人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

お題 記憶に残るあの日  ~情けない話

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

 

 

 

       あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら

              僕らはいつまでも 見知らぬ二人のまま ♪ 

 

 って当たり前やろ!って話なのですが、そんなツッコミを入れてはいけません(笑)

 残念ながらそんな劇的でドラマチックな恋愛などとは無縁だった自分としては、またまた他愛もない単なる思い出話になってしまうのですけど、それでも一応お題に準ずる事にはなるのかなという事で宜しくお願い致します^^

 

無免許で長距離を流した思い出

 高校生時分の話です。その日昼に授業を終えた自分は小学生からの付き合いだった他校生の友人と二人でペチった(パクった、盗んだ)単車にニケツ(二人乗り)で地元神戸から姫路までの長距離ツーリングに臨みました。

 ま、距離的には約50kmなので中距離になるのですが、まだ高校生だった自分達には十分長距離に感じましたね。始めから姫路に行く事が目的だった訳ではなく、行ける所まで行こうみたいなノリで、言わば逃避行みたいな感じでとにかく西へ西へと向かっていました。

 自分は終始後ろに乗っていたのですが流石にケツは痛いです。途中で運転代わろうともしましたが代わった所で痛い事には違いありません。そのまま後ろに跨ったままで明石、加古川高砂と進んで行き、やがて姫路に辿り着きます。

 時刻は午後4時ぐらいでしたか、そこで取り合えず単車から降りて休憩します。場所は姫路城の真ん前の公園です。

 眼前に聳える大きな姫路城は正にシラサギが羽を広げたような優美な姿を現す白鷺城でした。その美しくも雄大で厳かな佇まいは人々の心を魅了し、素晴らしい日本の歴史を感じさせてくれます。

 少々疲れていた自分達は城に赴く事はなくそのまま公園で煙草を吸いながら休憩いたのですが、姫路といえばヤンキーのメッカでもあり辺りをよく見渡すと周りはヤンキーだらけでした(笑)

 そこへ余所者である神戸ナンバーの単車に乗って来た自分達が居る事は不自然な光景だったと思います。危機感を抱き踵を返すように颯爽と単車に跨りその場を立ち去る二人。別に絡まれた訳でもないのにそれぐらいの事で焦るのも実に情けない話なのですが、そこから遠ざかった後、安心したのも事実ですね 😰

 そうしてとんぼ返りするように神戸へ引き返す事になります。でも片道50km往復100kmの中で警察には捕まるどころか危ないと思ったシーンは奇跡的に一度もありませんでした。唯一あったのは姫路でヤンキー達から絡まれそうになった事ぐらいです。

 夕焼けに染まる景色の中、単車を走らせる二人の心にはまるでこの逃避行が幻であったかのような虚無感、憂愁感、そして何故か16年の人生が走馬灯のように蘇って来るような感覚を覚えました。

 今の暴走族にもこれぐらいの距離を流して欲しいとも思いますね(笑)

 ま、淡い、儚い思い出ですかね^^

 

海に飛び込んで仕事をバックレた思い出

 これも或る意味情けない話です。自分は今まで数えきれないぐらいの仕事を経験して来ました。それは直ぐに辞めてしまうといった堪え性の無い性格が災いした事は言うまでもありません。

 新卒で就職した大手ゼネコンは僅か1ヶ月で辞めました。理由は酒の付き合いが嫌だったからです。これは今でも嫌いですね。酒自体は好きなのですが付き合いとなれば話は別で、自分はとにかく団体行動が出来ない体質なのです。そんな話はどうでも良いですね^^

 そこでまだ若かりし頃、警戒船の乗務員という仕事に就いていた時期がありました。警戒船業務というのは言うなれば海上の警備員といった感じです。港湾関係の工事現場ではこの警戒船が必要であり、2、300m沖に出た(もっとかな?)船は一日中そこで警備活動に従事します。

 朝は普通に朝礼に出てラジオ体操もします。その後沖へ出て行き碇を下ろして仕事が始まる訳なのですが、警備といってもその業務内容ははっきり言って何もありません。ただ一日中ボケーっとしているだけです。丘の上の警備なら交通誘導等の業務が忙しいと思いますが、海上ではそんな事もなくただ目視で警備しているだけです。

 当然不審船などが発見された場合は現場の監督や海上保安庁などに報告し対処するのでしょうけど、そんな事件事故は滅多に無いと言っていました。自分がしていた時も一度もありませんでした。

 となると益々やる事は無くなって来ます。暇で仕方ないのです。一言に暇といっても決して楽ではありません。暇をする事を楽をする事はあくまでも別物です。時間を持て余していた自分に船長は何時も言ってくれました。

「どうせする事ないから、昼寝でもしてたらいいで~、でも魚釣りは禁止やから」

 と。気さくで人の好い年配の船長でしたね。自分はその言葉を額面通りに受け取り昼寝ばかりしていました。でも何時間も昼寝が出来る筈もありません。昼寝をしては起きて煙草を一服しながら船長と他愛もない話をしてまた昼寝と。その繰り返しです。

 何時になっても夕方になりません。時間が長く感じて仕方なかったです。そんな日々が2週間ほど続きました。

 そして会社から連絡があって

「お疲れさん、よく頑張ってるみたいだね、来週からは船舶の免許を取りに行かせてあげるから、それからは船長として一人で仕事して貰うよ」

 いくら暇でやりがいが感じられないとはいえ船長になれるのは嬉しかったです。しかしその喜びも長くは続きませんでした。日曜の夕方にまた連絡があって

「悪いね~、実はちょっとした手違いがあって月曜日もう一日だけ仕事行って欲しいんだよ、今までとは違う船長の船で、その船長はちょっと変わった人だけど気にしないでね頑張ってね」

 神経質な自分はその言葉だけで嫌な予感がしました。朝神戸港に行くと見るからに変な感じのおっさんが船の上で支度をしていました。

「おはようございます、宜しくお願いします」

 と挨拶をしても何も言ってくれません。取り合えず船に乗り込み大した会話もしないままに出航します。そして何時ものように現場で朝礼をして沖に出ます。

 ここからが暇地獄な訳なのですが、自分は変わりなく昼寝に専念していました。始めのうちは何も言わなかった船長でしたが、自分のような者が気にいらなかったのか、何かぶつぶつ文句ばかり口にしていました。確かに昼寝ばかりする事はダメです。でも起きた所で何もする事はありません。自分も一日中昼寝をしていた訳でもありません。

 昼前ぐらいになって船長が怒り出します。

「お前は昼寝しに来たんか!? 使いもんになれへんのー!」

 飛び起きた自分は取り合えず謝りました。

「すいませんでした」

 すると船長は意味不明な事を言い出します。

「水ぶっかけ!」

 訳が分かりませんでした。水をぶっかける? 昼寝ばかりしていた自分自信に水をかけて目を覚ませという事なのか? 考えていると船長は更に怒って

「言うても動かんやっちゃのー!」

 と言ってバケツで海水を汲み上げそれを船べりにぶっかけました。そういう事か!? と思いました。

 始めに乗っていた船はタグボートだったのですがその船は小さな漁船で木製だったのです。8月の猛暑に乾燥し切った木で作られたデッキには水を掛けて締める必要があるのです。

