人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

通りゃんせ(宇江佐真理)を読み終えて

 

 

           足早に  通り過ぎゆく  正月よ(笑)

 

 

 新年の御慶目出度く申し納め候。旧年中は格別の御厚情を賜わり忝く存じ奉り候。

 本年も宜しくお願い致したく御座候。

 

 遅ればせながら新年のご挨拶とさせて頂きます。

 

 いやいや、それにしても例年同様、正月というものは呆気なく去って行きますね。早過ぎますわ。正に疾きこと風の如しです。

 今にして思えば年末が懐かしいぐらいなのですが、そんな悲観的な事ばかり言っていてはいけません。いい加減前向きになりましょう (;^_^

 また久しぶりの投稿になるのですが、ご無沙汰しておりました。皆様方におかれましては益々御健勝の事とお慶び申し上げます。

 という事で(どういう事やねんと)、今日は読書感想ですね。今回は我が尊敬してやまない三島由紀夫大先生以外の小説です。三島作品以外の小説を読んだのも久しぶりでしたが、結構面白かったです。

 

あらすじ 

 25歳のサラリーマン・大森連は小仏峠の滝で気を失い、天明6年の武蔵国青畑村にタイムスリップ。驚きつつも懸命に生き抜こうとする連と村人たちを飢饉が襲い……時代を超えた感動の歴史長編!

 要するに現代日本人の若者が何の因果か、図らずも江戸時代へとワープし、その時代で活躍する物語ですね。

 初めは元の現実世界に戻りたい一心で、その糸口を見出そうと必死になっていたのですが、時は過ぎるばかりで、だらだらと暮しているうちに何時しかその生活に慣れ、次々に襲い掛かる天災や事件に巻き込まれ悪戦苦闘しながらも、諦めずに何とか頑張って生き抜いて行くといった感じですかね。

 

見どころ 

 主人公の連(連吉)の為人を一言で言い表すなら硬骨漢だと思います。滝で行き倒れになった所で江戸時代へとタイムスリップし、目を開ければ時次郎、さなの兄妹が住まう人家に横たわっていました。

 この兄妹に助けられた恩から、元の世界に戻ると共に、律儀にも恩返しをしようと試みます。まずはここですね。この心掛けは本当に立派だと思います。あくまでも物語な訳ですから一見当たり前のように感じなくもないのですが、こう考える事自体が素晴らしく、人間らしい行いで、今の時代には珍しいとも思ってしまいます。

 一宿一飯の恩義とは言いますが、それどころか一年以上も江戸時代に居続けます。勿論元の世界に帰る術が見つからなかった事もありますが、川の氾濫に農作物の不作、飢饉、それらが起因する村人同士の諍い、更には凄惨な事件という人災までもが次々に巻き起こり、戻るに戻れないという事態に陥って行きます。

 それでも連は自己憐憫などせず、村の為にと前向きに必死に頑張り、それなりの成果を出します。

 この彼の所業ですよね。決して開き直る事なく、亦悲観する事もなく、とにかく村の為を思い躍進するのです。無論自分の為でもありますが、先に来るのは村の方です。この物事を客観的、総体的に捉える彼の思考は本当に素晴らしいと思います。歴史小説とはいえ、現代社会と比べた場合、その思考の余りの違いが手に取るよう分かります。
 元々歴史が好きな自分は感動しました。

 助けてくれた時次郎、さな兄妹もたいへん優しい、融通の利く人でした。初めは連の事を疑ってもいましたが、その働きぶり、誠実な為人に心打たれ、連と三人兄弟のように仲良く暮らす事になります。

 そして何時しか連とさなは恋心を抱くようになって来るのですが、時代が邪魔をします。二人は共に相思相愛だった筈です。でもそれ成し遂げられない事も事実で、連もさなもやり切れない想いであったでしょう。

 時次郎に頼まれ、連はこの村の知行主であるお屋形様に逼迫した状況を訴え、助力を仰ぐべく青畑村から江戸へと旅立ちます。

 江戸でも色んな事が起こりますが、連は無事役目を果たし村へと帰還します。彼は元々聡明な男だったのでしょうね。現代社会の知恵を使えば怪しまれますので敢えてそれはせず、でも自分が知り得た歴史や文化をヒントにしながら突破口を見出し、見事に困難を潜り抜け、更にはお屋形様からの信頼も得ています。

 つまりはこの主人公そのものの活躍、それが見どころなのです。物語に於いては当たり前とも思える事ながらも実はその限りでもなく、連は諦めないという在り来たりな思考を精妙に、自然的に教えてくれているような気がします。

 

最後に

 この物語はジャンル的にはファンタジーになるのでしょうか。とはいっても今主流になりつつあるライトノベルのような軟派な異世界ファンタジーのようなものでは決してなく、あくまでも純文学に類する作品だと思います。

 ただ三島作品や他の純文学と比べると明らかに読み易いです。枚数は結構多いのですが、すらすら読めましたね。

 話は変わりますが、タイムスリップに影響すると言われているワームホール。これさえあれば本当に時空を行き来する事が出来るのでしょうか。もし出来るのなら毎年三回ぐらいは年末年始を繰り返したいと願う自分が居ます(笑)

 もっと昔に戻って人生をやり直したいとも思いますが、たとえ戻った所で、その人生に大した変化は無いのでしょうねぇ~。そんな気もします。

 歴史小説とはいえ、ファンタジーのような物語を純文学風に書ける著者の力量も凄いと思います。作家を目指す自分としてはまだまだ学ぶ点が多そうです。

 

 という事で以上、「通りゃんせ」のレビューでした。

 まだまだ寒い日が続きますが、ご自愛くださいますようお祈り申し上げます^^