになって来る。その事を懸念した頭の英二は提言する。

「親分、本気ですかい? あの業者は今まで相手にして来た小者とは違いバックには三神会が付いているんですよ、言わば三神会の企業舎弟です、自分は勿論親分に付いて行きますが下のもんはどうでしょう」

「あたいもそれを考えていたんだ、だから今回は強制はしない、気が進まない奴は連れて行かないつもりだよ」

「そこまでの御決心ですか、ならばこれ以上は何も言いますまい」

「禁を犯す事になるな」

「いや、最初から本職を相手にする訳ではないのでそうはなりません、ただその後は難しい事になるでしょうけど」

「そうだな」

 行く道は行くしかないという阿弥の心意気は萎える事を知らず、一度決めた事は是が非でもやり通す気概は英二の深い懸念など意図も容易く封じてしまった。しかし英二にも阿弥の心中は手に取るように分かっており、敢えて念を押しただけの彼の思惑は却って阿弥の心を引き締める。

 無論この計画は今までにないぐらいに隠密を要し、一分の隙を許されない。一党は何時になく綿密な策を練り始めた。

 

 今年は冬の到来が早く感じられる。美しくも鮮やかな紅葉は既にその姿を隠し師走になったばかりの街には寒風が吹き荒れる。コートの襟を立てて家路を急ぐ人々の姿は清吾の心まで冷たくするのであった。

 あれから幾日が過ぎたのか。今となっては輝夜一家に身を置いていた事すら幻のように思える。破門された自分が如何に言葉を尽くそうとも許してくれる親分ではない。俺はこのまま堅気になって人並みの倖せを掴む事でしか親分に恩返しが出来ないのか。だがまだ若い清吾は全てを割り切って諦める事は出来なかった。

 波子に連絡する事も憚られる。日々を表の仕事に費やす事は今の彼にとって何の気慰みにもならない、だが打つ手も浮かばない。清吾が得意とするのは女だけであった、波子も恐らく自分の事を想っていてくれている。だが今会う訳には行かない。何をどうすれば良いのだ、錯綜する気持ちは更なる心の寒さを引き寄せる。

 そんな折清吾の下に一通の手紙が届いた。そこにはこう書かれてあった。

『久しぶりだな清吾、元気してるか? お前の処遇は訊いてある、下手打っちまったな、親分の言う事は正しい、だが、俺が手塩に掛けて育てたお前をこう簡単に見捨てる訳には行かなねえ、そこで考えた事がある、詳細は三日後の夜、お前の地元である熱田神宮で話す、分かったな』

 この手紙の主は明らかに頭の英二に依る執筆であった。これを読んだ清吾は喜び勇んで己が人生を全て英二に委ねる気になっていた。これは単なる英二の清吾に対する優しさと己が矜持を示したいだけなのか、いやそんな頭ではない、この事は親分に対する気遣いでもあるに違いない。繊細さでは一家随一とも謳われる英二の策は清吾の心を癒やしてくれるに違いない。三日という時間はあっという間に訪れた。

 

 冬の夜の神社は底冷えする程寒い。猫でさえ身を縮めさせ草陰に隠れる。でも猫を真に脅かしたのは寒さではなく英二の気後れするような箔の付いた貫禄であった。

 彼はこの夜の冬空の中にも黒ずくめのスーツ姿でサングラスをかけ厳つい容姿であるのだが、それとは裏腹に忍者のような素早い辺りを警戒する仕種は流石で、一時裏の仕事をしていなかった清吾怯えながらもただ感心するだけであった。

 清吾の姿を確かめた英二は社の壁に隠れ陰から事を告げる。

「清吾、二度は言わねぇ、今度の仕事お前にも手伝って貰う」

 久しぶりの再会に気が逸った清吾は思わず我を忘れ英二の顔を確かめに行く。

「コラ! 下手打つんじゃねーよ、そこでじっとしてろ、お前も繋ぎ役をしてたんだからそれぐらいの事は分かるだろ、絶体に気取られては行かねー!」

「すいませんでした、俺とした事が」

「落ち着いて訊けよ」

「はい」

「お前だいの女好きで女を手籠めにする事は得意だったよな」

「それはまぁ~」

「そこで一計を案じたんだ、今度の仕事はヤミ金業者だ」

「え! 本職には手を出さないのが掟じゃないですか!?」

「あぁ、でも親分の心意気は相変わらず大したもんだ、そこに惹かれたのは俺だけじゃねーだろ」

「確かに自分もそういう親分だからこそ一家に入れて貰ったんです」

「だよな、そこで策というのは他でもない、まずお前にやって貰いたい仕事はヤミ金業者の被害に遭ってる女を味方に付けて欲しいんだ、そして奴等の内情を訊き出す、勿論これだけでは生温い、体を売った女も数知れない筈だ、その辺の情報を抜かりなく手に入れて欲しいんだよ」

「なるほど、流石は頭、自分なんかとは出来が違いますね」

「感心してる場合じゃなーぞ」

「分かっています、被害女性だけではなく、奴等の囲っている女も味方に付けろと仰るんですね」

「分かってるじゃねーか、流石は俺が見込んだだけの事はある、じゃあ頼んだぞ!」

「委細承知しました」

 清吾は英二から齎されたこの仕事と彼自身が漂わす未だ自分に対して気を遣ってくれる心持が実に有難い。得てして人間の気持ちというものはそうしたものかもしれない。これは清吾だけではなく英二の思惑、それは取りも直さず阿弥の胸中にも達して行く事象で、この事を巧く纏めた英二の策は精妙で素晴らしい。彼の策に感心すると共に清吾には新たな野心も芽生えて来る。

 清吾はこの策を成就する事が出来るのだろうか。清吾は空を見上げ今宵の満月にもう下手は打たない、今度こそが正念場である。頭が与えてくれた最期のチャンス。これを全うしないままでは死んでも死に切れない。

 この覚悟は威風堂々とした満月に反射して清吾自身に帰って来るのであった。

 

 

 

 

 

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まほろばの月  四章

 

 

 疾風迅雷。阿弥率いる輝夜一家はその後も大阪、広島、福岡そして宮城と、この四場の仕事を計画通り一気に成功させ東京に帰って来た。今回の成果は総額8000万円と実に上々の出来であった。既に隠れ家には宴席が設けられ一行は旅の疲れを癒やすべく豪勢な料理を召し上がり酒を飲みながら互いの苦労を労う。東京で留守を守っていた頭の英二が音頭を執る。