「自分がします」

「お前は一生昼寝しとけやゴラ!」

 余りの言い方にムカついた自分は言い返しました。

「おっさん何怒っとんねんゴラ、俺がやる言うとうやろ」

「何やその態度は?」

「じゃがましいわゴラ、前の船長は昼寝してええ言うとったんやー言うねん、そやからちょっと昼寝しとっただけやんがいや、これからはせーへんからそれでええやろ」

「喧嘩売っとんかわれダボよ!」

 そんなやり取りが続いたのですが、流石に手を出す気にはなれません。人生の大先輩であるとはいえ一言言いたかっただけです。でもそれからは二人とも益々険悪な状況に陥ってしまい、短気だった自分も完全にヤル気が失せてしまいます。

「もう辞めや、こんなもんアホらしくてやっとれるかいや」

 と言い置いて自分は海に飛び込み泳いで帰りました。カッコつける訳でもないのですが、ケツ割って帰るのにまさか岸まで送れと言えるほどのふてこさ(ふてこい=ふてぶてしい=図太いの上位互換ワード)は持ち合わせていません。

 一応水泳部出身だったので泳ぐ事には自信はあったのですが、如何せん海とぷプールでは訳が違います。大阪湾は大した波は無いまでも海の水圧は馬鹿に出来ません。それに上下作業服を着ていた所為もあり思うように進まないのです。溺れてしまうのか!? 焦りましたが途中でブイにしがみ付き休憩しもって何とか岸まで泳ぎ切る事が出来ました。夏だった事が幸いでしたね。

 今ならそのまま溺れ死んでもいいかなとも思いますが、その頃はまだ死にたくなかたたというのが本音ですね。

 そうして何とか家に帰る事が出来たのですけど、当然仕事はそれで辞めです。もうヤル気は出ません。その後会社の部長から書き留めで給料が送られて来ました。そこには一通の手紙も入っていました。

「君もこれから社会人として生きて行く訳だから、もうちょっとでも拘りを捨てた方がいいと思います」

 と。これを読んで自分は感謝し感銘しましたが、要するにバカになる必要性があると言いたかったのでしょうね。それは十分理解出来るのですが、はっきり言って現代人はバカに成り過ぎている感じもします。自分のような何の実力もない者が言うのもおかしいですが、寧ろもっと自愛の精神を持つべきではないかと、矜持を持てと言いたいぐらいです。一寸の虫にも五分の魂なのです。

 ま、硬い話はいいとして。何れにしても情けない話です。今だから笑えますが、二十数年前の当時には笑えませんでした。これも昔の思い出ですかね、懐かしいぐらいです。夏になると思い出す事でもあります。

 

 という事で(どういう事やねん!?)以上、今週のお題、記憶に残っているあの日、に一応は準じた情けない話でした。

 小説の方も是非とも宜しくお願い致します 😉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甦るパノラマ  二十四話

 

 

 何とも薄汚れた、見窄らしい恰好をしている義正には清潔感や若さが全く感じられなかった。皺だらけのシャツに洗ってもいないような擦り切れた薄っぺらいズボンに黒ずんだ白い靴。髪もボサボサで風呂に入っている様子もない。虚ろな目つきに光は無く死んでいるようにさえ見える。これこそがギャンブル依存症の末路とでもいうのだろうか。まるでポン中のようでもある。

 それに比べるとまだ幾分英昭の方がマシな感じもする。同じギャンブル中毒でありながらこの違いは何なのだろう。それを確かめるべく義正を問い質す英昭。しかし彼の心もまた死にかけている事に違いは無かったのだった。

「おい、どうしたんだよお前、久しぶりに会ったのに何だよその様は!?」

「ああ、俺はもう終わったよ」

 今にも死んでしまいそうな表情で答える義正なのだが何か企みがあった事は感じ取られる。

「金なら無いぞ」

「分かってるさ、今日はお前にいい儲け話を持って来たんだよ」

「何だ?」

「強盗だよ」

 以心伝心、類は友を呼ぶ、朱に染まれば赤くなる。色んな諺があるのだがどれも当てはまらない気もする。確かに大金を掴みたいという想いは同じなのだが、英昭はあくまでもギャンブルに依ってそれを成し遂げたかったのだ。それを露骨に強盗などという言葉を用いる義正の神経はどうなっているのだろうか。そればかりは幼馴染であるとはいえ流石の英昭にも分からない。

 同じような境遇に置かれていても異なる想いを抱く人間の性。これこそが或る意味人間の一番厄介な性質とも言えるのではなかろうか。

 例えば互いに愛し合う二人の男女。この二人の間に一切の矛盾、不純な意志が無いと言い切れるだろうか。尊敬する人の事を100%信頼、心服出来るか。凄絶な経験をした者同士が何時までも心を同じくする事が出来ようか。

 言い出せばきりが無いのだが、思考や価値観の多様化などという言葉が実に都合の良い屁理屈に感じてしまうというのは些か行き過ぎた思慮かもしれないが、真に心を一つに重ね合う事が難しい人間社会というものは如何ともし難い複雑怪奇な世の中で、真の意味での絆、協調性などというものは存在しないような気さえする。

 それは一定数の紛争や治安の悪い国がまだあるとはいえ、一応治世である現代社会にこそ現出し得る厄介な事象でもある。有事の際にはあれだけ手に手を取って協力し合っていた同士でさえもいざ事が治まっていまえば仲違いするような状況に陥る事は往々にある事だ。

 それを個人の自由と言ってしまえばそれまでなのだが、それほどに薄弱な、脆弱な人間関係とは一体何を訴えようというのだろう。敢えてそこに挑む事が人の世の常なのだろうか。そんな出口の無いような自問自答を繰り返す英昭はそれを今の二人に置き換えて考えるのだった。

「強盗ってお前、いい策でもあるのか?」

 義正は一瞬だけ目を輝かせたような気がした。

「そう来なくっちゃな、策はあるよ、でも俺一人ではどうしようもないからお前を誘う事にしたんだよ」

「どんな策だ?」

「ATM強盗だよ」

「また在り来たりな方法だな~」

「いいから訊けって! 俺は今土建屋に務めてるんだけど重機も会社にある、そこでそそれを使ってATMを丸ごと奪うんだよ、よくニュースになってるだろ、あれだよ」

「で、策とは?」

「だから、俺とお前が組んでやれば絶体に成功するって事だよ、俺が重機を運転してお前はシケ張りだよ」

「単純な策だな~.......」

 強盗について真面目に話をする事も滑稽な話なのだが、簡単な策こそ人を騙し易いというのは三国志に登場する有名な軍師諸葛亮孔明の名言でもあった。

 余り深く考え過ぎては反って要らぬ災いを招く事になりかねない、シンプルイズベストなのである。もはやこれしかないといった思惑に浸る義正の顔を確かめた英昭は更に言葉を続ける。

