極道女子高生 六章
六章
いよいよ長かった夏休みも終わり新学期が始まる。誠二は意気揚々とした心持で学校に通う。今や二人の仲は学校でも周知の事実となっていた。
新学期になったとはいえまだ夏も終わってはなく九月上旬は暑く誠二の半袖の学生服の上からも汗が滲み出て来る。その汗を肩で拭おうとした瞬間ハンカチを誠二の額に当てる者がいる。誠二はあやかと思い「脅かすなよあや~」と言って振り向くとそこには奈美の姿があった。この奈美も誠二あやとは小学生からの同級生でこの前の一件もあり誠二は嬉しい気分になっていた。
奈美は言う「誠二君久しぶり、夏休みはどうだった?」
「ま、それなりに楽しんだけどね」
「ふ~ん、そうなんだ」
「何だよ」
「別に何もないわ」と言って奈美はその場を足早に立ち去った。
誠二にはあの子が何を言いたかったのかよく分からない、釈然としない気持ちのまま教室に辿り着いた。
もはや今の誠二に文句を言ってくる者も、まして揶揄おうとする者など一人もいない。誠二は堂々と机に坐って授業を受ける、その姿は以前の誠二の姿ではなかったのである。
昼休みになり誠二はあやの事が気になり二つ隣の教室へ向かう。しかしあやは居なかった。他の生徒に訊くと今日は休んでいるらしい。あやが学校を休むのは珍しい事であったので暇を持て余した誠二は奈美の所へ行き昼休みを潰そうとした。
奈美は朝の雰囲気とは打って変わって何か愛想がない様子だ。それを訝った誠二は「どうしたの奈美ちゃん、元気なさそうだけど何かあった?」と訊いた。
「だから~別に何もないけど」
「だったら元気出せよ」
「じゃあ訊くけどあなた何故あんな子と付き合ってるの? いくら幼馴染といってもあの子はヤクザの娘なんだよ、誠二君とは不釣り合いだわ」
「そんな事分かってるさ、でも俺はあいつの事が好きなんだ」
「へ~変わったわね誠二君、もう昔の誠二君じゃないのね、私の知ってる誠二君はそんなんじゃ無かったわ、もっと真面目で素直で優しくて何時も朗らかで、喧嘩なんかする子じゃなかったのよ」
「ちょっと待てよ、そりゃ俺だって変わるさ、弱かった自分が嫌いで嫌いで仕方なかったんだよ、でも本質的な所は何も変わってないよ」
「本質って何よ?」
「それは・・・」
「ほら言えないじゃない、誠二君は変わったのよ」と言って奈美はまた立ち去った。
午後からの授業中誠二は考えていた。俺は決して変わってなんかいない、ただちょっと強くなっただけなんだ、それの何処が悪いんだと。
その日誠二は道場へは向かわず、あやの家に立ち寄った。心配だったのだ。
あやは家に居た。誠二の顔を見ると「なんだ、わざわざ来てくれたのか、何も心配するような事はねーよ」とは言ってるが少し怪訝そうなあやの表情に誠二は訝った。
「何かあったのか?」
「何もねーって」奈美と同じ事を言うあや。
「風邪でも引いたのか?」
「私が風邪なんか引く訳ねーだろ、しつけーな~、だったら言ってやるよ、今朝うちの運転手の若い衆が下手打ったんだよ」
「どんな事?」
「私に対して無礼を働いたって事さ、で、態度が悪かったからちょっとカマシ入れてやったら、もうこんな事やってられないとか言い出したんだ」
「じゃあ辞めて貰ったら?」
「相変わらずバカだなおめーは、うちらの世界ではそう簡単には行かねーんだよ、辞めるのは勝手だが下手打ちした事に対してのケジメが必要なんだよ」
「それでどうするつもりなんだよ?」
「まあどの道破門にはなるだろうけど、エンコの一本ぐらいは飛ばす事になるだろうな~」
「エンコって指の事か?」
「あぁ、よく知ってんじゃねーか」
誠二はそれぐらいの事で一々指を飛ばしていたら指が何本あったも足りないと改めてヤクザの世界の恐ろしさを知ったような感じになった。
その晩誠二はなかなか眠る事が出来なかった。
奈美とあや、今日一日だけで色んな事があったような感じがして神経質な誠二は一々思い悩むのであった。
全てを払拭させてくれる会心の一撃のようなものはないものかとまた刀を手に取る。
すると何時ものように眩しい光が差し込んで来る、その刀身に映る自分の顔を見て、俺は今迷っているのか、とすれば一体何に対して? 何故に? むしゃくしゃした誠二は刀を縦に一振り一閃した。理屈抜きに何かが吹っ切れたような錯覚ともいえる心地よい空気で部屋が充たされる。これはどうしたんだ? 俺は今何をしたんだ? と吹っ切れた筈の気持ちはまた迷走に向かう。苛立った誠二はその刃の尖端を足の指先に落とす。
触れただけで血が滲み出て来る。少し痛かった。だがその流れ出した血を見て誠二は我に返る事が出来たのだった。
深夜二時半、誠二はようやく眠りに就く事が出来た。
次の日も天気は良かった。またヒコーキ雲が流れている。
あやは空を見て「今日もいっちょやってやるか!」と爽快な気持ちで登校する。
運転手は長い付き合いのシンであった。だが道中シンが妙な事を口走る「お嬢シュンの事穏便に済ます事は出来ないですかね?」と言うのである。