「親分、ご苦労様です、何時もながらの見事な仕事っぷり流石で御座います、みんなもご苦労だった、今宵は大いに飲んで食べて語らってくれ」

「へい!」

「頭、留守居役ご苦労だったな」

「有り難う御座います、ところで清吾の顔が見えないようですけど」

「あいつは破門にした」

「そうですか、惜しい人物を失いましたな~」

「あぁ、でも仕方ねーよ、波子も一時謹慎だ」

「そうですか」

 この英二もまた阿弥の心意気に惹かれて一味に加わったのだが、元ヤクザである英二の風格は阿弥に勝るとも劣らず、他のメンバー達は彼の存在自体に恐れを成す程で組織の厳粛化には欠かせない人物であった。

 阿弥の隣に座していた英二は改めて口を切る。

「親分、清吾の破門解く訳には行かないですか?」

「それも考えてる、だが今直ぐって訳には行かなねーだろ、折を見て解くつもりだが勿論条件がある」

「あいつの半端な性格ですね」

「そうだ、今のままのあいつでは話になんねー、別に波子と付き合う事が悪いって言う訳でもねー、あいつはどう見ても堅気の人間だよ」

「確かに......。」

 英二は訊くまでもなく親分の思惑に感づいていた。だが敢えて訊く事に依って親分の本心を炙り出したかったのだが流石は阿弥、全く隙を見せないその物言いは事の本質には到底辿り着かない。英二は己が行為を恥じていた。

 もし阿弥の真意が組織の掟の他にあるとすれば流石の英二にも分からない。阿弥と清吾、波子、この三者の境遇とは一体どういうものなのだろうか。もしかすると阿弥本人でさえ知り得ぬ事であったのかもしれない。

 

 秋の装いは未だ続いており紅葉、人々の快活さ、虫や鳥の鳴き声は正に花鳥風月、四季に恵まれた日本の美そのものであった。

 病院を後にした波子は家に帰り今回の下手打ち、そして自分の半生を振り返る。酒が飲めない彼女はお茶を飲みながら暗鬱な想いに耽る。まず自分の落ち度としては清吾と裏で通じ合っていた事、そして清吾を動揺させた事が全てであった。普通の男女ならごく当たり前の事かもしれないが、裏の仕事を持つ者としてそれが仕事に影響してしまったのは明らかな失敗であり弁解のしようもないぐらいである。だがそれを謹慎程度の処分で済ませてくれた親分には頭が下がる。波子は阿弥の情けだけを有難く汲み取っていたのだった。

 そんな波子の半生も阿弥や英二に引けを取らない程の凄まじく数奇なもので、彼女はまず両親を知らない。生まれて直ぐ捨てられ施設の世話になっていた彼女には親というもの自体が何なのかが分からなかった。

 その後養子に出されたのだがそこでも過酷な生活は続き、彼女は更なる絶望のどん底に叩き堕とされる。義父からの虐待に強姦は幾日も続き彼女が死のうとした事は数え切れない。しかし義父は死ぬ事さえ許してはくれずその悪行は執拗に繰り返される。

 役所は無論、警察でさえ何もしてはくれない。そんな中、波子が12歳にの頃、阿弥に出会ったのだった。今から10年前、阿弥は虐待狩りと称して全国を飛び回っていた。組織の情報網は凄まじく波子の家にまでその手を伸ばした阿弥達は義父を一瞬にして叩きのめし、波子を浚(さら)い東京へ連れ帰り自分の下で育ててくれたのだった。

 波子が看護師になれたのも全ては阿弥のお陰で、阿弥は彼女を実の子のように可愛がってくれた。こうして二人は道を同じくする事になったのだが、そこに清吾のような出来損ないが混じって来たのは二人にも想定外だった。でも清吾の腕と気さくな性格に感心した阿弥は彼を一味に加えてしまう。この時点で阿弥にも人情があった事は確かであろう。だが阿弥ほど女を見せない人とは違い波子は清吾に対し女を見せてしまった。

 今思えばこれこそが最大の失敗であったのかもしれない。波子はお茶を飲み終えると同時に床に就くのであった。

 

 今の所次の仕事は無かった。表の稼業である居酒屋の店主に精を出していた阿弥は常連客達から問い詰められる。

「阿弥ちゃ~ん、何で1週間も休んでいたのよ? 俺達は愛想尽かされたの? 淋しいかったよ~」

「何言ってんすか兄さん、野暮用ですって、だから今日もこうして店開けてんじゃないですか」

「野暮用って男だな」

「違うってば!」

「ほらムキになった、阿弥ちゃんはほんと正直だから、でもそんな阿弥ちゃんだからこそみんなも好きなんだよな、取り合えず元気そうで何よりだよ」 

 阿弥は1週間振りの開店だけあって精一杯の手料理で客をもてなした。みんなは美味しそうに食し大いに盛り上がる。そこには阿弥が一時裏稼業の困難を忘れさせてくれる明るさがあった。

 何時になればこんな暗い稼業から足を洗う事が出来るのか、ふとそんな憂愁に陥る彼女であったが本懐を遂げるまではこんな弱気ではダメだ、たとえ自分が死んでしまう事になってもその想いだけは遂げなくては自分は勿論子分達にも示しが付かない。

 酒に強い阿弥は客勧められた酒を飲みながらも己が目的だけは凛として持ち続けるのであった。

 然るに人の上に立つ者の器量というものは一体どのような事を指すのであろうか。この阿弥の男勝りな気性と隙のない周到さ、これらは裏稼業をするに当たっては至極当然でこれが無くては話にもならない。それに加えて頭の英二の貫禄、各地に散らばる一党の絆。これら全ての力が合わさって初めて組織な成り立つ。

 でも今回のように清吾を破門にした事に依って頭が多少なりとも動じていた事も事実で、口に出さずとも他のメンバー達の動揺は手に取るように分かる。

 仕事は成功を収めたが今回醜態を晒した事は全て阿弥自身の行いに起因するのではなかろうか。敗軍の将は兵を語らず、阿弥は己が短慮を清吾と波子の二人に罪を着せてしまったのではと悔恨の念に駆られていたのだった。

 

 風化雪月。晩秋を迎える頃、花や、人、動物と同じく月もまた、自然の理(ことわり)を表すように四季折々の美しい姿を天に映す。

 満月の今宵、阿弥は次なる的を絞っていた。これも勿論理に適った仕事ではある。この神秘な月灯りは阿弥だけだはなく清吾、波子、この二人の目にもはっきり見えている筈だ。三人は己が想いを託すべく月を仰ぎ見るのであった。

 

 

 

 

 

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まほろばの月  三章

 

 