「ところでお前、何でそこまで落ちぶれてしまったんだ? 借金いくらあるんだ?」

「1500万だよ」 

 あっさりと答えた彼の表情には曲がりなりのも決意を固めた一人の男の覚悟が漂っていた。それを露骨に感じた英昭はこれ以上返す言葉が無かったのだった。

 

 

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 義正の前では首を縦に振らなかった英昭だったが、既にその腹は四分六で悪しき方へ傾いていた。家に帰り電話で今日のレース結果を確かめ、舟券を外した事を知った彼は益々義正の考えに染まって行く。

 財布の中身はほぼ空っぽで僅かな小銭だけが彼を嘲笑うように姿を現す。手持ちが無くなった彼には手持ちのカード(切り札)が全て失われたも同然である。そんな中何時ものように母の声が聴こえて来る。

「ご飯出来たわよ~」

 その声は神のお告げなのか仏の教えなのか。最近元気が無かったにも関わらず今日の母の声には何時になく優しい、甘美な響きが感じられる。それは当然英昭の心を苦しませる。ゆっくりと階段を下りてダイニングへ赴く彼の足取りは自然の中にも不自然さを漂わす。そして二人でテーブルを囲み食事を始める。

 この日の夕食は焼き魚だった。脂の乗った魚は口をつけずとも旨さを感じさせてくれる。鰤は結構高価な魚であり英昭の好物でもあった。彼が一口つけた後その表情を見てから徐に口を開く母。

「美味しいでしょ」

「旨いな~」

「今日たまたま魚屋さんで安売りしてたのよ、それであんたの好物だったから思わず買って来たんだけどね」

「そうだったんだ」

「ところであんた、この魚に限らず、動物も植物も或る意味人に食べられる為に生まれて来たようなものなのよ」

「分かってるさ、そんな事」

「ほんとに分かってるの? それならもうちょとでも感謝して食べなさいよ」

「十分感謝してるって」

「それと魚を含めた動物は子供を産んでから世話するのは赤子の頃だけで、その後は放任主義で子供達は直ぐにでも自立して行くのよ」

「何が言いたいんだよ」

「だから、あんたはもうとっくに自立する年齢になってるって事なのよ、これ以上母さんを悲しませないでよ」

 そんな事は他でもない英昭自信が一番感じていた事だった。今更言うまでもない事を敢えて口にする母、そしてそれを改めて訊いた英昭。この二人の心情は何を物語るのだろうか。

 仕事の上で再確認する事は必要である。無論私生活でも。だがそれをここで訊いた彼の心は揺れ動いていたに違いない。

『風吹けば沖つ白波たつた山 夜半にや君がひとり超ゆらむ』

 一人で超えて行けるのか、いや行かなければならない壁である。今の彼にそれが出来るのか、出来る出来ないでは無くしなければいけないのだ。

 母が放った一言に依って揺れ動く英昭の感情。これもまた脆弱極まりない。でもあくまでも正直で素直で純粋な人間としての当たり前の感情でもある。それを成就させる事がそんなに難しい話なのか。

 風に吹かれて木から舞い降りた葉は地面に落ちても尚美しい姿を現し、枯れ果てた後も肥しとなって役に立っている。それに比べて過ちを犯した人間はどうだろう。ただ人に迷惑を掛け、人を傷付けてその後も償いをしたとしても大した効果は無いだろう。

 英昭はこの母の一言だけで一瞬にして揺れ動いてしまった己が気持ちを整理する事さえ怖かった。こんな調子では何をしても巧く行く筈が無い。でももし自分が断れば義正は一人でもやるに違いないし、自分としても金は欲しい。

 この期に及んでもまだ悪しき方に気を置く英昭の心情も実に救い難い。母の想いに報いたいという気持ちと明らかに矛盾する邪な気持ち。善悪の二元論で考えるのは好きでなかった英昭にも己が性質を悪と見做してしまう人間の弱さ。

 吹き始めた強い風は嵐の予兆でもあるのか。その風には地上というよりは寧ろ人の心を侵食して来る勢いが感じられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  二十三話

 

 

 都会の喧騒とはいうが、敢えてそこに身を窶す、ギャンブルに嵌っているこの現状に憂き身を窶す事に依って何がしかの突破口を見出そうとする思慮も決して間違ってはいない気もする。堕ちる所まで堕ちないと底が見えない、と言えば浅はかな感じもするのだが、今の英昭にはそうする事でしか己が生きている証を立てる事が出来なかったのかもしれない。

 依然として彼はボートレースに興じていたのだが、一朝一夕に大金を得る事は出来ない。そこで思い付いた事は実に稚拙で軽率で打算的な話なのだが、1レース辺りにまとまった金額を投資して大儲けするといったいわゆる勝負だった。

 或る休日に競艇場に赴いた彼はいきなりそれを実行に移す。次のレースもインは明らかに強いA級レーサーでまず逃げる事は間違いない。となればまたヒモに来る選手を入念に予想する事になえる訳なのだが、このレースでは1と4が一線級のトップレーサーで3連単も1-4からガチガチに売れていた。

 そこで思い付いた予想は1-4-2と1-4-5の二点で勝負する事。6はまだデビューしたばかりのルーキーでこれまでもオール6着の成績だったので買う必要は全く無い。そして3の選手も最近は調子を落としていてまず連には絡まないだろう。英昭は舟券を買った時点で勝利を確信していたのだった。

 レースが始まる。枠なり3対3の自然な体型。スタートもほぼ同体。これなら取ったも同然だ。そう思った刹那事件は起きる。

 スタートを切った後インの選手が1mのターンでいきなり振り込んで(キャビテーション)しまいその選手はドベになってしまったのだ。こんな理不尽極まりない事は無い。それならいっそスタートも遅れて出遅れになってくれていれば舟券は返還さえれていたのだ。それが一応スタートだけは普通に切ってしまったのでレースは成立してしまった。要するに彼の買っていた舟券はその一瞬にしてパーになってしまったのだ。

 そんなレースに張った金額は実に20万円という大金であった。それを僅かレースが始まって2、3秒という短い時間で捨ててしまった英昭。彼の心は正に一瞬にして真っ二つに折れてしまったのだ。

 放心状態に陥った彼は天を仰ぎ幻の自分を見ていた。それは勿論幻ではなく真実なのだ。現実、真実が見せる余りにも過酷な姿。それはまだそこまで収入のない英昭にとっては全く免疫の付いていない事象であって、正気を取り戻す術は何も無い。

 顔を下ろし財布を改めるとあと十数万円入っている。普通ならここで諦めて帰る所だとは思うがギャンブルという実に厄介な魔法に憑依されていた彼の身体は一向に動かない。

 そんな英昭の姿が気になったのか、或る人が声を掛けて来る。

「兄さん、結構いかれたのかな?」

 誰とも知らないその人を見た英昭は何も考えずに答えた。

「あ、はい、やられましたね」

「だろうな、でもここで諦めては真の玄人(ばいにん)には成れないよ」 

「というと、いいレースがあるんですか?」

 その男はしめたと言わんばかりの顔つきで言葉を続ける。

「そう来なくっちゃな、次のレースはダメだ、大した奴がいないから、最終レースはイノキ(1-2-3)一点で取れるよ、頑張ってな」

 そう言って立ち去った男。もはや予想する力も失っていた英昭はその男の言を信じてまだ1時間以上後にある最終レースをイノキで購入して一旦外へ出る。

 外は一歩出るだけでも汗ばむような猛暑を漂わしていた。額からな流れ落ちる汗、これは決して運動した後の心地よい汗ではなく、自分自身を省み冷や汗か或いは血の涙か。多少汗かきだった彼は地面に流れ堕ちた汗に目をやった。するとその汗は地面に堕ちた後もただアスファルトに溶け込むだけで上に跳ね返ろうとはしない。全く元気が感じられない。