「おめー何言ってんだよ、あいつは私にヤマ返したんだぜ、知ってんだろ?」
「勿論です、ですけどあいつは自分とは古い仲でもあるんです、どうか穏便に頼みます」
「ふざけんじゃねーよコラ、おめーそんな温い覚悟でよくこの世界に入って来たな、この世界に浪花節なんかは通用しねーんだよ!」
「そうですよね・・・」
あやはせっかく晴れていた自分の心と天に対して寧ろ苛立ち車の窓を開け外に唾を吐いた。
学校では相変わらず眠たい授業が待っていた。昼休みに誠二に会ったあやは
「昨日は悪かったな」と意味もなくそういう言葉が出ていた。
「何も謝って貰う事なんかないけどな」
「そうだな、埋め合わせって訳じゃなねーけど今日も喧嘩しに行くか?」
「いや、今はそんな気分じゃないんだよ」
「また何か考えてんのか? どうつもこいつも暗らい奴ばっかだな」
「そんなんじゃないよ」
「はいはい分かってますよ、少しは大人になれって言いたいんだろ」
「そういう訳でもないけど」
「ふん、相変わらずはっきりしねー奴だな~、ま~いいや、だったらゲーセンにでも行くか、私のパンチの威力を見せてやるからよ!」
「そうだな」
放課後になりあやと二人で下校する時誠二は奈美の姿を見た。
奈美も誠二に気付いたらしく目を見て軽く微笑んだような気がした。
あやは「何だよあいつお前に色目使いやがってよ」と不機嫌そうに言う。
「そんなんじゃないだろ」と誠二も取り合えず相槌えお打ったつもりでいた。
ゲームセンターに着いた三人は真っ先にパンチングマシーンに向かう。弱そうな奴等がゲームをしたいた。あやはそいつらに対して「ヘタレは早く家に帰って勉強でもしてろよ!」と言い放ち強引に止めさせてゲームをしようとした。
誠二はまたか~と思ったが後の祭りであった。
その連中もあやの事は知っていたらしく何も反抗もせずに立ち去る。あやは上機嫌でゲームをし始める。正に何時もの光景ではあった。
得点は勿論あやがトップで次いで誠二、シンは二人のそれを遙かに下回っていたのである。それを訝ったあやが「シンおめーまだ何か考えてんのかよ」と訊くと
「いや、そんな事はないです」と言葉少なに言うシン。
取り合えずトップの得点だったからヨシとするかといった感じであやは帰る事にした。
家に帰り晩飯を済ませた頃親分が厳しい顔つきであやに言う
「取り合えずあいつは破門にしたからこれから当面の間お前の運転手はシン一人だけだ」
「で、ケジメは取らせたのかよ?」
「それは当たり前だ」
それを訊いたあやは一安心したものの心の何処かでシュンを憐れむ気持ちもあった事は否めない。いくらあやが男勝りとはいえ所詮は女でまだ高校生であるから仕方なかったのかもしれない。
その晩も半月が出ていたが少し傘を被っているその姿はあやを快く寝かしてはくれなかった。
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日常生活で感動した事
感動した事といっても、ま~最近はコロナの影響で外出が激減したとはいえ非常に少ないですね。でも一応あるにはあるので軽く紹介してみたいと思います。
まず感動とは
感動とは物事に深い感銘を受けて強く心を動かされる事。亦は感情,情動,気力などを含む総括的用語で精神機能を知,情,意に分類する場合の情にあたる。とされています。
ま~端的に言えば知性、感性、理性、品性の中の感性に位置し、心を揺さぶられる事と言って良いでしょう。
でもそれは人間が誰から教わった訳でもなく持って生まれた「喜怒哀楽」この四つの感情から生み出されるものであって、ただ嬉しかったとか、涙したとか、そういう類のものではないような気がします。というのが持論です。
相変わらず硬いですね 😅
汗を拭ってくれた先生
これは遠い昔話で自分が中学一年生の頃のエピソードです。
自分は結構背丈が高い方だったので学校の朝礼や集会等で整列している時は何時も一番後ろか後ろから二番目という位置でした。
入学当初気慣れない分厚い学生服を着て晴天の下で立っていると汗かきな自分は早く朝礼終わってくれないかなと苛立っていました。
すると後ろから誰かが自分の汗をハンカチで拭ってくれているのです。
額から頬、顎、首と丁寧に何度も拭いてくれました。
ビックリしましたがそれは国語を教えてくれていたまだ若い女の先生だったのです。
勿論有難い話なんですが恥ずかしい気持ちもあってその場で「有り難う御座います」
とは言えずに寧ろそれによって益々汗の量が増えていました。情けなくもカッコの悪い話です 😢
入学当初は二三度ありましたが、その後してくれなくなったのはその先生も自分が恥ずかしがっている事に気付いたのかもしれませんね(笑)
しかしあの先生は何故あんなに優しかったのかとか世の中あんな一もいるんだなとか、あれから30年も経った今頃になってふと思い出したのです。
ま、淡い青春の思い出です^^
地下鉄の階段で倒れた女性を介抱してくれた人