 清吾の憂慮も他所に時間は刻々と進み、冴え冴えとした月に見守られながら一行は出発した。 車の中でも清吾と波子は一切口を利かずにただ仕事の段取りだけを考えている。そうする事でしか気持ちを紛らわす事は出来ない。阿弥はあくまでも悠然と構えている。その姿はまるで不動明王のような佇まいで一行の気を安んじてくれる。清吾はいくら親分であるとはいえ、女である阿弥と己が器の違いに愁嘆していた。

 目的地に着いた一行は東京の時と同じようにして店の前で監視し頃合いを見て襲撃する。息を殺すようにして物音一つ立てずに押し入る一味。この忍者のような華麗にも俊敏で一糸乱れぬその技は彼等の鍛え抜かれた身体、研ぎ澄まされた神経、そして固い絆の賜物であった。

 一軒目では難なく事を成就させ金とカードを奪い取る。怒りと恐怖に錯乱している店の者を後目(しりめ)に清吾は

「ざまー見ろコノヤロー!」

 などと悪口を叩いてしまった。阿弥は車の中で彼を咎める。

「コラ清吾、余計な事言ってんじゃねーよ、あたい達は何があっても感情を表してはいけない、動じてはいけねーんだよ、今更言わせんなよ!」

「すいませんでした」

 そのやり取りは爆竹の轟きに依って沈静化されてしまったが、清吾の動揺は明らかなもので、それを感じ取った阿弥は次は許さないと彼に念を押した。

 それでも二軒目、三軒目、四軒目と無事に仕事を終えた一行は最後の五軒目に備え改めて気を引き締める。上弦の月も未だその緊張感を緩めてはいなかった。

 

 最後に襲撃する『ブラッド』という禍々(まがまが)しいその屋号は一行の表情をも少し曇らせた。こんな名前を付ける店主の気が知れない、亦こんな店を訪れる客も客だ。こんな店にこそお仕置きが必要だと言わんばかりに一気呵成に襲撃する一味。その姿はさながら戦国時代の武将のような勇ましい漂いがあった。

 真っ先に店主を縛り金を要求する。すると案の定奥から屈強でガラの悪そうな三人の男が現れた。そんな事にも一向に怯まない一味は三人を容赦なく打ちのめし手足を縛り上げ大人しくするよう促す。店主を含めた四人の男は潔く諦め縛に就いた。

 この店には金庫もあると訊いた一味は奥の部屋に足を進める。そして難なく聞き出した番号で金庫を開け金を奪う。するとその部屋の片隅にあったトイレから出て来たもう一人の男が銃を弾いた。

 一味は紙一重でその弾丸を躱し男を一気に畳み込んだ。だが掠り傷を受けた清吾が痺れを切らしナイフで男の腕を切ってしまった。

「痛てぇ~!」

 夥しい鮮血が吹き上げる。阿弥は清吾を殴り飛ばし子分に傷の手当を命じる。布を強く巻き一応止血はしたものの、このままでは何れ出血多量で死んでしまう可能性もある。阿弥は致し方なく男を車に乗せ病院まで運んでやる事にした。清吾はただ項垂れている。他のメンバーはこの期に及んでも尚冷静な雰囲気を崩さないままで男の容態を看ている。

 車を出してから最初に目に着いた病院で阿弥はその男に改めてこの事を内緒にするよう念を押した上で男の身柄を解放した。仮に男が謳った所で足が付く恐れは無いのだが念には念を入れる彼女の思惑は流石であった。

 その後掟に従い一行は散って行くのだが、清吾と波子は阿弥に同行するよう命じられる。明け方の隠れ家で阿弥は今にも沈まんとする月を眺めながら口を開いた。

「清吾、お前破門だ、波子は謹慎、無論ケジメを付けた上でな」

「親分ほんとにすいませんでした、全て自分の責任です! ですから処罰は甘んじて受けます、でも波子には何の咎もありません、どうか波子は勘弁してやって下さい!」

「ダメだな、お前達の事あたいが知らなかったとでも思ってんのかおい、お前もそこまで馬鹿じゃねーだろ、それなのに何で黙認してたか分かってんのか?」

「それは.......。」

「そうだよ、今までは下手打たなかったからだよ、それが今日は何だ、お前二度もやらかしたんだぞ、ただで済む訳ねーよな」

「その通りです、でも波子までは」

「いや、波子の事を想った上で所業だろ、お前は東京ではこんな下手打たなかったしな、でもそれを見切れなかったあたいにも非はある、だからあたいも今回の仕事を終えたら一時大人しくしてるつもりだ」

「でもそれでは親分が本懐を遂げる事が出来なくなって.....」 

「黙れ! 物事には順番があるんだよ、足元が崩れちまったら本懐もクソもねーだろーが、何れはそうするんだからお前が心配する事じゃねーよ」 

「親分......。」

「分かったな波子」

「はい、承知しました」

 阿弥は月が完全に姿を消し去る前に二人処分を下し、己が想いまで告げたのだった。翌日清吾は掟に従い組織の中で厳しいヤキを入れられ、波子も軽くヤキを入れられた後二人は別れる事になった。

 他のメンバー達は掟に従ったとはいえ涙を泛べる者もいる。そんななか阿弥は終始冷静沈着な様子を保っていたが彼女とて一人の人間であり一人の女でもある。そんな彼女に全く動揺する気配が無かったとは言い切れまい。だが阿弥は子分達の前では決してその感情を表す事は無くあくまでも氷のような冷たい表情を見せるのであった。

 

 裏の仕事を失った清吾は呆然とした毎日を過ごす。家業の土建業には一切身が入らず仕事に出ても失敗する事が多くなっていた。そんな清吾の姿を慮った仕事仲間達は口々に言う。

「お前どうしたんだよ、最近おかしいだろ、何かあったのか?」

 清吾はただ

「ごめん、別に何もないけどさ、頑張るから」

 と誤魔化すしか道は無かった。だが阿弥に対する想いは未だ消えず、破門された今となっては尚、彼女を慕う気持ちが日に日に増して行くようにも見える。それは勿論阿弥を女としてではなく一人の人間としてリスペクトする彼の純粋な心の表れであった。

 他方謹慎を言い渡された波子は稼業の看護師の仕事に精を出していた。波子は清吾ほど落ち込んではいなかったが、彼との仲は言うに及ばずやはり阿弥の事は気に掛かる。波子は先の一件で男の腕の傷の止血をしたのだが敢えて完全な止血はせず、曖昧なやり方をしていたのだった。それは取りも直さず完璧に止血してしまったのでは男に医療関係者である事がバレる可能性がある。それを憂慮した波子も流石なのだがその事を翳で意図せず命じていた阿弥も流石と言わねばなるまい。