 ここが底なのか、心の終着駅なのか。大袈裟にもそんな事を思い浮かべ悲嘆に暮れる英昭。留まる事を知らない汗は小規模ながらも地面に醜い沼の姿を象るのだった。

 

 

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 うだるような暑い夏を必死に過ごしているのは英昭だけではない。彼の人生の中で一番似たような環境にあったのは幼馴染の義正である。高校を中退していた彼は相変わらずギャンブルに身を窶し惨めな人生を送っていた。

 ろくに仕事もしていない彼は完全なギャンブル依存症で英昭にも勝る自堕落な生活をしていた。そんな彼が日頃から抱いていた邪な野望はまとまった金を手にするといった実に甘えた夢物語であった。

 ギャンブルは好きだがそれで生計を立てる事は無理に近い。となれば金を奪い取る。余りにも短絡的な発想なのだが、それこそが博打に身を堕とした者が一度は観る幻なのかもしれない。現にそういう事件はいくらでも起きている。ならば自分にも出来るのではないか。その想いは冗談の範疇を超え、もはや現実にものと成って行く勢いがあった。だが一人では心もとない。彼は久しぶりに英昭を訪ねる決心をしていたのだった。

 他方英昭は最終レースの結果を、見ないまま帰途に就いていた。当たっていない事を理屈抜きに悟っていたのだった。百歩譲って的中していたとしても大した金額には成らない。勿論それとて金には違いない訳なのだが、今の彼には罰当たりな言い方だがはした金に過ぎないのだった。

 何とかして大金を掴みたい、今までの負けを一掃出来るぐらいの、そして一生遊んで生きて行けるぐらいの大金を。

 敢えて二元論で考えるなら、良い想いを悪い想い。この二つの想いの中では得てして悪い想いの方が勝ってしまうのはその者の心の弱さが招く至らない人間性だけに起因する事なのだろうか。 

 失意の先に観る夢。それはあくまでも悪い意味で義正のそれと類似、いや全く同質のものであった。

 夕方になり家の傍まで帰り着いていた英昭と時を同じくして姿を現す義正。彼の姿は英昭の上を行くような切羽詰まった後戻り出来ないようなまるで背水の陣を思わせるような只事ならぬ終末観を漂わす。

「よ、久しぶりだな」

 当たり前のように声を掛けて来た彼の口調にも元気は感じられない。

「何だお前か」

 一応返事をする英昭にも旧友に会ったという喜びは全く感じられない。強いて二人の間に共通点を見出すならば英昭の悲壮感と義正の焦燥感だけか。でもその二つの感情が織りな姿はそれこそ曲がりなりにも一つの志を象る。

 互いに歪んだ想いを抱く者同士が赴こうとする道。その邪な道は今正に大きく口を開いて待っていたのだった。

 

 

 

  

 

 

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甦るパノラマ  二十二話

 

 

 英昭が社会人になってから早や3年という歳月が経った。22歳になった今その生活は更に荒み、劣化の一途を辿っているように見える。もはや彼はまともな人生を歩む気すら無くしてしまったのだろうか。勤務態度も悪化し無断欠勤する日も多い。始めの内は母に対して繕っていた嘘でさえも今では全くつかなくなり、堂々とギャンブルに興じるその様は実に救い難い完全な依存症の姿であった。

 ギャンブルの収支がプラスならまだしも明らかに大幅なマイナスである。それどころか消費者金融からも数百万円という借金をしており、そのうえ母からも無心をするような自堕落な日々が続いていた。

 女手一つで育ててくれた母に対し親孝行をしたいという気持ちまで失ってしまったのだろうか。それだけは流石に持ち続けていた筈だ。でもしている事は明らかに親不孝そのものである。この矛盾を断ち切る事は至難の業であった。

 7月中旬、夏の始まりほど強く暑さを感じるこの時期、うるさい蝉の鳴き声と額に流れる汗は鬱陶しい限りだった。夏の何が良いのだ、それを喜ぶのは幼い子供だけではないのか。もうじき夏休みを迎えるであろう子供達の快活な姿は羨ましい反面、憎らしくさえ思える。

 英昭がこんあ歪んだ感情を抱くのも当然ギャンブルに嵌っている影響であって決して本意では無かったに違いない。目に映るあらゆるものが鬱陶しくて仕方ない。

 それは職場でも同じ事で先輩どころか同僚達と話をする事すら気が進まない。その最たるは久幸であった。元はと言えばこの者の甘い誘いから全ては始まったのだ。こいつさえいなければ俺はここまで酷くはならなかったのだ。たとえ逆恨みであろうともそう思わずにはいられない。そうすると英昭と仲良く話が出来るのは一人もいない。英昭は職場でも完全に四面楚歌に陥っていたのだった。

 仕事が全く手に付かない英昭はこの日、体調不良を理由に昼に早退した。澤田さんとの一件以来パチンコを止めていた彼が嵌っていたギャンブルは専らボートレースと競馬であった。

 会社を出てから電車に乗り約30分掛けて行き着く競艇場。駅で降りてそこに近づくに連れ聞こえて来る烈しくも大きいボートのエンジン音。競走馬の迫力のある轟音とは違ってボートのエンジン音など普通の人には騒音でしかないのだが、好きな者には射幸心をそそる愉快な音にさえ聞こえる。

 やはり依存症患者には理性が働いていないのか。その音に誘(いざな)われるかのように、亦磁石でも付いているかのように引き寄せられる英昭。そうして赴いたその場は正に堕落した者達が集まる博打場っであった。

 競馬場とは違い競艇場の客達は実に品性が無い。烈しい罵声を浴びせる客の声はまるで選手を射殺してしまうような勢いさえ感じさせる。

「行けゴラー! 何してんだゴラー!」

 声援ではなく罵倒。その声はエンジン音で搔き消されているとはいえ選手の耳にも届いているであろう。

 そんな中、英昭は次の第10レースの予想を始め出した。この日は単なるパン戦(一般戦)だったのだが、10レースともなるとそこそこのメンバーが揃っている。特にイン(1枠、1コース)のA級レーサーは記念、SGにも出ている一線級の選手でまず逃げる事確率は高いだろう。そうなればヒモ(2、3着)の予想に力が入る訳なのだが、1の頭からでは誰をヒモに付けてもオッズは低い。

