人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

サンフランシスコ平和条約発効記念日 ~ゴルゴ13

 
 今日4月28日はサンフランシスコ平和条約発効記念日で、1952年(昭和27年)、今から69年前のこの日、前年9月8日に調印された「日本との平和条約」(サンフランシスコ平和条約)が発効し、日本の主権が回復した。
  とありますが、この日本の現状で本当に主権が回復し、真の意味でアメリカから独立する事が出来たと言えるのでしょうか。自分には到底そうは思えませんけど 😕
 
 ま~硬い話はこれぐらいにして、サンフランシスコで思いつくものはと言えば自分はやはりゴルゴ13ですね。はっきり言ってデューク東郷ほど強くてカッコよくて頼もしい人はいないと思います。
 

概要

  言わずと知れた『ゴルゴ13』(ゴルゴサーティーン)。これは、さいとう・たかをによる日本の劇画で1968年11月から小学館ビッグコミック』にて連載中。
 超一流のスナイパー(狙撃手)・暗殺者「ゴルゴ13」ことデューク東郷の活躍を描く劇画である。 リイド社の単行本(SPコミックス)は2021年4月時点で200巻を数え、この巻数は日本で2番目である。2021年3月時点でシリーズ累計発行部数は3億部を突破している。 連載継続中の漫画としては日本で4番目の長寿漫画である。
 また、連載期間は2021年4月時点で52年6か月となるが、この数字は同一作家による連載漫画としては日本で4番目の長さである。
 

 見どころ

  とにかくデューク東郷(ゴルゴ13)の完璧に任務を遂行する様が痛快です。彼はあくまでもフリーランスのスナイパーで国家や組織には属さず自身が納得出来る仕事だけを請けて完璧にやり遂げます。この孤高さも大好きです。
 普段は極力感情を表に出さない実にクールで冷静沈着なデューク東郷ですが、そんな彼もごく僅かですが失敗したり、人間くささを表現しているシーンもあって笑えます。
 彼は仕事の前に必ず女を抱きます。或る意味儀式的なものでしょうか。この時点でいくら冷酷なスナイパーでも所詮は一人の男という一面が窺えますが、彼が抱いた女の数は数えきれないと思います。
 そしてこの作品を観る上で絶体に欠かせない事は彼の名台詞ですよね。自分は昔この台詞を携帯の着信音にしていた時期もありました(笑)
 彼のこの格言とも言える自分の好きな名台詞を幾つか紹介してみたいと思います。
  

『10%の才能と20%の努力 そして30%の臆病さ。 残る40%は 運だろう・・・な』


  これが一番好きな台詞なのですが、意外にも臆病さと運の割合が多い事に愕かされます。いくら完璧主義なゴルゴであっても決して自信満々、余裕綽々ではないと。この辺にも彼の哲学と人間らしさを感じますね。
 
  

『言葉や容姿だけで俺を同胞と、判断するのは勝手だが、それは、日本人が持つ一番危険な、センスだな』


 これは全く同感ですね。日本人特有の物事の上辺だけしか見ようとしない、余りにも軽薄でミーハーな精神構造を憂いたものだと察します。
 
  

『覚えておく必要のない過去は早く忘れる事だ』


 自分も忘れたい過去は沢山あります。でもゴルゴのような人にそう言って貰えると心が癒されますね~  🤣
 
 
『俺の背後に立つな』

 極めつけはこれですよね。昔よく冗談で言っていました(笑)
「俺の後ろに立つようなまねをするな…おれはうしろに立たれるだけでもいやなのでね...」というのもありますが、これこそがゴルゴ13の醍醐味とも言える台詞と思います。
 
 他にもまだまだありますが、こうして見るとデューク東郷は人格者であるようにも見えます。彼の独自の美学がカッコ良過ぎるんですよね。痺れます^^
 
 あと、同じガンマンとしてはルパンの相棒、次元大介との力関係にも関心がある所ですが果たしてどうでしょう。
 「ゴルゴ13」最高ですね 😉
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