 一分の隙さえ許されない一味には当然の事なのだが、清吾の動揺に対しここまで平然と任務を遂行出来る波子の周到さ、芯の強さは何処から来るのか。清吾への愛、阿弥への尊敬や忠誠心。いや、そんな軽いものでは無い。であるとすれば阿弥と同じく彼女の壮絶な生涯が齎す事象に殉ずる結果であるのだろうか。

 何れにしても波子と阿弥は数奇な因果に依って必然と結ばれた仲であるようにも思える。この日病室で患者から採血をした波子は己が心に誓うのであった。『この深紅の血は生きとし生けるもの全てが持って生まれたものであり、注射の針を入れた時たとえ一瞬でも痛い表情を表す神経と血こそが生きている証拠である』生来優しい性格の波子はこの想いを阿弥に訴えると共に清吾に対しても感じさせてあげたい。

 謹慎を余儀なくされた波子は今にして我に還ったような正直な気持ちが芽生え徐に天を見上げる。

 緊張から解き放たれた下弦の月は優しさを投げかけるように波子の心を癒やす。この月の満ち欠け、自ら体現するその様は人にどういう心境の変化を齎すのだろうか。波子の心情は美しい月の姿に関係なくただ純粋で正直な気持ちを育むだけであった。

 

 

 

 

 

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まほろばの月  二章

 

 

 繋ぎ役を任された清吾は各地に散らばる一党に連絡を入れ段取りを告げる。親分の阿弥が率いる東京を皮切りに名古屋、大阪、広島、福岡、宮城といった順番で仕事に着手する。無論地方には阿弥自らが出向く。それまでに入念な、いや完璧な下調べをしておく事を指示する清吾。

 名古屋支部で働く波子は仕事の趣旨、つまり阿弥の意向を素早く汲み取り今回の仕事には実にハリキっていた。気が逸って仕方がない、彼女は何時も以上の素早い動きで店の内情に探りを入れ皆と共に計画を練り上げる。後は親分の到来を待つばかり、しかし久しぶりに仕事を同じくする清吾の事は心配でならなかった。

 阿弥が提起したから丁度十日、全ての段取りが決まった。的に掛けられた店は東京が10軒、地方はそれぞれ5軒。何れも悪評高いトップクラスのぼったくりバーで決行日時は東京が今夜で名古屋が翌日、大阪が明後日と連日立て続けに取り行い、深夜2時から明け方までの間に迅速に事を済ませる。やり方は店主を襲い金やカードを奪う、店に金庫がある場合はそれも悉く奪い尽くす。何時も通りのシンプルなやり方であった。

 

 街路に佇む色鮮やかな紅葉は可憐な中にも憂愁を漂わす。この日表の仕事を終えた一行は気持ちを切り替え、徐に隠れ家に集結する。彼等の顔は昼間とは全くの別人のように見える。鋭い目つきで強かに辺りを警戒するような仕種は正にこれから犯罪に手を染めんとする殺気に充ち溢れているが、世論はどうあれその崇高な志には決して悪意などは微塵も無く、寧ろ純潔な魂を秘めている。いくら窃盗集団であるとはいえこの矜持に依って一同は阿弥の下に心を同じくして仕事に勤しむ事が出来たのだ。

 阿弥が口を切る。

「行くか」

「へい!」

 この一言に依って一行は動き出す。お決まりの黒ずくめの装備に身を包んだ一行は車に乗り込み目的地に赴くのであった。

 まずは一軒目、深夜2時過ぎに着いたその場所から店の様子を窺う。まだ灯りが点いている。だが直ぐ様店の女の子らが帰って行った。それから敢えて5分待ちもう店終いする事を確信して一行は押し入った。

 兵は神速を持って尊しと成す。阿弥を先頭に押し入った一行は素早く灯りを消し店主に一撃を加え羽交い絞めにし、携帯電話を奪った後、ナイフを突きつけ脅しの文句を浴びせる。

「金とカードを出せ、金庫はあるのか?」

「何だお前ら!?」

「いいから早くしろ! 騒ぐと命は無いぞ!」

 すると奥から屈強な物々しい男二人が出て来て暴れ出す。一行はそれにも全く動じず一瞬にして二人も店主と同様に羽交い絞めにして身動きが取れない状態にする。

 その華麗なやり口に圧倒された男達は観念して金とカードを差し出した。金庫には僅か200万円しか入っていなかった。阿弥は言う。

「いいか、絶体誰にも言うんじゃねーぞ、そしたら警察にもお前らの悪行は黙っておいてやる、そしてこれからは真っ当な商売をするこった、分かったな!」

 その後三人の男を気絶させた一行は素早く車に乗り込み次の的へと足を運ぶ。こんな時でさえ阿弥は爆竹を鳴らす事を躊躇わなかった。その爆音は店を嘲笑うようにけたたましく鳴り響いていた。

 こうして次の店、次の店と一行は僅か1時間半、一軒当たり約10分の速さできっちり10軒の店を襲い仕事を成功させる。何時もの事ながらそのやり方は実に見事であった。

 だが阿弥は全く達成感に酔いしれる事もなく

「明日は名古屋だ、気合入れておけよ!」

 と檄を飛ばすのであった。

 

 翌朝も快晴で秋の装い満ち足りた山々は優雅に聳え立ち、街には快活な表情を浮かべファッショナブルな出で立ちで陽気に歩く人々が微笑ましく映る。

 清吾は家業である土建業の仕事で汗をかいていた。昼休みにみんなと語らっていると一人の職人がネットで見たニュースの話を口にする。

「おいこれ見ろよ、ぼったくりバーに強盗侵入だってよ、凄いな~、いくら取ったんだろうな、でもこんな店なら誰も同情なんてしねーよな、いい気味だぜ」

「そうだよ、はっはっは~」

 清吾は彼等の話題には口を差し入れなかったが、腹の中では自分達のした行為は間違ってはいなかっただと改めて確信する。だが何時までもこの話題を訊いているのも心苦しくなった清吾は違う話をし始める。