 となれば流し買いをしていては投資が嵩む。英昭は1-3-4という舟券を一点買いした。現時点のオッズは約6.5倍。それを2万円で一点勝負する。もし的中すれば13万円の配当を手にする事が出来る。締め切り5分前に舟券を購入した英昭はそれをポケットの中で握り絞めながらレース中継が映されるモニターの前に突っ立っていた。

 彼が外でレースを見ないのには一応の理由があった。外で現物を見た場合は確かに臨場感があって面白いのだが、いくら大型スクリーンがあるとはいえこの広いレース場を端から端まで肉眼で見通す事は難しい。競馬場同様双眼鏡などを使って観戦している人もいるが、モニターで見た方が分かり易い事は言うまでもない。

 パン戦ならではの貧相なファンファーレが鳴り響きレースが始まる。進入は枠なり3対3の展示通りで風向き風量共に至って静水面である。こうなればスタートさえ決めればまず1が逃げ切る事は確実だろう。思わず目に力が入る英昭。心の中で彼は燃えるような闘志を抱き続けていたのだった。

 スタートはほぼ同体でインからあっさり逃げた1の選手。1周バックストレッチでは3コースから握って行った選手が2を沈めて4と競っている。裏を返していれば1-3-4、1-4-3のどちらでも良いのだが一点勝負していた彼には1-3-4で入ってくれないと困る。

 2着3着の競り合いは最後まで続きゴールした後も着順は写真判定に持ち込まれた。恐らくは3の2着で1-3-4になった筈だ。目を瞑ってそれを祈る英昭。

 約1分半の長い時間の後やとこさ結果が報じられる。

「只今の結果は1着1番、2着3番、3着4番、以上で御座います」

「よっしゃ!」

 英昭は思わず声を出してしまった。確定した配当は締め切り前と同じ650円。払い戻し機で13万円を手にする英昭の表情は明るかった。

 

 

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 午後4時にパートの仕事を終えた母は何時ものように家事に精を出し掃除や洗濯、炊事をしていた。干してあった息子の衣服を畳んでいる時、母は切ない表情を泛べながら独り呟く。

「あの子何時からこんなになってしまったのかしら、昔はギャンブルをしながらでも親思いのいい子だったのに、私の育て方が悪かったのかしら.......」

 確かに英昭は子供の頃も普通の子でギャンブル依存を除いてはこれといった欠点は無い実に親思いの子供だった。だがそのギャンブルこそが悪の元凶でもある。それならいっそもっとやんちゃな子供であっても良いぐらいだと開き直る母の気持ちも分からないでもない。

 一概には言えないが多感な思春期に反抗期というものの存在を肯定するならば、それを経験する事に依って人は成長して行くのだろうか。聡明な人にはそれすら必要性の無い馬鹿げたものになるのかもしれないが、経験に依って成長して行く人間の性質を否定する事は出来ないだろう。

 英昭は幼少の頃から母に反抗した事が殆ど無かった。これが災いしたのだろうか。今となっては悔いても及ばない事なのだが、だからといって無理に反抗する事も愚かな行為に思える。

 何れにしても英昭が今親不孝をしている事は自明の事実である。母を悲しませても辞める事が出来ないギャンブル。他人まで巻沿いにしてしまうギャンブル。そこに嵌る人の気持ちはとっくに麻痺していて理性を失っている。とすれば自浄作用など働く筈も無い。責任転嫁する訳ではないがこういう人を狂わせるようなものを作り出した方が悪いのではないかと考えてしまう母の想いは間違っているのだろうか。それを法的、数学的に捌く事は出来ても心理的に捌く、癒やす事は出来ないような気もしないではない。

 

 英昭は10、11、12の3レースを全て的中させて数十万円という大金を儲けていた。それでもまだまだ借金を完済させるには程遠いのだが一息つくのには十分な金額だった。

 夕方になり恰も仕事帰りのような様子で家の玄関を開ける英昭。

「ただいま~」

「おかえり」

 元気がないまでも返事をしてくれる母の存在は有難い。何時ものように部屋に上がり財布の中身を改め、独りほくそ笑みながらも物思いに耽るその姿には自分でも矛盾を感じる。夕食までの間に酒を飲み気持ちを和らがせる。稚拙で滑稽な話なのだが、もはや今の彼にはそうする事でしか気を落ち着かせる術が無かったのだった。

 しかしその酒は気を大きくさせる作用もある。英昭は儲けた金を眺めながら更なる野望を胸に秘めて行くのだった。

 そして夕食の時刻が来る。テーブルを囲んでいる二人に言葉は少なかった。母は英昭に気を遣いながら口を切った。

「あんた、何時になったらギャンブル辞めるのよ、もう飽きたんじゃないの?」

 即答しなかった英昭は黙々と食事をして、食べ終えてから口を開く。

「これ、渡しとくよ」

 怪訝そうな面持ちでその金に目を向ける母。

「何よそれ?」

「ギャンブル貯金だよ、30万ある、これで母さんへの借金はチャラだろ? 自分のもこの調子で返して行くさ」

「要らないわよそんな金!」

「何でだよ、金は金だろ?」

「要らないものは要らない」

 母の語気の強い言いっぷりに多少なりとも物怖じした英昭は無言のままその金を引っ込め、部屋に戻る。

 金だけで母を安心させるつもりなど無かった。ただ返したかっただけだ。それでも頑なに拒んだ母の気持ちは今の彼には理解出来ない。ならばもっと大くの金を渡せば良いのか。それも履違えた思慮である事は言うまでもない。だが勢い着いた英昭はその歪んだ道を選ぼうとしていた。

日が沈みかけていたこの時刻でさえも鳴き続ける蝉の姿は、曲がりなりにも英昭の想いを後押しするような勢いを漂わす。それを真に受け次なる勝負へと挑む英昭。

 騎虎之勢(きこのいきおい)とでも言おうか。一旦火が着いてしまえば誰にもとめられない勢いは是非はともかくエスカレートして行く一方だ。

 蝉は尚も勇ましい声を上げながら必死に、全力で鳴き続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  二十一話

 

 

 午後8時前、英昭はそのまま駅前にあるパチンコ店に駆け込む。混んでいた所為もあったが時間に余裕の無かった彼は大して何も考えずに行き当たりばったりで空いていた台に坐る。初めて打つ機種だった。データカウンタを見上げると本日の大当たり回数は23回とそこそこの数字だ。これならもう一伸びあってもおかしくはない。

 実に短絡的な発想だが、それが功を奏する場合も結構多い。すると打ち始めて僅か数回転でいきなり大当たりを射止める事が出来た。やはり天は俺に味方しているのだ。この調子で連チャンすれば閉店までにそこそこの出玉が見込める。

 これこそがギャンブル好きな人間の実に甘い夢物語なのだろう。大当たり図柄は6で一回交換してからまた同じ席に着き打ち出す。取り合えず保留連チャンは無かった。その後も全く当たらず追い打ちを掛ける英昭の表情には明らかに焦りが見える。

 時刻は何時の間にか9時を回っていた。当時は10時閉店という店が大半であった。あと約1時間足らず。この間に大当たりを引いて、勝利する事など出来る筈もない。でも彼の手は止まらない。焦りは絶頂に達し顔が青ざめている事が自分でも分かる。