これは最近の話なんですが地下鉄海岸線の構内の階段は長いです。自分は運動不足解消の為極力エレベーターやエスカレーターは使わないようにしていますがその時も階段を上って帰ろうとしていました。
すると直ぐ前を歩いていたおばさんが躓いて倒れたのです。
前に転倒した時「ドン」というような鈍い音が直ぐ後ろにいた自分には聞こえました。そしてそのおばさんは額から血を流して動きませんでした。ただ意識はあったので一安心しました。
自分は「大丈夫ですか!? 今直ぐ救急車呼びます」と言ったもののポケットに手を入れると電話を持っていないのに気付きました。しまった~と思いましたが後の祭りでどうすれば良いのか分からずおばさんの血を拭いているのが精一杯でした。
すると上から一人の男が降りて来て「どうしました?」と声を掛けてくれて直ぐに119番通報をしてくれました。そして自分は改札まで走って行き駅員にその事を伝えると、駅員は担架を用意しておばさんを乗せて階段を上がり地上まで運んで行きました。
自分が駅員に伝えに行っている間そのおばさんを介抱してくれていた男性には本当に感動しましたね~。というよりまず声を掛けてくれた時点で軽く感動しました。
当たり前の事で小さい事かもしれませんが少なくとも自分は感動しました。今の時代何を見ても何が起きても我関せずで対岸の火事を決め込んでいる人が多いような感じがするのですがその人のとった行動はそうでは無かったのです。
これはただ自分が余り世の中を悲観的に見ているだけでしょうか。
「でも中にはこんないい人もいるんだな、世の中捨てたものでもないか」と少し明るい気持ちになった事は確かですね 😉
その後おばさんは救急車で運ばれて行きましたが勿論無事である事を願います。
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極道女子高生 五章
五章
部屋に通された何も口にせずただ座していた。あやは女のくせに胡坐をかいている。
すると親分が「おう誠二君久しぶりだな、よく来た、どうだ面白かったか?」と意外と気さくな挨拶をしてくれた事に誠二も少しは力が抜けた思いになり素直に「はい」と答えた。
「ま~足崩して楽にしなさんな」
「有り難う御座います」
その部屋は十六畳ほどある和室で畳は綺麗な青に近い緑色で床の間には三本の恰好の良い高そうな刀が飾られている。その刀を凝視していた誠二に親分は
「おうあれか、あれは備前長船兼光といってな、岡山の名刀だよ、持って帰るか?」
「いいえ、とんでもありません」
「ま~遠慮するなって、昔から知らない間柄でもねえし今やあやのいい人なんだからやるよ」
それ以上は断る勇気もなく誠二はその刀を有難く頂いた。
するとあやが「良かったな~おい、親父は刀のコレクションが好きで何十本も持ってるのにまだ私は一本も貰った事ねえんだぜ、ほんとに羨ましいよ」快活に笑いながら言う。
「刀を鞘から抜いてその光輝く刀身を眺めていたら心が洗われて力が沸いて来るんだよ、ま、家に帰ってから確かめるといい」
「はい分かりました」
「ところで誠二君、君ははっきり覚えてないだろうけどまだ二人が幼い頃君はあやをおぶってこの家まで運んでくれたんだよな、恐らくあやは覚えてると思うけがな」
「あ~覚えてるよ」
「やっぱりな、お前はその事が忘れられずに誠二君と仲良くなったんだろ、お前は単純な奴だからな」
「そんなんじゃねえよ」
「まあそういう気の優しい誠二君で義理もある事だから、あやと付き合う事は別に構わねえが、ヤクザの一人娘である事は忘れないで欲しいんだ」とちょっと厳しい顔つきをして言った。
「何言ってんだよ親父」
誠二はせっかく楽になった気持ちがまた少し強張って行くような気がした。
親分が「おい」と声を掛けると若い衆が饗膳を整えて入って来た。
「誠二君、取り合えず一献」と親分は盃を差し出す。誠二は酒など飲んだ事もなかったがとてもじゃないが断われる雰囲気でもなかったので有難く頂いた。日本酒みたいだったが初めて飲んだ酒は苦くて辛い、強く喉を刺激する違和感があったが飲み終えると少し甘い感じもした。そして急いであての菓子を食べると、あやが「お前初めてかよ」と笑い飛ばす。親分は「いい飲みっぷりだと」褒めてくれた。
誠二はこの最初の一口だけで顔が少し赤くなっているのが自分でも分かった。
あやは平気な面持ち豪快に酒を飲んでいる。そんなあやを見た誠二はこいつはどれだけタフなんだと思い自分の小ささを恥じた。
「ま、後はゆっくりして行きな」と親分は部屋を出る。誠二はやっと解放された気分になった。あやは既に何杯も酒を飲みいい調子になっていて「おうシン、そんなとこに坐ってないでお前もこっち来て飲めよ、退屈だろ」と酒を勧める。シンは「それじゃお言葉に甘えて」とあやから勺をして貰った。
「シン、この前の喧嘩面白かっただろ」
「はいそうですね」
「またしようや」
「楽しみです」
「おう、お前今度はやられるなよ」