早熟の翳  十八話

 大学を卒業するまでの残りの数ヶ月間は誠也に大いなる休暇を与える。もはや司法試験にも合格を果たした彼にはこれといってする事もなくなっていた。これまでと同様アルバイトには精を出していたがそこまで勉強に打ち込む必要もなく、かといって単車で暴走する訳にも行かない。高校生までヤンキー街道一筋で生きて来た彼は他に大した遊び方を知らなかったのだった。誠也は鬱蒼とした気分で退屈な毎日を送っていた。

 そんな或る日、先日尋ねた高校の先生から連絡が入る。誠也が提案していたように飲みに行く誘いであった。二人は駅前で待ち合わせをしていた。

 人々が仕事を終え帰途に着く夕暮れ時の駅前は実に忙しい。誠也はその雑踏の片隅で佇みながら群衆の行きかう様をぼんやりと眺めていた。

 人間というものは何故こんなに行き急いでるように見えるのか、いくら帰宅ラッシュ時とはいえ余裕のある顔つきをしている者などたったの一人もいない。そんなに急いで帰った所で何か急用がある訳でもあるまい。人間は一体何処に向かって生きているのか。

 だが誠也とて群衆の中の一人である事には違いなく、それを訝しむ事は甚だ滑稽にも思える。彼のそんな憂愁に充ちた想いに追い打ちをかけるように晩秋の少し冷たい風が樹々の葉を揺らす。

 誠也の心を和ませるのは如何にもこれから遊びに行かんと勇み立つ若者達の快活な笑みと、移り行く季節に動じる事なく威風堂々と街路に屹立する木立の姿であった。

 そんな光景の中、群衆に塗れるようにして先生は現れた。彼女はこんな雑踏の中でも誠也の姿を直ぐに確かめられた。手を振りながら近づいて来る。

「誠也君待った?」

「自分もさっき来たとこです、それより直ぐ分かったんですね、流石です」

「何言ってんのよ、貴方のその風貌は何処に居ても一目で気が付くわよ」

「それもそうかな」

 誠也は照れ笑いをしながら歩き出した。

 道中で少し風が強まる。すると先生は誠也の腕に摑まりながら歩く。誠也も少しは動じながらもあくまでも無反応を装い前だけを見て歩いていた。傍からはカップルに見えても何ら不思議ではない二人の姿は群衆から離れるにつれその色合いを濃くして行く。誠也は一刻も早く店に着きたい心境になっていた。

 

 繁華街の忙しい雰囲気を嫌った誠也は街はずれの風情のある店に辿り着いた。扉を開けると誠也の目論見通りの閑散とした景色が二人を迎えてくれる。椅子に坐った二人は初め互いの顔を見れなかった。年配のマスターがおしぼりを出してくれて注文を訊く。二人は取り合えず生ビールを頼んだ。そこで初めて二人は顔を見て

「乾杯!」

 という声を口にする。一口でも酒が入り、声を出すとそれからは心が解き放たれたように喋り出す二人であった。

「誠也君、改めておめでとう、本当に凄いわ」

「有り難う御座います」

「で、どういう法曹の道を進もうと考えてるの?」

「弁護士ですね」

「そうか~、誠也君らしいわね」

「そんな風に言われたのは先生が初めてですよ、みんな俺の事ヤンキー弁護士だとか揶揄するんです」

「確かにその通りだよね」

 先生は笑いながら飲んでいた。それから話は思い出や世相に移った。

「でも誠也君達がいた頃は大変だったけど、面白かったわ~、懐かしいぐらいよね」

「ほんとにお世話になりました、自分も懐かしいです」

「ところで清政君はどうしてるの?」

「あいつはヤクザですよ、家業だから仕方ないんです」

「そうか~、あの子も男気のある子だったもんね~」

 誠也は飲み続けている。

「あ、そうだ、健太君いたでしょ、あの子この前学校に来てたわよ」

「え? 話したんですか?」

「私は会ってないけど、何か生徒達に声を掛けて回ってたみたいね」

 誠也は顔はまた少し怪訝そうな面持ちを表す。

「どうかした? 何か怒ったの?」

「いや、そんな事ないです」

 マスターは気を遣ってくれたのか、頼んでもいない料理を出してくれた。

「有り難う御座います」

 と言って二人はその魚料理を美味しそうに食べ始める。年期の入った年配のマスターはその場慣れした感覚で二人の雰囲気を察していたのだろうか。だが決して二人を干渉するような振る舞いなどは一切感じさせずにただ渋い表情で包丁を握っている。何れにしてもこの店に入った誠也の目論見は正しかったのだろう。それからも二人は大いに飲み、大いに食べて充実した時間を過ごす。