 そうしていよいよ蛍の光が流れ出した。もはや事は決したのだ。今更どうにもならない。諦めにひれ伏した彼の表情には一点の灯りすら感じられない。それこそギャンブルをしない人なら、一体どうしたの? といった感じになるのではなかろうか。

 普段なら絶対に出来ない表情、作ろうとしても作れない表情。何ともいえない引き攣った彼の表情には大袈裟な話、この世の終わりを告げているような悲壮感さえ漂っている。それを打ち消す事は容易では無い。

 やはりさゆりの言った通りにしておけば良かった。自分でも分かっていた事だ。それなのに引き返す事が出来なかった彼の心情は実に情けない限りなのだが、事ここに至っては悔いても始まらない。ならばこのままギャンブル街道をまっしぐらに走り続けるのか。それも軽忽で稚拙極まりない思慮である。英昭は正に出口のない迷路に陥れられたのであった。

 閉店ぎりぎりまで打っていた所為で時刻はとうに10時を過ぎてしまった。また家に帰るのが嫌になって来る。だが帰らない訳にはいかない。項垂れながら帰途に就く彼の足取りは実に重い。閉店後に景品交換所に並ぶ者達を羨みながら駅へ向かう。

 俯き加減で歩いていると誰かが前に立ちふさがる。徐に顔を上げるとその者は薄闇の中も厳つい風貌で鋭い眼光を英昭に投げ掛ける。

「久しぶりだな」

 そう声を掛けて来た人は以お世話になった地元の先輩、澤田さんだった。穏やかな喋り方にも恐怖を感じるこの人はやはりただ者ではない。アウトロー界隈に生きる人の風格と言うべきか。その姿は明らかに英昭のような堅気とは住んでいる世界が違うと言わんばかりの貫禄を表す。

「お久し振りです」

 挨拶をする英昭の口調には一切の覇気が感じられない。この時点で澤田さんは全てを察していたのだろうか。

「お前、まだパチンコなんかしてるのか、その顔だと結構負けたんだな」 

「その通りです」

  ここで澤田さんは烈しい一撃を放った。そのパンチは完全に英昭の鳩尾を捉え息が出来ないほど痛い。苦痛に歪む英昭の顔は抗う術を知らない子供のようだった。

「前に言っただろ、もう辞めろって! お前就職したんだろ? ほどほどに出来るんなら別に構わないが、お前は完全に嵌る性質(たち)だ、だから言ってやったんだよ、それを無駄にしやがって、俺らの世界でも博打やシャブに嵌るような奴は使い物になんねーんだよ、下手打ったらケジメをつけないといけねーんだ、その点お前は堅気だからいいよな~、悪い事は言わない、博打は完全に辞めるんだ、お前はそういう柄じゃねーんだよ、いいな!」

 そう言って立ち去る澤田さん。自分の事を慮ってくれた上での所業であった事は言うまでもない。武を用いるには威を先にするとは言ったものだ。彼の取った行動は英昭を自重させるだけの力は十分あった。

 それにしても痛かった。人生で初めて味わうこの痛み。だが敢えて、強いて言えば肉体に受ける痛みは直ぐにでも消え去る。都合の良い解釈だがそれを精神へと転化させる事も容易ではないような気もする。

 

 

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 冬至から夏至に掛けて一日辺り約1分の割合で日が長くなって行く訳なのだが、それを如実に感じるのは春ではなかろうか。その影響もあってか夜10時過ぎというこの時刻でも精神的にはそこまでの暗さを感じない。

 駅前の居酒屋や商店街の飲み屋などではまだまだ灯りを灯したまま大層賑わっている。路地裏には盛りのついた猫が奇声を上げて彷徨っている。その中で依然として静かにも毅然とした雰囲気で佇む樹々達の姿は英昭にも一時の安らぎを齎してくれる。

 暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も決して狼狽える事なく威風堂々と聳える樹こそが人に当て嵌めると正に真人間であるようにも思える。それは頼もしい限りでもある。

 英昭はそれを見習うかのようにして家に帰った。玄関を開けるとやはり母は居ない。自室へ上がり財布を手に取り中身を改める。高校時代に勝ち続けていた彼の懐はこの二日の大負けを差っ引いてもまだ十分余裕があった。そしてダイニングへ赴き食事をする。テーブルには夕食の支度がしてあった。質素ではあるが美味しそうな何時もながらの母の手料理だ。

 ジャーからご飯をよそぎ、味噌汁を温めて食事をし始める。母の手料理は常に美味しい。これだけの事があったにも関わらず何時になく食が進む英昭。食事が済んだ頃、母が出て来て話出す。

「今日も遅かったのね、残業? 付き合い?」

 英昭は迷わず返事をする。

「ああ、久しぶりにさゆりに会ったんだ、偶然にも駅前で、そこで一緒に飲んでいたんだよ」

「それは良かったわね、じゃあ母さんもう寝るわね」

「おやすみ」

 英昭は体よく母をあしらったつもりになっていた。母も大して疑念を抱いてはなさそうだった。

 再び部屋に上がり彼が思う事は決まり切っていた。たとえ母を騙せたとしても自分までは騙せない。こんな事が続けばそれこそ一大事である。だがそうすれば良いのか打開策は見つからない。

 三つ子の魂百までとまでは行かないまでも、既に身に付いてしまったギャンブル依存症はどうにもならない。今の内に然るべき施設にでも行って処方して貰うのが良いのか。それも気が進まない。はっきり言ってさっきの澤田さんの事など大した効果は無い。とはいえ今の自分にはじ自浄作用が全く備わっていない。ならばいっその事引き連れて行くしかないのだろうか。それも実に消極的な感じもする。

 果てしなく続く人生の試練。自分の愚行が招いた試練。普通の人ならそんなしなくてもいい試練など馬鹿馬鹿しく思えるだろう。だが現存するその試練は明らかに英昭に圧し掛かって来ていたのだ。

 2階の窓から微かに見える都会の夜景。今の彼にはこれすらも綺麗には見えない。さゆりの事さえも悔いるには及ばない。彼を助ける術は何も無いのか。

 さっき見た木。これだけは曲がりなりにも英昭の心を癒やしてくれる。たとえそれが開き直った、歪んだ感情であったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  二十話

 

 

 英昭はこんな形でしかさゆりと会えなかった自分を恥じた。都会の喧騒は彼の陰鬱な心持を更に曇らせる。大勢の群衆で溢れる帰宅ラッシュ時の忙しい駅前に、まだ世に擦れていないさゆりの純粋で淑女のような気品を漂わす綺麗な姿は少し浮いているようにも見える。彼女は英昭に近付いて来て徐に口を開き出した。

「久しぶりね、何処行くの?」

「何処ってこれから帰る所だよ」 

「ちょっとつき合ってくれない?」

「あ、ああ、いいけど」

 二人は取り合えず近くにあった居酒屋へ入った。そういえばさゆりと酒を飲むのは初めての経験だった。

「乾杯」

 控え目ながらもそう声掛けをしてビールを飲み出す二人。さゆりの飲みっぷりの良さに愕いた英昭は思わずこう言った。

「酒強いんだね、俺よりは大分強そうだな~」

「バイト先でたまに付き合いで行くのよ」

「なるほど、俺も同じようなもんだけど、出版社だったよね、将来どうするの?」

 さゆりは少し俯いて考えていた。未だに昨日の事を一切口にしない英昭の心境はどんな感じなのだろうか。もう忘れているだけなのか、明るく振る舞っているだけか。それとも始めから気にもしていないのか。