「はい・・・」
すると誠二が「明日行こう」と似合わない事を言い出した。酒が回って来たのだろうか。あやは「おっ! やっとその気になったのか」と嬉しそうだ。
「分かった、じゃあ明日な」と一瞬にして段取りが決まってしまった。
帰りの車の中でシンは「誠二さん、あんな事言って大丈夫ですかい、俺達は嬉しいぐらいだけどあんたはあくまでも堅気さんですし、あまり調子乗っているともしもって事もありますからねぇ」と少し心配そうな顔で言う。
「大丈夫ですよ、今は空手もやってて前までの自分とは違うんです」
「それならいいのですが」
家に着いた誠二はそのまま横になった。酔いが覚めて来てさっき言った事を後悔していたがそれが本音でもあった。その晩は何の夢も観ずに熟睡した。
翌日誠二は昼まで空手の稽古に出ていた。みるみる上達し今では二段になっていて師範からも同僚、先輩からも褒められる存在になった。
師範は言う「お前大分強くなったな、それは良い事この上ないのだが喧嘩はダメだぞ」と念を押す。「あやはあういう奴だから特別なんだよ、家柄もあるしな、しつの親父さんからも多少の事は大目に見てやってくれと頼まれてもいる、だがこれからが問題だ、今はまだ高校生だからいいが大人になってまであんな事ばかりしていたら何時かはやられる、いくらあいつが強いといっても所詮は女だしな子供の喧嘩で終わるような甘い世界でもねえだろ、俺もあいつが子供の頃から面倒見て来たから好きなんだよ、あいつを見てたら危なっかしくてな~」
「大丈夫ですよ、俺が付いてます」
「えらく頼もしい事を言うようになったな、じゃあ頼むぞ!」
「押忍!」
誠二はあやの事を守るという意味でそう言っただけで喧嘩を辞めるつもりはなかった。
師範がそこまで読んでいたのかまでは分からない。
稽古を終えた誠二は一直線にあやの家に向かった。あやとシンが出て来て「じゃあ行くか」と颯爽と出発するする姿は清々しかった。
街へ出て歩いている恐らくはカツアゲされているような場面が目についた。早速三人はそいつらを叩きのめす。今度は誰一人危ないシーンもなくあっさり片付けて次に行く事にいした。
「全然張り合いなかったな、今はあんな奴等ばっかだな」と快活に言うあやを見てシンはわくわくしながらも何時になく慎重な顔つきをしている。
「なんだよシン、そんな顔しちゃってさ」
「いえ、そんな事ありません」
「もっと暴れまくろうぜ」
「そうですね」
高架下を歩いていたら次はホームレス狩りをしている中高生がいる。あやはこういう類の連中が大嫌いだった。勿論そのグループも瞬殺した。そしてその次も。
もはや世直し隊でもしている風であった。誠二も気持ち良かった。
この調子で行けばこの辺のゴミは一掃出来る感じにさえ見えた。
あやは「また次行こう」と言うのである。流石に疲れた誠二とシンの二人は「今日はもうこの辺でいいんじゃないの」と言うと「もうヘタっちまったのかよ、しょうがねな」とあやは渋々諦めた。
その晩もあやは心地よく眠りに就いたが誠二は少し思い悩んでいた。
今頃になって昼間師範に言われた事を思い出したのである。確かにあまり調子に乗り過ぎるのも危ない気がするし自分の将来の事も考えなければならないとまた我に返った。
夏休みも終盤に近付き誠二は残しておいた読書感想文に手を着けた。
未だに読むのは怖かったが仕方がない。そう割り切って読み出すと、やはり雲行きは怪しい限りだ。途中までは結構良い方向に向かっているような気もしていたのだがその二人は結ばれそうにない、それどころか悲惨な結末が待っていそうだ。身分の低い女の方はそれが理由でまはや囚われの身にさえなっている。これからどう考えてもハッピーエンドで終わる気がしない。そう思った誠二はあと50頁程を残してまた読むのを止めてしまった。
どれだけ俺はメンタルが弱いのかと改めて思った。それを恥じた誠二はあやの父親から頂いた刀に手をかける。鞘か抜いて刀身を眺めるとその閃光は夜の暗闇には凄く眩しく一瞬目を閉じた。そしてその刃を先から先まで見つめると親分の言った通り勇気が湧いて来るのである。
刀をそっと鞘に納めまた物語の続きを読み出した。
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牙狼<GARO>
行け~風のごとく 魔戒の剣士よ
月満つる夜に 金色になれー
闇に潜むホラーを退治する魔戒騎士、その中でも最高位の称号を持つ黄金騎士ガロ。
ガロは一体何処へ向かうのか、人並みの倖せを手にする事は出来ないのか。ただホラーを狩る事だけが生き甲斐なのか。
余りにも切ない宿命(さだめ)を背負ったガロの血筋、だが悔いる事なく退かず、媚びず、省みず、ただ強く前に突き進むのみ。そんな儚くも壮絶で壮大なガロの世界。
いや~カッコいいですね~、マジで痺れます 😉 転生があるのなら自分もガロに生まれ変わりたいと思った事もありましたが、ま~無理ですよね(笑)
ストーリー