「ところで昨日の野球、巨人は強かったな~、あのピッチャーは流石だよな」

「そうだな、あの人のお陰で巨人は今年も優勝かな」

 こんな在り来たりな会話で己が気持ちを紛らわすのも裏の稼業を持つ一味には結構重要な事で彼等には正に文武両道、知勇兼備な才覚が必要とされていたのだった。

 しかし、

「で、清吾よ、お前何時になったら結婚するんだ? もういるんだろ? 隠すなよ」

 仕事仲間がたまに言うこんな問いにだけは何時も動揺してしまう清吾。彼はいざ女の話になると口を噤んでしまい顔を赤くさせてしまう。そして

「お前はほんとに正直な奴だな、バレバレじゃねーか」

 とみんなに笑われる事に依って自分も愛想笑いをする。こうして気持ちを誤魔化すのであった。

 だが今夜は名古屋で波子と会わねばならない。電話ではしょちゅう話している清吾も実際に会うとなると嬉しいやら悲しいやらと心は搔き乱される。まして裏の仕事となれば尚更失敗は許されない。しかしいくらプロの窃盗集団とはいえ己が惚れ抜いた女と会い平静を装っていられるものなのか。久しぶりに波子と一緒に仕事をしなければならなかった清吾はプロらしからぬ動揺に襲われていたのだった。

 

 そして表の仕事を早終いした清吾は1週間の休暇を貰い、他のメンバーも同様にして名古屋に向かう。夕方前に新幹線に乗り込んだ一行は霊験あらたかな富士のお山を遠目で眺めながらこれからの仕事が成就する事を心の中で祈願する。富士はあくまでも雄大にして壮大な威風堂々たる姿を彼等に見せつけていた。

 清吾も『そうだ、俺も一々葛藤していてはダメだ、この富士山のように堂々としていなければ』と己が自身に言い聞かせていた。

 夕方7時前に名古屋に着いた一行は各地にある隠れ家に赴く。そこには既に名古屋支部のメンバー達が準備万端、車や道具は勿論、一行の食事の用意まで済ませて待っていた。

「阿弥姐、お久しぶりです、手筈は整っております」

 と挨拶をする者。阿弥はみんなの顔を見て

「おう、久しぶりだったな、今日は頼むぜ!」

 と隙のない様子で声を掛けた。

 名古屋には阿弥と同じく紅一点、美しい姿を漂わせる波子がいる。波子も阿弥に勝るとも劣らない美形でその麗しい顔と容姿は男だらけの組織の中で一際輝いて見える。ただ一つ阿弥との決定的な違いはその大人しくて控えめな性格であった。

 こんな女性が何故窃盗集団になど入っているのか。それは阿弥と清吾しか知らない過酷で悲惨な生い立ちから発するものであったが、この波子もまたみんなと同じく阿弥の心意気に惚れ込んで一味に加わった一人であった。

 一同は旧交を温めるようにして語り合いながら食事を済ませる。そして仕事の段取りの話を詰めて行く。この間清吾と波子は一度も顔を合わせずに黙々と訊いていた。阿弥はそんな二人の様子を怪訝そうに見つめる。察しの良い二人は当然阿弥に見られている事にも気付いている。それでも二人は無論、阿弥も何も言わずにじっとしていた。

 上弦の月はその張り詰めた姿を清吾と波子、そして阿弥の思惑になぞるようにして天高く現わしていた。この緊張感は彼等にどう影響して来るのであろうか、清吾はこの時ほど月灯りが鬱陶しく思えた事は無かった。

 

 

 

 

 

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まほろばの月  一章

 

  

 日中燦然と照り輝く太陽に対し夜に冴え冴えしく映える月。太陽の陽射しが力強さの象徴とするならば、月の光彩は万物を優しく癒してくれる美の象徴にも思える。そういう意味では太陽は男で月は女と言っても過言ではない気さえする。

 彼等が仕事に赴く時間帯は専ら夜であった。現代の鼠小僧を気取るこの窃盗集団は名を輝夜一家と称し女親分である十六夜(いざよい)の阿弥を始め、頭(かしら)の夜桜英二、子分の直、竜太、清吾、他から成る構成員と全国各地に散らばる一党を含めれば約100人規模の反社会勢力を築いていた。

 この盗賊のスローガンは当然強気を挫き弱気を助ける、そして生殺与奪が御法度なばかりか犯さず傷つけず、本職の極道とも一切関わってはいけないという厳しい掟が強いられていた。無論その事に異を唱える者など一人もいない。一行は阿弥の下に一致団結、強い絆で結ばれていたのだった。

 阿弥は言う。

「とにかく半端な事だけはするな、掟は絶体だ、もし下手打った奴がいたら法が許してもあたいが許さない」

 男勝りな阿弥が言うと実にそれらしく聴こえる。みんなは阿弥の風格や聡明さは言うに及ばず、強気な性格とは裏腹なその美しさにも惚れ込んでいたのだった。

 

 この日の的は俗に言う悪徳リフォーム業者で、彼等があくどく稼いだ金を丸ごと掻っ攫う仕事であった。阿弥は何時も苛立っていた。

「何でこんな奴等がのさばってんだおい、半端にも程があるよな、こんな奴等ぶっ殺しても飽き足らねーが、捕まる前にお仕置きをしねーとダメだろ!? なーみんな!」

 一同は阿弥に賛同し計画は素早く練り上げられる。阿弥は長い髪を巻き上げ鋭い目つきで計画を確認し、みんなと同じ黒ずくめの作業服を身に纏い革手袋に黒のブーツを穿いて気合を入れる。そして頭の英二が念を押す。

「お前ら、二度は言わなねえ、事務所の金庫をそのまま奪ったら爆竹を鳴らして散らばって帰る、そして明日は家から一歩も外へ出てはならない、分かったな!」

「へい!了解しました!」

 深夜2時、一行は黒のハイエースに乗り込み極力公道を避け細い裏道ばかりを走り目的地である悪徳業者の事務所に着く。そこで窓硝子を切り抜き窓を開け部屋に入る。金庫は間抜けにも何の被覆もされぬまま部屋の片隅に堂々と佇んでいる。

 このおよそ50kgほどの重たい金庫を予め用意してあった何重にも重ねた布団目掛けて3階の事務所の窓から放り投げる。多少の音は感じられたものの気になる程ではない。そして爆竹を鳴らして立ち去る。この爆竹は阿弥が思い付いた悪に対するせめてもの挨拶のようなもので、これに依って足が付く危険性は否定出来ないものの彼女ならではの粋な計らいでもあった。無論これで捕まった者も今の所は一人もいない。

 一行は颯爽と現場を後にして立ち去る。その様子はさながら時代劇に出て来る盗賊顔負けの俊敏にも鮮やかで痛快な光景である。仕事は無事終了した。後はこの金庫を開け金を独自のルートでロンダリングしてみんなに分配し、残りの半分超を世間にばら撒くだけだ。

 今回の仕事の成果は3500万円。その内1500万をそれぞれの割合で懐に納め後の2000万を被害を被った人達には勿論、弱者にばら撒く。そのばら撒き方は至ってシンプルなのだが、各々の感性に任せ或る者は年寄りに、或る者は生活が困窮しているでろうシングルマザーに、また或る者はそのお人好しな性格が災いし事業に失敗したような実業家などに直接渡す者もいればポストに投函する者もいる、といった少し原始的にも大胆なばら撒き方であった。