 たかだが電話の話なのだが、自分から始めて掛けた電話に出てくれなかった、折り返しすら無い。この事はさゆりとしては少々気を悪くする、そして彼の事を憂慮するに足りる事象であった。

「昨日は遅くに電話してごめんね、もう寝てたでしょ?」

「え? 電話?」 

 まさか電話すら見て無かったのか。打算的な考え方ではあるがもしそうだとすれば彼はまだ自分の事を想っていてくれるに違いない。でもそれはもう一つの心配事を決定させてしまう事にもなる。

 英昭は急いで携帯電話の着信履歴を確かめた。するとさゆりからの着信は確実にあった。俺とした事がなんてドジを踏んでしまったんだ、いくら凹んでいたとはいえ電話ぐらいはどうにでもなった筈だ。情けない.......。

「さゆり、本当に悪い! 昨日は疲れてて早くに寝てしまったんだよ、そして今日も結構忙しくてさ、ほんとにごめんな」

「別にそんなに謝ってくれなくてもいいいけどさ」

 事を急いてはいけないと思ったさゆりは明るい面持ちで飲み食いしながら色んな話題に花を咲かすのだった。高校時代の話は勿論、英昭と知り合う以前の中学時代、小学時代に更には幼稚園時代の話。そして今の大学での事やバイト先での事等。彼女がこれだけ積極的に話をする事は今までには無かった。そんなに気分が良いのであろうか。こればかりは他人には分からない。特に小学生の頃、同級生の男子と遊んでいる時にその子を泣かした話は結構面白かった。やはりさゆりは気も強いのだ。それでいて控え目な所ががまた良い。

 気が強くて運動神経も良く、知性にも富んでいる。さゆりに欠点があるとすれば何なのだろうか。英昭同様少し人嫌いな節も見受けられるがそれも大した欠点には見えない。だが完璧な人間など存在しない筈だ。

 その欠点を確かめたいという意味でも英昭は改めてさゆりに興味を惹かれる。それに対して欠点だらけの英昭は何とも情けない限りである。敢えて長所を上げるとすれば人の好い、いや好過ぎる、見せかけだけの優しさぐらいか。

 物事には加減があって少な過ぎてもダメで多過ぎてもダメな気もしないではない。行き過ぎた人の好さは反って人を傷つける事にもなりかねない事は言うまでもない。然るにそれは人が悪いという解釈さえ出来ると言っても過言ではない。

 似ているようで似ていない、似ていないようで似ている。そんな二人の間柄を慮るのは至難の業であるとも言えよう。少々酔いが回って来た二人はまるで幼い子供に戻ったかのように明るく朗らかな表情を浮かべ合い、快くも微笑ましい姿を現すのだった。

 

 

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 窓際の席に着いていた二人は窓外に目を向ける事が多々あった。都会の只中にあって駅前の忙しい雰囲気には大した情景も無い訳なのだが、目に映る人々から感じる事は何故そんなに急いで行動するのかという事と何処となく切なく見える所だった。

 英昭は目線を上に移し遠く空を眺めた。鴈(がん)か鴎か、はっきりとは分からないが数羽の鳥達が遙か彼方に消え去って行く姿が見える。

 人間関係に対して動物関係とでも言おうか。この鳥達の間にも色んな思惑があるのだろうか、ましあるとすればどんな思惑なのだ。真実は分からないまでもその飛び行く姿はあくまでも美しく一切の心の翳を見せない。些か短絡的ではあるが、そういう意味ではやはり動物や植物の方が人間などよりは精神面では遙かに勝っているようにも思える。無論一概には言えないまでも総体的に見ても決して間違った考え方ではないような気もする。

 それに対して少なくともあらゆる感覚、機能が発達しているにも関わらずそれを十分に発揮する事が出来ない人間とは何とも愚かな生き物ではあるまいか。

 天には天の、地には地の悩みがあるとも言うがどう考えても人間は愚かで滑稽に見えて仕方ない。それを感じる英昭こそがその典型例であったのかもしれない。彼はこの期に及んでも昨日の負け分を取り戻す事に執着していたのだった。さゆりとの出会いに喜びながらも。

「で、これから何処に行くの?」

 さゆりはまた同じ質問をして来た。その真意は当然英昭にも理解出来ていた。それでも尚言葉を繕う彼はどうしようもない愚者である。

「だから家に帰るんだって」

「ふ~ん、今ちょうど7時よ、まだ少し早いんじゃない?」

「いや、母は待ってくれてるからな、心配掛けたらダメだろ?」

「貴方本当に私が好きなの?」

「何だよ今更?」

「答えてよ!」

「好きに決まってんじゃん」

「それなら今日はとことん付き合ってくれないかしら?」

「今も一緒に飲んでるじゃんか、まだ何処かに行くのか?」

「それでもいいよ、貴方に任せるけど、取り合えず私に付き合ってくれない?」

 英昭は大いに迷った。いっそこのままホテルに行くのも一つの手ではある。でもどうしても負けを取返したい。俺は一体どうすればいいのだ。逡巡している内にさゆりは次の言葉を浴びせて来る。

「貴方と行った競馬場の事覚えてる?」

「勿論さ」

「あの時の詳細まで?」

 返事が出来ない。さゆりが言わんとしている事は十二分に分かるのだが、それでも自分の中に芽生えてしまった邪な想いはどうする事も出来ない。無論さゆりを蔑ろにするつもりなど全く無い。どちらかを取らねばならない。正に究極の選択だ。

 そうこうしている間にも時は刻々と進んで行く。英昭は痺れを切らして口を切った。

「悪い、やっぱり家に帰るよ、もういい時間だしな、今日は俺が出すから」

「そうね」

 さゆりはその一言だけを言い置いて先に店を出て行く。英昭が勘定を済ませて外に出た時、既にさゆりの姿は無かった。愛想を尽かされたのか、これで絶縁なのか、全てが終わってしまったのか。些か大袈裟な言い方だが満更間違ってもいないだろう。

 英昭はさゆりの面影を胸に秘めたまま勝負に挑む。客観的に見るとまず負けるのは明らかである。それでも足がそっちに進む。

 精神と肉体が分離してしまったのだろうか。もはや今の英昭には鳥達の美しい姿でさえも目に映らなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  十九話

 

 

 さゆりの記憶の中で自分から電話をした事は一度も無かった。当然英昭が出なかった事も。高校生時分では翌日にその様子を確かめる事も出来るのだが、今となってはそれも難しい。わざわざ家まで行くのも憚られる。そこまで深く考え込むのも彼女らしくない訳なのだが、何故か気になって仕方がない。