画家を夢見る女性・御月カオルは初めての個展を前に張り切るが、同時に幼い頃に読んだ、父の描いた「黄金騎士」の絵本を夢に見ることが気になっていた。心理カウンセラーの龍崎駈音に相談することで一応安心したカオルは個展に臨むが、画廊のオーナーが突如として異形の化物に変異し、カオルを襲ってくる。その時、カオルの前に白いコートをまとった謎の青年が現れ、変身して化物を倒す。その姿は、正にあの絵本に描かれた「黄金騎士」そのものだった。
キャスト
冴島鋼牙 - 小西大樹
御月カオル - 肘井美佳
涼邑零 - 藤田玲
龍崎駈音 - 京本政樹(特別・友情出演)
倉橋ゴンザ - 螢雪次朗
三神官・ケイル、少女 - 渡辺けあき
三神官・ベル - 岡本杏理
三神官・ローズ - 柏幸奈
コダマ - マーク武蔵
見どころ
黄金騎士ガロがホラーに立ち向かうシーンは圧巻です。特に序盤では生身の人間から魔戒騎士へと鎧を召喚すると無双の強さになります。そしてガロは次々にホラーを倒して行きます。そんな日々が続いていたのですが途中からは三神官率いる番犬所から目を付けられるようになりそのボス的存在である暗黒騎士キバ(バラゴ)との因縁の闘いへと発展して行きます。
このバラゴこそ父の冴島大河の弟子でありながら師匠を殺した悪の元凶なのですが大河とは色んな確執があり圧倒的な力を手に入れるべ闇に魂を売り渡してしまいます。
そして冴島鋼牙に様々な試練を与えて来るのですが鋼牙は力の差を跳ね返し見事に勝利を掴む訳です。
端的に言うと「鋼牙の志、心根、心意気」ですね。これがあったからこそ鋼牙は苦戦しつつも最後まで諦める事なく突き進む事が出来たのです。勿論それにはカオルとの恋、ザルバや零、邪美との友情、父大河との固い約束。
そういった絆が鋼牙を強くさせたんですね。この辺りはいくら黄金騎士ガロといえども決して一人の力だけでは生きて行く事は出来ない、所詮は同人間である事には違いないといった人間ドラマも感じさせてくれます。
その中でも自分が一番好きだったシーンはバラゴとの最終決着戦に挑もうとする鋼牙と零、その前にはバラゴの子分であるコダマ、ガルム親子が立ちはだかります。この二人は無敵の強さを見せつけ二人掛かりでもなかなか倒せません。しかし覚醒した二人は何とか苦戦の末勝利を収めます。
特にこのコダマの殺陣も実にカッコよくて見どころの一つと思います 😉
初代ガロではこのコダマことマーク武蔵さんが殺陣師を担当していたらしいですね。
感想
とにかくこのガロシリーズは初代に尽きます。勿論後のシリーズもそこそこは楽しめますが自分は初代が一番好きです。因みにパチンコも初代ガロが一番出てましたし面白かったです。あの頃に帰りたいぐらいです(笑)
鋼牙役の小西さんがイケメン過ぎるんですよね ✨ イケメンとかいうワードもあまり好きではありませんが男の自分から見ても小西さんはイケメンです。こういう人こそが真のイケメンと思いますね。
他にもそうそうたる俳優が出演していて見応えがありますよね。
そして音楽は「JAM Project」と! このガロシリーズのJAM Projectの音楽は最高ですよね。その中でも自分が好きな曲は「SAVIOR IN THE DARK」と「我が名はガロ」です。本当にカッコいいですよね。
また小西さん主演のガロをやって欲しいと切に願います。
そして自分自身も陰我を生み出さぬよう日々精進して生きて行きたいとも思います 😉
<DMMで観る>
極道女子高生 四章
四章
夏休みに入り今度は誠二から積極的にあやを海水浴に誘った。
「海か~、でも私は背中に墨入れてるからな~、そうだ、それなら親父が贔屓にしてるプールに行こうか?」
「海もプールも一緒だろ?」
「それが違うんだよ、そこは親父とは古い付き合いで貸し切りにしてたまに若い衆を連れて行く事もあるんだ、そこなら気兼ねなく遊べるぜ!」
「なるほど、いいな」
誠二も本当は二人きりで行きたかったのだがそれは仕方がない。あやと一緒ならいいと割り切る事にした。
その日も晴れていた。照り付ける陽射しが眩しい、燦然と輝く太陽を見て誠二は青春を謳歌している気持ちになっていた。
だがいざプールに着くと入れ墨軍団がこぞって入って来る。一体何人いるんだと誠二はちょっと気後れした。
「兄さん、いい提案出してくれてサンキューな」
「いいえ」
「みんなお前のお陰だってハリキってるぞ、お前も粋な事を思いつくもんだな」
誠二はこうなったら思いっきり遊んでやれと意気揚々とでプールに飛び込んだ。
すると他のメンバーも次々に飛び込む。下手な人は腹から飛び込んで「バシャーン」という鈍い音が響く。それを見てみんなは大いに笑っている。
取り合えず25m泳いでそこで休憩しているとあやが綺麗な曲線を描いて飛びこむ姿が目に入った。そして25mを一瞬で泳ぎ切ったのである。それを見た若い衆達は「お嬢流石ですね~、あや姉最高!」と声を上げる。