 

 一仕事終えた後は一時仕事をしないのも掟であった。この間彼等は正業、いや副業に勤しむ訳だが金には困っていない彼等がする仕事といえば実に自由奔放な職種ばかりで或る者は清掃員、或る者は家業の土建行、或る者は絵描き等、そして阿弥のもう一つの姿は居酒屋の女店主であった。

 阿弥の店は街はずれの少し淋しい場所にあったが訪れる客は実に朗らかで、何の屈託もない話し方はまるで家族同然の暖かさを漂わす。店で出されるメニューは勿論阿弥の手料理ばかりで客は何時も美味しそうに食べてくれる。

「阿弥ちゃん、あんたほんとに料理が巧いんだな~、それなのに何で未だに独りなんだよ? 勿体ないな~」

 常連客の間ではもはや口癖のように謳われるこのベンチャラは男気の強い阿弥の心をも些かなりとも動じさせる。確かに未だに独り身である事はおかしいかもしれない。でも裏の仕事の関係上、誰かと夫婦になる事には差支えがある。この盗賊一味の中で既婚者は一人もいない。それは掟には入っていなかったが暗黙の了解で親分が独りなのに結婚する訳には行かないという各々の思惑から来るものであった。

 だがその禁を冒すような行為に興じていた者もいるには居たのだった。末端の構成員である清吾は部類の女好きで彼が交際して来た女性は25歳になる今までの間に軽く10人を超えていたのだった。

 みんなに隠れてお忍びで付き合っていた波子。彼女もまた輝夜一家の構成員であったが地方に散らばる準構成員であった波子との関係は調べても分かるまい、と浅はかな考えから至った交際でもあった。波子は何時も心配そうに言う。

「清吾、こんな事何時までも続けられるとは思えないわ、もう別れた方がいいんじゃない?」

 清吾は優しく言いくるめる。

「そんな心配は無用さ、男女の付き合いまでは禁止されてはいないんだ、もしバレそうになったら寧ろ俺は正直に親分に白状するつもりだよ、だから安心しなって!」

 こう言われると波子は何も言い返せない。そして熱く抱き合う。この二人の逢瀬は今に始まった事でもなく清吾が親分の心意気に惹かれ一味に加わった二十歳の頃から続いていた恋でもあった。

 聡明な阿弥が5年もの間、この二人の間柄に気付かない事も不自然ではある。清吾はこの事を何時告げるべきか迷っていたのだった。

 

 秋になり街が色鮮やかな紅葉で覆われる頃、次なる標的が決まった。ぼったくりバー、阿弥は同じ飲み屋を経営する立場として客から法外な料金を掠め取るこの卑しいやり口が許せなかった。だが今回は一つに纏まった事務所ではなく数ある店を一軒一軒虱潰し(しらみつぶし)に型に嵌めて行かなければならない、となると当然各地に散らばる一党にも声を掛ける必要がある。

 一味はそれと無く聞き出した一般人からの口コミやネットでの情報を得て店を搾り計画を練る。目敏い一味はそれを難なく遂行し店にも警察にも感づかれぬままに段取りを取り纏めた。ここまでは流石というしかない。

 各地への繋ぎを任された清吾は大いに葛藤する。波子が心配していた事が現実になってしまうのか。だが清吾も波子も名うての盗賊で誰にも気取られるずに事を成す自信はあった。

 今宵は三日月が美しく映える良夜(りょうや)であった。一竿風月、とは言わないまでも清吾は呑気に波子の事を思い浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

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ヨーロッパ戦勝記念日 ~薬師縁日

 

  

                                  薄曇り  舞う鯉のぼり  何想う(笑) 

 

 いよいよ今日明日でGWも完全に終焉ですか~。つい十日程前に「GWの心得」なる記事を綴ったのが懐かしいぐらいですけど。本当に月日の経つのが早過ぎます。年老いた証拠ですかね。

 ま~自分は子供の頃からこんな事ばかり言っていましたけど。生来ナマクラであったというか日常(平日)が嫌いというか、とにかく過ぎた事ばかりに目を当ててしまう癖があります。要はメンタルが弱いのでしょうね、情けない話です 😢  

 鯉のぼりのようにもっと元気に勇ましく生きて行かねばなりませんね。

 という事で(どういう事やねん!?)、今日5月8日の記念、行事などについて書いて行きたいと思います。

 

ヨーロッパ戦勝記念日VEデー) 

 1945年(昭和20年)のこの日、第二次世界大戦を起こしたドイツが、連合国軍に対して降伏文書に調印して無条件降伏した。

 連合国がヨーロッパにおける勝利を記念して設けた日で、「VEデーVictory in Europe Day)」とも呼ばれる。1945年(昭和20年)のこの日、戦勝国では各地で大規模な祝典が開催された。特にロンドンは盛大で、厳しい経済環境の中、100万人以上の群集がカーニバルのような雰囲気の中で欧州戦線の終わりを祝った。

 連合国軍はドイツが降伏した後も日本との戦争を続けたが、1945年(昭和20年)8月14日、日本政府はポツダム宣言を受諾し、翌15日の正午に昭和天皇による玉音放送により日本が無条件降伏したことが国民に伝えられた。そして、1945年9月2日に、日本政府は日本の降伏文書に調印し、第二次世界大戦終結した。

 日本では、ポツダム宣言受諾を国民へ知らせた玉音放送が行われた8月15日が「終戦の日」とされている。一方、連合国では、日本政府が降伏文書に調印した9月2日が「対日戦勝記念日」、または「VJデーVictory over Japan Day)」と呼ばれている。

 

 とあります。 ま~のっけから硬い話で恐縮なのですが、これはヨーロッパの話で確かにドイツは降伏しましたが、現在のヨーロッパに於けるドイツの立ち位置などは日本のそれとは比較にならない程の恵まれた環境で素晴らしい国だと思えます。

 戦争が絶体悪である事は言うに及ばず、戦勝国があれば敗戦国が存在するのも当たり前で、太平洋戦争、第二次大戦以前にも敗戦国はいくらでも存在します。特にナチスドイツの酷さは他に類を見ないほどであったと思いますが。

 それなのにいくら昔の日本軍が調子に乗り過ぎて世界でも唯一の被爆国であるとはいえ、戦後の日本ほど卑屈に見えてしまうものも無いような気もします。この辺りが東洋と西洋の文化の違いでもあるのでしょうか。硬い話はこれぐらいにしておきたいと思いますが、どうしてもここを避けて通る訳には行きませんね......。