 そして酔いが回って来た頃先生は徐に誠也の身体に凭れながら言うのであった。

「誠也君、貴方さっき私の手を振り解こうとしたでしょ?」

「そんな事ないです」

「いいや、そうよ、私の事嫌いなの?」

「嫌いならまず一緒に飲みに来たりなんかしませんよ」

「じゃあこれから二人で何処かに行く?」

「それは出来ません」

「あら、硬いのね、少しぐらいなら良くなくって?」

「それだけはダメです」

「でも私だって女なのよ、貴方はそんな一人の女を誘ったのよ」

「自分はそういう意味でお誘いしたのではありません」

「流石ね、そこまで素気無く言われれば諦めるしかないわね、恥かいてしまったけど、貴方になら別に後悔しないわ」

「恥なんてかいてませんよ」

「ありがとう」

 2時間ぐらいが経った頃二人は店を後にする。予て言っていたように誠也は先生の気遣いだけを頂き自分が料金を払って更にタクシーまで呼んであげた。タクシーの運転手にも数千円を渡して先生の事を宜しく頼む。先生は誠也の優しさに包まれたままタクシーの後部席で誠也の顔を脳裏に過らせるのであった。

 

 

 月日は過ぎ厳しい寒さの中、誠也は早や卒業の時期を迎える。同級生達は各々の学生生活を顧みて涙する者もいる。だが誠也にはこの4年の間にそこまでの思い出もなく、ただ一過程を熟したという想いで式に参加する。しかしそれは決してこの4年間を蔑ろにする訳ではなく、世話になった講師や学生達に対する感謝の想いは確然たるものだった。

 誠也が書いた卒業論文のタイトルは「早熟の果てに」だった。そこには当然夭折した有名人の事などが縷々綴られてある。その中に己が人生を織り交ぜながら筆を進めていた訳なのだが、それは決して誠也の己惚れから生じたものなどでは無く、あくまでも我が自身を客観的に見た彼の素直で正直な気持ちの表れであった。

 仮にもこの早熟という言葉が彼に相応しい言葉だとすれば、この先の人生には何が待っているのか、それを確かめるべく人は人生の歩みを進めて行くのだが、未来を予知する事などはいくら聡明な誠也であっても出来る筈もない。そういう意味で言うと古の賢人や仙人、上人と比べた場合誠也の聡明さなどは取るに足りないもののような気もする。あくまでも凡人に過ぎないのだ。

 しかしその凡人が幸か不幸か類まれない才能を持ち合わせていた事も確か話で、その才能を何処に注ぎ込んで行くかに依って彼の人生は大いに変わって行くであろう。

 この論文の意図するもの、結末はどういう風に誠也の人生を彩るのだろうか。天の声は遅々として聴こえない。

 

 

 

 

 

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㊙GWの心得

 

          風吹けば  天高く舞う  鯉のぼり(笑)  

 

 いよいよGWですか。本当に早いものです。この前正月が来たばかりだと思っていましたが。寒い冬が終わると春が来る。もはや桜も散ってしまいGWが来る。これが終わればまた暑い夏が来る。盆が過ぎれば秋が来る。そしてまた正月と。

 年寄りくさい言い方ですが本当に1年ぐらいあっという間ですね。もうこれ以上年を取るのも勘弁して欲しい所ですが、こればかりは仕方ありません、今を生きて行くしかないのです 😒

 今や目前に迫ったGW。このGWを如何に楽しむかとお考えになっている方も多いとは思いますが、真の意味で連休を満喫するには当然それなりの心得も必要になって来ます。この心得方次第でGWの満足度も大きく変わって来るのです。

 という事でGWの㊙心得を幾つか紹介して行きたいと思います (*´▽`*)

 