誠二はあやは何でも出来るのかと呆気にとられていたがその背中の入れ墨は実に綺麗で神秘的妖艶で且つ威圧感があり、他のメンバーのそれとは天地の差があるほど美しさに愕いた。
次に潜ったままで誰が一番泳げるかという競技をそれも賭けでやる事にした。
当然みんなはあやに賭ける事が分かっていたので賭けにもならない。でも一応真剣に泳いだ。結果は勿論あやが一番で100mを泳ぎ切ったのである。それを見たみんなはまたあやを褒めそやす。誠二も柄にもなく負けん気を出して75mを泳ぎ切った。
するとあやが「すげーじゃねーか、お前が2番目かよ」と笑いながらはしゃいでいる。
他のメンバーも「兄さんも結構やるね~」と褒める。
みんなは大いに楽しんだ。
プールを後にした若い衆達は口々に言う「兄さんお陰で今日は息抜きできましたよ、ほんとにありがとう」
誠二はただ提案しただけでこれほど律儀に礼を言ってくれる事に愕いた。あの人達は普段よっぽど気を遣ってるんだな~と気の毒な気持ちにもなった。
あやは「今日は楽しかったな、今度家に遊びに来いよ面白いもの見せてやるよ」と機嫌良く言って帰って行く。厳ついメンバー達がサングラスをかけて厳つい高級車で次々にプールを後にする光景は滅多に見られないものであった。
その夜も綺麗な月が出ていた。誠二はその月を眺めながら、今日はプールにまで行っておきながら結局あやの素肌には触れる事も出来なかった事を後悔していた。だがあんな状況では仕方がないし、これからいくらでも機会はあるだろうと前向きに考える事にした。
誠二はあやの事を想いながらも夏休みの課題にも頑張って取り組んでいた。
結構多いので手こずってはいたが何とか大半を終える事が出来た。そんな中国語の課題で読書感想文だけが残っていたのだが誠二が選んだ一冊の本は恋愛物語であった。
ストーリー的には歴史小説で身分違いの二人の恋物語である。その二人は身分の違いに翻弄されつつも恋を成就させるべく必死に足掻いているといった内容だ。誠二は今の俺と似てるな~と自分の人生に照らし合わせて読んでいたのだが途中で読むのを止めた。結末が怖かったのである。知りたくなかった。相変わらずメンタルは弱い。そんな自分を恥じたがどうしてもこれ以上は読めない。十代の若者の純粋な気持ちの葛藤が如実に現れたのであろう。
そうこうしていた或る日あやから電話が掛かって来た。
明日の夕方家に来いと言うのである。ちゃんと車で迎えに行かせるからと。
誠二は下らない詮索はせずにただ嬉しく胸が弾んでいた。
あやの家には幼い頃行った事はあったがもう何年も前の事ではっきりした事は覚えていなかった。
家に辿り着くと目を疑うような立派な豪邸で庭には池まであり榊や松の樹々に牡丹の花、大きな庭石、鈴虫の声と実に風流な光景がそこにはあった。
「お疲れやす」という挨拶を受けて部屋に案内されるとそこでは盆が開かれていた。
これも初めて見る光景であった。
「さあ張った! よござんすか? 勝負!」と声を上げているのはあやだった。
あやはまだ高校生でありながら壺振りまでしたいたのだ。
身体には晒しを巻いて入れ墨が見えている。長い髪をアップにして渋い表情をしたあやが壺を振っている姿はカッコ良かった。改めて誠二はあやに惚れ直した気持ちになった。
勿論誠二は丁半博打には参加せず後ろの方で観ているだけだった。
暫くして親分らしき貫禄のある人が入って来る。この人があやの父親なのだろうかと思ったがあやの采配が余りにも見事だったので他の事は気にならなかった。
あやが壺振りを後任に変わろうとする時事件は起きた。
チンピラ風の客の一人が「イカサマだ!」と叫んだのである。
「お客さん、変な言いがかりはよして下さいな、うちは真っ当な勝負をする事で売ってんですから、他のお客さんの迷惑にもなりますし」
とヤクザ映画で聞きなれたような尤もらしい事を口にするあやと中盆、だが次の瞬間文を付けたチンピラがドスを抜いた。
その刹那あやは廻し蹴りを一閃してそのチンピラを瞬殺した。
そしてチンピラは奥へ運ばれて行き恐らくはヤキを入れられたのであろう。
若い衆達が駆け寄って来てあやを気遣う。
「私はなんともねえから心配するな、それより他の客人達は大丈夫か? ちゃんと見てあんじょうしてやってくれよ」
「へい、分かりやした!」
すると今まで黙って見ていた親分らしき人が初めて口を開く。
「あや、見事だった」と。
やはりあやの父親だったのだ。
盆は後任の若い衆が担う事になりあやと誠二までもが別の部屋に誘われた。
親分とあや、そして誠二の三人が一つの部屋に一堂に会する。
誠二は緊張していた。
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ギャンブル必勝法
今日は久しぶりに自分の副業ともいえる博打の話、その中でも一番稼ぎ易い競艇、ボートレースの「奥義」を紹介したいと思います。
自分も昔は博打に嵌って借金までしていましたが或る頃から、何故儲からないのか?