 

松の日  

 1989年(平成元年)に社団法人「日本の松の緑を守る会」が制定。

 1981年(昭和56年)のこの日、初めて「日本の松の緑を守る会」の全国大会が奈良市で開催された。また、5月4日の「みどりの日」に続いて松の緑が最も輝く季節であることにちなむ。日本の代表的な樹木の松をいつまでも大切に保護して行くことが目的。

 松の名前の由来は、神が木に宿るのを「待つ」が転じてできたとする説がある。他にも、木に宿る神を「祀る」、冬を含めて長いあいだ緑を「保つ」が転じてできたとする説、葉が「まつ毛」に似ていることに由来する説、葉が二股に分かれていることから「股(また)」が転じたとする説など諸説ある。

 日本では古くから神の宿る神聖な木とされてきた。また、冬でも青々とした葉を付けることから、不老長寿の象徴であり、おめでたい樹の「松竹梅」では最上級とされる。正月に家の門に飾る門松には、年神を家に迎え入れるための依り代という意味合いがある。

 

 とありますね。松が「松竹梅」の最上位に位置する理由が良く分かります。松という樹は正に御神木なんですよね。ただ建材として使うには松は少し重いので嫌う職人も結構います。でも信心深い自分としてはまず神の木を建材などに使用する事自体が恐れ多い事でそれを重いとか言うのはもっての外という気もしますが、これも硬い話ですね、 自分みたいな事を言っていては何も出来ません(笑)

 何れにしてもこの「松竹梅」こそが日本に於ける正に「花鳥風月」の象徴と思います。特に四季を通して威風堂々と咲き誇る松。本当に素晴らしい樹ですよね 😉

  

 

 

 

薬師縁日  

 毎月8日は薬師如来の縁日である。これは、薬師如来の徳を講讃する法会「薬師講」に由来すると考えられている。

 1月8日は一年最初の縁日であり、「初薬師」と呼ばれている。縁日には祭祀や供養が行われる。

  薬師如来(やくしにょらい)は、詳しくは薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)といい、大乗仏教における如来の一尊である。大医王、医王善逝(いおうぜんぜい)とも称する。

 菩薩としての修行時代に12の本願を立て、人々の病患を救うとともに悟りに導くことを誓った仏である。左手に薬壷(やっこ)を持ち、右手の薬指が前に出ているのが特徴で、病気を治す仏として知られる。如来の中で、物を持つのは薬師如来だけである。

 国分寺のほとんどは現在は薬師如来を本尊としている。薬師如来サンスクリット語での名前はバイシャジヤ・グル(Bhaiṣajya‐guru)であり、バイシャジヤは医薬・医療、グルは導師・指導者の意味である。

 

 とありますね。自分も仏教、仏像は大好きなのですがこの仏像にも位があって上から如来、菩薩、王、天と別れていて、如来も釈迦如来阿弥陀如来薬師如来大日如来とありますが、この薬師如来は医薬医療を司っているだけあって峻厳さの中にも何か優しい面持ちを浮かべているようにも感じます。

 とすればまた信心深い自分としては薬一つ飲むのにも心を込めて飲まなければいけないと思ってしまいます。ま、食事にしても薬にしても有難く頂く事は言うまでもない話なんですけどね。改めてそう心に刻みたいという話ですかね。

  

 

 

 

 今日で気になった記念、行事はこの辺ですね。皆様も良い週末を。

 自分はまた土曜日恒例の銭湯に行って来ます。

 

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早熟の翳  最終話

 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。とは言うもののこの時の誠也の足取りは余りにも重い。彼等との訣別、自分自身の人生観、色んな想いが錯綜する。ついさっき腹を割って話をする気になっていた筈がいざ足を踏み出すと身体が思うように進んではくれない。こういう心境はいくらヤンキーの王道を歩んで来た誠也にも少し躊躇いを投げかけて来る。

 彼のそんな鬱蒼とした想いすら笑い飛ばすかのように桜は未だ散り行く姿を見せず、その行く手を燦然と照らしてくれる。誠也は公園のベンチに腰を下ろし一服して気持ちを静めていた。

 鳥の囀り彼の心を癒やし春の柔らかいそよ風は辺りを和やかにしてくれる。一片の桜の葉が誠也の頬に華麗に舞い降りて来る。まり子はこの桜が大好きだった。昔デートしていた時も桜の葉が二人の気持ちを包んでくれた。この前作ってくれた桜ごはんの事も思い出す。桜の花言葉として精神の美、優美な女性というのがあるが彼女の存在は正に桜そのもののような気さえする。二人の間には桜は欠かせないものであった。

 

 煙草を1本吸い終えた誠也はまた足を進める。一服し終えた彼の足取りは心なしか軽くなったように思える。向かう先は当然清政の自宅であった。

 誠也の実家からは電車で一駅分の距離にある清政の自宅は今やは堅気になったとはいえ如何にもヤクザの家と言わんばかりの物々しさが漂う豪邸で、玄関には未だにカメラが付いている。作動しているのかまでは分からないが誠也はそのカメラに一瞬目をやり徐に呼び鈴を鳴らした。

「はい」

「こんばんは、誠也ですけど、清政君に会いたく訪問させて頂きました」

「どうぞ」

 そのあくまでも礼儀正しい声の主は母御さんに相違ない。誠也は恐る恐る扉を開け中に入る。優雅な庭を横目に進んで行くと母御さんが微笑を浮かべながら部屋に案内してくれた。

 しかし案内されたその部屋は清政の部屋ではなくだだっ広い和室であった。床の間には勇ましくも雅やかな滝の水彩画の掛け軸と3本の刀が飾られている。峻厳さを漂わす部屋に清政の父が入って来た。父親は引退したとはいえその風格は未だ現役さながらで、物を射るような鋭い眼光は周囲を威嚇する。取り合えず誠也は挨拶をする。

「お久しぶりです、突然の訪問にも関らず親分自らのお出まし痛み入ります」

「おう、ほんとに久しぶりだったな~誠也君、俺はもう親分ではねーけどな」

 父親は笑いながらそう答えた。更に誠也は続ける。

「この前の一件ではいくら仕事上の話とはいえ、出しゃばった事をしてしまい申し訳ありませんでした」

「何の事だ? 借金の話なら謝らなきゃいけねーのは寧ろこっちだよ、誠也君のお陰で大分まけて貰ったからな」

「そう言って頂けると幸いです、で、今日伺ったのは」

「ちょっと待て、清政の事だろうけど、あいつは相変わらずのガキのままだよ、あれからも幾つかの組を頼って行ったんだが何処でも使い物にはならず俺も困ってんだが子供には違いないし、どうすればいいのか苦労するよ、でも今日こうして誠也君がわざわざ来てくれたからにはあいつも喜ぶに違いねー、俺はただ久しぶりに誠也君と話がしたかっただけなんだ、おー、清政を呼んで来てくれや」

