欲望の色 序章 ─戯れ─
「ブルンブルンブルンブルン、ブルンブルンブルンブルン!」
6時間目の授業も終わり学校を後にする頃、定番のようにその直管マフラーの爆音はまるで周囲一帯を威嚇するかのような勢いで鳴り響く。
「おう修二! また悪さでもしに行くんか?」
「また修二や、あいつも懲りんやっちゃで、何であんなに飛んどんや」
「うるさいな~」と生徒が口々に言う。
先生は「放っとけ、そいつはもううちの生徒でも何でもない」と吐き捨てる。
英樹は、なんぼやんちゃくれ(不良)とはいえ仮にもまだ中学三年生の修二にそんな冷たい事を言うんかい、と思ったが確かに修二もたいがいな奴やったから、どっちもどっちかと割り切っていた。
さっと修二の単車のケツに跨って二人で国道を流し始める。夕暮れ時の海辺は絶景である。時には猛スピードで飛ばし、時には蛇行運転しながら、俺達の青春はここにこそあると何時もこんな感じで生きていた。
その頃の俺らには一部を除いて既に敵はいなかった。国道を何処までも走り続け他県に入った事もあったがその日は取り合えず家に帰った。
英樹の父親は鍵師を生業としていた。厳しく礼儀正しく間違った事が大嫌いな正義感に強い父ではあるがそんな父も昔はかなりやんちゃしていたのである。口うるさい所もあったが英樹はそんな父が大好きだった。
週末には決まって俺を単車に乗っけて海岸まで突っ走る。海辺の屋台で売っているホットドッグをたま~にだけ買ってくれる。そして砂浜に腰を下ろして黙って遠くを見つめているだけなんだがその目と背中には何か頼もしいものを感じた。
英樹のそんな幼少時の思い出は今もはっきりと瞼に焼き付いている。
父は何時も言う「若い頃はなんぼやんちゃしてもええ、その代わり絶体人様には迷惑掛けるな、そして男やったら硬派に生きろ」と。
英樹自身そういうスピリットは好きやったし実際そういう性格だった。
他方修二は何時も家には帰らず女の所に寝泊まりしている。こいつは軟派な不良であったが英樹とは幼馴染みで昔から連るんでいたから英樹も腐れ縁と思い見捨てる事は出来なかった。
翌日学校では昼ぐらいに隣のk中学の奴等が団体で攻めて来た。
「お前らドヘタレの相手しに来たったで~」
「ゴラ早よ出て来んかいやわれダボよ!」
ガラの悪い怒声が鳴り響く。
ここの地域の奴等はかなりヤバい人種で先生は勿論、地域の住民のほとんどがビビる程やいこしい(ややこしい)人種であった。
ついに来たかと喧嘩慣れしている奴等は勇み昂奮して出て行くが真面目な生徒はみんな足早に帰る。向こうは軽く見積もっても50人以上はいる。こっちはせいぜい十数人でなんぼ精鋭揃いとはいえ劣勢である事は否めない。俺と龍二、ヒロ等でひたすら頑張ったが結局はやられた。もう立っている力もない。このままでは完全にカタに嵌められると覚悟した時やっとこさ警察が来て何とか一命を取り留めた。
警察署から帰る頃旨い具合に修二が来る。
「お前今頃来たんかいや」
「また何かあったらしいな」
「アホか、お前みたいなヘタレはすっこんどれ、どうせまた女のとこでチャンソリ(シンナー、トルエン)でも食うとったんやろ」
「・・・」
こいつはこういう時には一切役に立たない、寧ろ足手まといになるのは分かっていたからみんなそこまで頭にも来ない。英樹はある意味羨ましかった。
だがまだまだ予断は許さない。これからどないするんやとみんなで相談していたら修二が5コ年上の先輩fを連れて来た。
またやいこしい人を連れて来たなとみんなは不安がっていた。
このfは中学を卒業してソッコーでヤクザになりまだ若いながらも既に役職に就いていた。
確かにこの人が間に入ってくれれば事は一気に収まる、でもその代償は計り知れない、一生頭が上がらなくなってしまう。とはいえこの窮地を脱する術は他にはない。
ある事ない事色々と逡巡していたが結局はfに頼む事にした。
三日後には事は全て解決してf曰く「もうあいつらは何もせーへんしこれからは何の心配もいらん」との事であった。
取り合えずみんなは安堵したがそんな中、修二がボコボコに腫れあがった顔をして久しぶりに登校して来た。
<
|