このまま同じようなやり方をしていたのでは借金は膨らむ一方だ。何とかしなきゃいけないと試行錯誤して編み出したのが「ボート必勝法」です。
この必勝法は至ってシンプルなもので誰にでも直ぐに実践出来ます。
ポイント
たったこの三つを意識するだけで勝率はぐんとアップするのです。
これは当たり前の事で言うまでもないと思われるかもしれません。ですがその当たり前の事が意外と難しいのです。だいたい博打で儲ける事が出来てない方はここで躓いています。
まず基本としてボートはインが強いのです。
インというのは6艇で争われるボートレースで一番内枠のコースの事を指します。
だから選手は一つでも内のコースが欲しいと進入でコース取りが行われる訳ですが特にベテランの選手になると強引に内寄りに動いて来る(前付け)場合も多々あります。
ここで惑わされてはいけないのはボートは常にエンジンをかけて前に動いてる訳ですから強引に前付けをするとスタート地点までの助走距離が短くなり深い起こしになってしまうのです。そうなるとちょっとでもスタートで遅れると外の選手に捲られてしまいます。だから「前付けする選手がいるレースには手を出さない」事にするのです。
勿論その場合でも前付けをした選手が勝つ場合もありますが確率的には少ないので手を出さないに越した事はありません。
もう一つの基本としては「風向き、風量」です。
ボートの予想では選手の引いたモーターの具合ばかりを見ている人をよく見かけますが、自分に言わせて貰えばただのアホです。確かにモーター、エンジンの優劣もありますがそんなものは二の次三の次でいいのです。それは何故か? 答えは簡単です。
いくら良いモーターを引き当てた所で弱い下手な選手がそれを手にした所でモーターの良さを発揮する事は出来ず結局は宝の持ち腐れ、猫に小判、豚に真珠になるのがオチなのです。
では逆に強い巧い選手がエース機を引き当てたら鬼に金棒になるのかといえばそうでもありません。自分の持ちペラとの相性が悪く成績はイマイチどころかさっぱりという結果も多いのです。
だからこそボートは風向きが重要になって来るのです。
スタートが同体であった場合まず基本的には1、3、5コースの選手はレバー(アクセル)を握って全速でターンします。2、4、6コースはちょっと落として差しに回ります。勿論例外もありますが。
だから追い風傾向な場合は差しが有利なのです。逆に向かい風の場合は握った方が有利
と。これはボートだけに限った話でもなく車の運転なんかでも想定できる事でもはや常識中の常識で小学生の理論と思いますから一々細かい説明もいらないと思います。
追い風が強いのに2コースから思い切り握って行く選手や向かい風が強いのに3コースから差しに回るような選手もアホです(笑)
こういう選手に下手打たれる場合も多々ありますから選手の性格的なものも読む必要もあります。
たった6艇しかいないボートですが結構奥が深いのですね~。
あとはその節間の選手個人の成績、調子ですね。これは競馬でも何でも同じ事です。
その辺を理解して予想に取り組めばプラス収支で一日を終える事は決して難しくはありません。
しかしむやみやたらにレースに手を出し過ぎると儲かってもショボい結果になる事やマイナス収支になる事も勿論あります。だからこそ「自信のあるレースだけを絞って厳選する必要」があるのです。
ボートは競馬みたいに多数で競う競技ではないので1個や2個的中させたぐらいではなかなか儲かりません。という事は儲かった資金を転がして複数のレースを的中させる必要があります。
ここも前述したレースの張り方は厳守する事は言うまでもありませんが、ここで一番必要なのは「決断力」です。
いくら的中率を上げて行ったとしても所詮博打は博打で常勝するのは難しいです。
そこで今日はついてるなと感じた時は「一気呵成に勝負に出る決断力」が求められます。
これが巧く噛み合えばどんどん儲ける事が出来ます。しかしちょっとでも雲行きが怪しくなって来た時はさっと手を引く決断力も必要です。
これもごく当たり前の話なんですがボートは他の博打と違って頭に来る事は非常に多いです。理不尽なレースが多いのです。自分も結構短気な方でここで躓いていた時期がかなり長かったです。
しかしちょっと間を置いて別の事をしたりするだけでも冷静にはなれます。
その一つがこのブログでもありました。本当に感謝しています 😉
いくら儲かっていてもたった一つのレースだけで一気にオケラ街道を歩む危険性もあるのが博打の怖い所です。そんな時選手の所為にする人も多いです。
確かにそれも一理はあるんですけどそればかり言っていても埒はあかないです。ではどうすれば良いのか? それはボートレースといえども所詮は博打であって競技では無い。他のスポーツと同列に見ない事です。「またこいつ下手打ったわ~」みたいな感じでそんなもんと割り切ってしまうのです。そうすればそこまで頭に来る事もないと思います。ま~これは自分自身への言い聞かせでもあるんですけど(笑)
はっきり言ってこれが一番難しい点ですね。
ま、この辺を意識してボート予想に勤しめば確実に勝率は上がる筈です(*´▽`*)
以上ボートレース予想の奥義伝授コーナーでした 😉
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極道女子高生