 そう言って清政を呼んでくれた父親は気を遣ってくれて部屋を出て行く。誠也は丁重に挨拶を済まし窓外の庭を眺めていた。

 やがて清政が入って来る。二人は初め何と言葉を掛けて良いものか分からなかったが小鳥の鳴き声が緊張を解してくれた。

「可愛い鳴き声だな~、しかしこの庭凄いな、羨ましいよ」

「俺は毎日聴いてるからそうでもないけど、確かに有難いな」

 すると母御が酒を運んでくれる。

「誠也君、今日は寛いで行ってね」

 優しく声を掛けてくれる母御は父親同様誠也に対し好意を持っているらしく、その笑顔は益々二人の間を和やかにさせてくれる。久しぶりに清政と酌み交わした酒は旨かった。こういう時酒ほど人間の気持ちを落ち着かせてくれるものは無いような気さえする。気持ちが和らいだ清政はこう言うのだった。

「誠也よ、俺が悪かった! この通りだ」

 頭を下げる清政に誠也は言う。

「いや、どっちが悪いとか言う話でもねーさ、俺も拘りが強過ぎたのかもな」

「だがな誠也、俺はやっぱりヤクザを辞める事は出来ない、生まれついての極道の血がそれを許さねーんだよ、いくら俺みたいなドチンピラでもな」

「なるほど」

「でもお前が言うように健太はどう見てもヤクザの柄じゃねー、あいつは堅気にしたよ、これで勘弁してくれねーか?」

「分かった、お前にはお前の生き方があるし、俺もこれ以上は何も言わなねー、今日は思い切って来た甲斐があったよ」

「そう言ってくれると有難いよ、また兄弟分だな!」

 二人は改めて固めの盃を酌み交わした。堅気とヤクザの心の盃とはいえ、この峻厳さに充ちた格式の高い和室で酌み交わす盃はさながら本職のヤクザの盃の儀式のような情景を漂わす。そんな場所で交わした盃を裏切る訳には行かない。二人はそう誓うべくこの盃を一気に飲み干しその誓いを己が胸中へと深く蔵(しま)い込むのであった。

 

 陽が暮れかけた頃の庭はまた違う美の姿を現す。鳥に代わって啼き出す虫の少し甲高い声は辺りに自然の美を提供してくれ尚、人の気持ちに勇気まで与えてくれる。その美しい鳴き声を堪能した二人は更に話に花を咲かせる事が出来、思い出話にこれからの話、笑い話もあれば後悔、反省を促すような話、冗談話など様々な話題は一向に尽きない。

「誠也、お前はほんと優しい奴なんだな、俺なんかには勿体ないよ」

「何言ってんだよ兄弟、俺だってお前の存在は有難いよ」

 この二人が醸し出す光景は微笑ましくさえ感る。そんな時、新たなる呼び鈴が広い敷地全体に谺(こだま)する。その主は健太であった。少し酔いが回った二人は健太の到来を喜び、久しぶりに外に飲みに行く。玄関先に佇んでいた健太は誠也の顔を見て思わず俯いてしまった。そんな健太にも誠也は優しい声を掛ける。

「いいからもう何も言うな、ほら飲みに行くぞ!」

 

 

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 健太は二人に促されるまま歩き出す。少し薄暗くなって来た所で誠也は後ろから何か音を感じた。最初小さく感じたその音は今では誠也の身体全体に響き渡る。

 鋭いナイフで突き刺された誠也の背中には夥しい鮮血が流れている。深紅の血は地面に流れ堕ち誠也の身体を覆い尽くてしまった。清政は愕きの余り健太を思い切りぶん殴った。健太はその場に倒れ込む。誠也は渾身の力を振り絞り健太の身体を引き寄せる。

「おい健太、やるんならもっと気合入れて来いや、これぐらじゃ俺は死なねーぞ」

 健太は既に泣いていたが事ここに至ったからには己が真意を告げずにはいられない。

「誠也君、お前は何でそんなに優しいんだよ、何でそんなに賢いんだよ、俺達はあれからというもの実に悲惨な人生を歩んで来たんだよ、金もない、仕事もない、高校時代に初めて付き合い出した彼女もそんな俺に愛想を尽かして逃げて行ったよ、それに引き換え誠也君は順風満帆この上ない人生を送って来たじゃねーか、早熟過ぎるよ、俺達とあんたの中にそれ程の差があるのかよ! 」

「差なんてねーさ、自分の事を早熟と思った事もない、俺もお前の同じだよ、ただ俺は俺自身に負けた事は一度もねー、お前らは負けたのかもしれねーな、己自身にな」

「確かに俺は何時も誠也君に憧れていたよ、じゃあ何で俺みあいなヘタレに構ってくれたんだよ? 今になってそれを恨むんだよ」

「なぁ健太よ、俺はお前をヘタレだなんて思った事は一度もねーよ、お前の優しさ、純粋さバカ正直さは寧ろ俺を勇気づけてくれたんだよ、だから俺はお前が好きだったんだ、俺らが歩んで来たヤンキーの世界にはそれが有難く思えるんだよ、肩ひじ張り続けて生きて来た俺らにはな」

 この誠也の正直な気持ちに偽りは一切感じられない。健太も清政も我を忘れ泣き続けている。その涙は誠也が流している血の海に一滴の波紋を泛び上がらせる。

 誠也の想いが健太に通じなかった事は嘆かわしい限りではあるが、それを悔いても始まらない。誠也はこの期に及んでも尚自分の生き様を省みようとはしない。だが対極に位置する誠也と健太の生き様、この二つの心が歩み寄る事は出来ないのだろうか、そんな筈は無い。でもそれを解決出来なかったのは誠也の非でもある。

 誠也は生まれて初めて己が下手打ち恥じた。そして改めて健太の顔を見つめる。もはや声を出すのもやっとの誠也には僅かな力しか残っていない。その中でも微笑を浮かべながら言う。

「健太よ~、お前にやられたんなら俺も本望だよ、ありがとな」

「誠也くーん!!」

 周囲一面に轟く健太の声はまるで暴走族が好んで使う直管マフラーのような凄まじい轟音を響かせる。

 夜映えする桜は絶妙な青白さを称えながら、あくまでも美しく可憐で精悍な姿を保ち続けていたのだった。

                                

                                   完

 

 

 

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