 これこそが恋というものなのか。離れ離れになって初めて経験するこの想い。こればかりは如何に聡明な彼女にも整理し難い事であったに違いない。さゆりは陰鬱な想いを秘めたまま眠りに就くのだった。

 パチンコで大負けした英昭が家に帰ったのは午後10時半だった。玄関を開けても母は出迎えてくれなかった。もうとっくに夕飯も食べて床に就く頃だろう。彼は敢えてダイニングへは目もくれず足早に部屋に上がった。

 その足音に気付かない母でもない。しかし母も敢えて息子に声を掛ける事はせずに放っておいた。

 英昭はその夜ご飯を食べなかった。それは母に心配を掛けたくないという事だけではなく、長時間パチンコなどをしていた為に胃の調子が悪くなっていたのだ。無性に吐き気がしてとても食事が喉を通りそうにもない。でも一応夕方に僅かながらも口にした食事のお陰で大した空腹感は無かった。

 まず用意してくれているであろう夕食。彼の経験上でも余程の事でもない限り母と夕食を共にしなかった事は無かった。これが残業や会社の付き合いなら何の後ろめたさも無いのだが、今回のような親不孝とも言える愚行には胸を絞めつけられる。

 正に自業自得であって他の誰でもない、自分自身が招いた災いなのだ。それを償う事よりも気になる事は今日の負け分を如何にして取り戻すかといった実に稚拙で浅はかな、その愚行を更に進ませるような情けない打算であった。

 それにしても自分は何故あのような悪の誘いに乗ってしまったのか。そして無理な追い打ちを掛けてしまったのか。今更考えても埒も無い事なのだが、これをはっきりさせない事には今後の人生にも大きく影響して来る事は明らかである。でも今の沸騰し切った彼の頭脳ではいくら考えた所でまともな答えが出る筈も無かった。

 さゆりからの電話さえも確かめようとしない英昭。彼もまた暗鬱な想いのまま床に就くのだった。

 英昭の部屋の色の薄いカーテンには強い陽射しを遮る力が無かった。部屋の中にまで浸透して来る陽射しは眩しくも峻烈で彼の身体を襲って来るような勢いがあった。

 熟睡出来なかった英昭であったが全く夢も観なかった。彼は夢が観たかったのだった。この悲惨な現実から逃避出来るような夢を。それを遮ったのはこの強い陽射しか彼自信の甘えなのか。

 仏教では夢も現もこの世に現存するものは全て幻であるとも言われている。だが嫌な想いをした時それが味方してくれる事などあろうか。逆に良い想いを無にしてしまう事の方が多いのではなかろうか。それこそが甘えた言い方でもあるのだが、世の中とはそこまで厳密で厳格なものなのだろうか。

 己が愚行を棚に上げるつもりなど全く無かった英昭だが、社会人となった今にして初めて経験する人生の課題。それは難題ともいえる大きな壁で、彼の目の前に大きな姿で立ちはだかって来るのだった。

 

 

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 部屋を出た英昭は恐る恐る階段を下りて行く。ダイニングで何時ものように母が明るい顔で待ってくれていた。母は何気ない様子で声掛けをして来る。

「おはよう」

「おはよう」

  挨拶をする二人の表情は大した翳を感じさせないまでも、何処となく憂愁を投げ掛ける雰囲気は如何ともし難い。二人して食事に赴く。母は明るい表情を崩す事なく訊いて来た。

「昨日は遅かったのね」

「ごめん、同僚と飲みに行ってたんだよ」

「そうだったんだ、友人は大切にしなさいよ」

「ああ」

 母は昨日の夕食の事は口に出さなかった。今食べているものが昨日の夕食だったのだろうか。それにしてはあっさりとした食事である。残り物には手を着けないような贅沢な家庭でもないのに、もしそれを捨てたとすれば母の想いはどうなのだろうか。

 それを憂慮する暇もない英昭は食事を終えてから颯爽と出勤する。母は玄関まで見送ってくれた。振り返る事を憚られた英昭はただ前だけを見据えて歩き出すのだった。

 

 通勤ラッシュに見る光景は実に忙しない限りだ。高校生時分から電車通学をしていた英昭だったが、いざ社会人ともなるとそれが一層苦になっていた。僅か数駅間ではあっても立っているスペースも無い程に押し合いへし合いで狭い空間に身を竦めながらも己を誇示しようとする人の所業とは一体何を意味するのだろう。

 卑屈にも感じる人の群れに対して動物や植物の群れはあくまでも自然体であって、美しくも見える。それを羨む訳ではないまでも動揺してしまう心境こそも自然ではある。

 高校時代には余り苦にならなかった事が今では苦になって仕方ない。これも英昭が成長した証なのか。是非はともかく。

 仕事内容は相変わらずのものでまだまだ先輩社員達から教わるだけの日々が続いていた。自分で言うのも烏滸がましいが礼儀正しい英昭はこれといって先輩から文句を言われる事も無かった。

 仕事もそれなりに覚えて来ていた。午前中は何とかやり過ごして昼にって休憩時間を迎える頃、一人の先輩が声を掛けて来た。

「お前結構頑張ってるな、みんな一目置いてるよ」

「有り難う御座います、自分なんて大したものじゃないですけど」

「その謙虚さがいいんだよ、でもあいつはダメだな」

「あいつとは?」

「この前盾突いて来たあいつだよ」

 久幸は既に目を付けられていた。これをどうこうする力は英昭には無い。だが悪友とはいえ同僚には違いない。この話を掘り下げて行くと久幸は勿論、他の同僚からもはぶられる可能性もある。別にそれを怖れる英昭でもない訳だが人の悪口は言うのも嫌だが訊くのも嫌だった。

「自分と違って負けん気が強いのでしょうね」

 何気なく放ったその言葉は自らを悩ます。昨日の勝負もあいつの負けん気が齎した勝利なのか。ギャンブルに於いては運が勝敗を分けると言われているが、その限りでもない事は英昭自信が一番良く理解していた事だった。運と併せて大きく影響してくる力。この力も馬鹿には出来ない。それは単なる技というだけでなく、力さえも運に組み込まれる一つの要素なのだ。運も実力の内。という言葉は言ったものである。運と力、その相乗効果に依って齎される勝利。どちらか一方だけでは決して勝つ事は出来ないのである。この事はギャンブルだけに限った話でもなくそれこそ森羅万象全ての事象に於いても共通して言える事でもある。勿論仕事に於いても。

 今の所は仕事では巧く行っている英昭でもギャンブルは絶不調。この事は彼を大いに悩ませた。少しボケーっとしていた英昭に先輩が言葉を続ける。

「ま~いいや、お前、あいつにだけは負けるなよ、俺も応援してるからな」

 先輩の言は英昭にも頼もしい限りだった。その後も午後の仕事を無事に終え帰途に就く英昭。今日こそは真っすぐ帰る。そう決めていた彼だったが、電車に乗る前にその誘惑は彼を襲って来る。

 しかし英昭が目にしたのはパチンコ屋の禍々しい姿ではなく、さゆりという恋人の美しくも質素な、それでいて少し切ない表情を浮かべる一人の女性の姿であった。

 

 

 

  

 

 

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