三章
「セイヤ! セイヤ!」
道場にはけたたましい掛け声が響き渡る。初めの内は正拳突き一つ出来なかった誠二も徐々に慣れて行き今では組手の稽古まで行っていた。
あやはそれを横目で見ながら安心していた。
師範は言う「あや、この子初めての割には覚えが早いし素質も十分あるぞ、このまま行くとお前を抜いてしまうんじゃないか」
「こいつこの前街でたむろっていた半端もんをいきなり殴ってぶっ飛ばしたんだぜ、凄いだろ」と自慢げにあやは言った。
「あれほど喧嘩はするなって言っただろ!」
「加減してますから」
「しょうがない奴だな」
稽古が終わった二人は清々しい顔つきで一緒に歩いて帰る。その道すがらあやは
「お前、何時か学校で虐められてただろ? あいつらぶっ飛ばしたくねえか?」
「もういいよ」
「いくら私がいたってあくまでもお前個人の問題だと思うけどな」
「・・・」
あやは「じゃあな!」と言って途中から走って家に帰った。
誠二はあやの後ろ姿を見ながらふと我に返った。俺はあいつの事が好きなのか、本当に強くなりたいのか、これからどうなるんだ、と色々な思いが錯綜する中一歩づつ歩みを進める。
だがまだ若い誠二は家に帰り腹一杯ご飯を食べて稽古の疲れも所為もあったが気持ちよく眠りに就いた。
翌朝起きて窓を開けると空は花曇りだった。
あやは悪天候が嫌いだった。これだけ破天荒な性格なのに不思議なものである。
「ちっ、今日は晴れてねえのかよ」と独り言を口にする。
学校へ行くと妙な噂が持ち上がっている。あやがその噂に耳を傾けると
「ねえ最近あやと誠二君が付き合ってるらしいよ、何であんな弱っちい子と付き合うのか分からないわよね~、あやってそんなもの好きな癖でもあったのかしら、まあデマとは思うけど」
あやはそんな事は気にせず全く動じなかったが誠二の事が気に掛かった。
昼休みになり誠二に会いに行こうと廊下へ出ると何か鋭い音が聞こえて来る。女子生徒の一人が「喧嘩よー!」と叫んでいる。あやは駆けつけた。
そこには三人の男子生徒が倒れていて更にそいつらを睨みつけている一人の男の後ろ姿が見える。
それは紛れもなく誠二だった。
あやはやったな~と思いながら誠二に近づく。すると誠二は何も言わずにあやの顔を見た。
倒れていたうちの一人が立ち上がろうとした時誠二はもう一撃喰らわした。
あやは間髪入れずに「もういい、ここまでだ」と制止する。
先生達が颯爽と駆け付けて一同は職員室に促される。
先生は愕いていた。
「何でお君みたいな大人しい子がこんな事をしたんだ?」
誠二は暗鬱な表情を泛べながら説明し出した。
経緯はこうである。
三人組に揶揄われ前のように鞄を蹴り回されていた所、一人の女子生徒がそれを止めに入ったのだがその三人はその女の子にまで手を挙げたのだ。そこで流石に怒りが天に達した誠二は有無を言わさずそいつらをボコボコに叩きのめした。というあんばいである。
それを訊いたあやは満を持して口を開いた。
「カッコいいじゃねーか、男らしいぜ、女に手を上げる男なんてクソだろ、これは誠二のした事が正しいよな」と。
「君は黙っていなさい」
「何だよ連れねーなー」
するともう一人の女子生徒なみが誠二に礼を言う。「本当にありがとう」と。
実はこのなみもあや、誠二とは小学生からの同級生であった。
あやはその日も上機嫌で誠二と一緒に帰る事にした。
「今日の稽古も頑張ろうぜ!」
「いや、今日は休むよ」
「何でだよ、そっか、ちょっと疲れてんだな、無理もねーよ、あんな事があったしな」
「・・・」
「じゃあ一緒に遊びに行こうぜ、それならいいだろ?」
「そうだな」
二人はカラオケBOXに行く。
今日の運転手の若い衆は余り知らない奴だったのであやは誘わなかった。
二人はお互い好きな曲を歌い亦デュエットをして大いに盛り上がった。
歌い終わった時誠二はまたふと我に返る。俺はこれでいいのか? と葛藤している。誠二は生来神経質な性格だったのかもしれない。
だがそんな時あやが直ぐ傍まで身を摺り合わすように近寄って来る。そして誠二の顔の目の前まで自分の顔を寄せて目を瞑っている。誠二はどうしていいのか分からなかった。するとあやは誠二の顔を自ら自分の方へ引き寄せて唇と唇を合わせる。
誠二にはドクンドクンとする胸の鼓動がはっきり聴こえて来る。成す術もなくあやの唇を厚く舐める。それは実に甘く芳醇な香りがして誠二はその色香に酔いしれた。
暫くして目を開けるとあやは微笑を浮かべている。誠二は生まれて初めての経験だったのでただ恥ずかしがっていた。
あやは言う「良かっただろ、下らねー事考えなくていいからもっと正直に生きるこった」
誠二は「そうだな」と言い軽く頷く。
「お前は何時もそれだな、ま、いいや」と笑いながら言うあや。
家まではそれぞれ別で帰った。恐らくはこの大して知らない若い衆に詮索される事を嫌ったあやの考えだろう。
家に帰ったあやは風呂場で自分の唇を鏡に映した。我ながら美しい唇である。あやはその唇をそっと指で撫でる。「結構良かったな」と心の中で呟いた。
一方誠二も同じような事をしていた。
だが誠二は初めての経験であるにも関わらずそれほど有頂天になりこの時初めて自分はあやの事が好きなのを確信した。
誠二はこの夢の行きつく先が観たくなった。
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