間違えて出勤、登校しない

 これはGWに限った話じゃありません。休日、連休全てに共通して言える事です。いくら日本人が仕事好きだからって休日にまで出勤や登校してどないすんねんって話ですよね。でも実際にそういう人は少なからずいます。

 自分の経験談で言うと小学生の頃、朝から大雨洪水警報が発令されているにも関わらず、はりきって登校していた同級生。大工をしていた若い頃、休日、或いは大雪が降っていたりした時に限って出勤して来る人。そういう人に限って普段は余り仕事をしない場合が多いんですよね。

 怠け者の節句働きとは言いますがこんな間の抜けた話はありません。せっかくの大型連休なんだから仕事や学校の事など忘れてもっとENJOYしなさいと言いたいですね。

 今は専らこのコロナ渦ですから大した事は出来ないですけど、取り合えずは間違えて出勤、登校する事だけは間違えても止めて欲しい所ですね^^

 

買い溜めをしない

 これも多いですよね。去年なんかはこれで一時期スーパー等で品切れが多発していました。いくらコロナ渦とはいえそこまで必死になる事ないでしょと言いたいですね。それに依って迷惑を被る人は実に多くなって来ます。ちょっとぐらいの我慢すら出来ないのかという話です。

 これは食品だけに限った話でもありません。例えば本ですよね、特に小説。小説なんかそんなに一気に読めるものではありません。それを何冊、何十冊もまとめ買いする神経を疑います。古本屋で纏まった本を買う場合や通販でなら分かりますが、漫画じゃあるまいし実際の書店でそんな莫大な数の本を買おうとすれば店員だって愕いていると思います。とにかく無茶な買い方は止めて欲しい所ですね。

 

鯉のぼりを盗まない、自分自身が鯉のぼりになってもいけない

 これも重要な事です。鯉のぼりって結構高価なんですよね。でも人の家の鯉のぼりを盗んではいけません。当たり前の事ですが窃盗罪になります。勿論燃やしてもいけません。そんな事をすれば絶体にバチが当たります。

 これはとりもなおさず盗まれないようにしなければならないという話でもあります。

 昔人の家の鯉のぼりを盗んでそれを質に入れ後で警察に捕まった人がいました。これも間の抜けた話ですよね。質入れする場合、身分証が必要になって来ますから足が付くのは当然なのです。そんな事すら知らない時点で盗人も失格です。仮に成功したとしても盗んだものでは嬉しくもない筈です。何れにしても犯罪はダメです。

 

 でもどうしても鯉のぼりを買う金がないからと言って自分自身がポールに摑まって鯉になってもいけません。危険過ぎます。体操の選手でもそんな芸当は無理があります。あんな所で長時間横向きでいられる訳がありません。

 それでもどうしてもやりたいのなら池で泳いでいればいいのです。子供の教育にも悪影響を及ぼします。

 

 

 という事で他にも色々ありますが、これだけ言ってもまだやる人が出て来る可能性があるので油断は出来ません。この心得さえ踏まえていればGWを十分満喫する事が出来る筈です。

 では皆さん、良いGWを迎えましょう 😉

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早熟の翳  十七話

  まだ暑さの残る9月上旬ではあるが、少し涼やかに感じる初秋の風は吉報を齎す。念願の司法試験合格。それは誠也にとって大いに悦ばしい事であり、亦彼の心を落ち着かせるのにも十分であった。

 報告を受けた母は天にも舞い上がるような面持ちで陶酔感に浸っていた。

「流石は誠也ね、お父さんもさぞ喜ぶでしょう」

「親父は別に何とも思わないさ」

 そこに姉が登場し母と一緒になって祝福してくれる。

「おめでとう誠也、でもあんた余裕かましてるわね、らしいと言えばらしいけど」

「別にそんな事ないさ、ただこれは第一段階に過ぎねーからな」

「じゃああんたの最終目標は何なのよ?」

「それは俺にも分かんねぇ」

 この晩は母の豪勢な手料理が振る舞われ、みんなは話に花を咲かせながら有難く召し上がった。

 無論この事を祝福してくれるのは家族だけではない。修二に清政、まり子、健太、大学の講師に同級生、バイト先の人達と、誠也を祝ってくれる者は多岐に渡る。だが彼が真に知らせたい、喜びを伝えたい相手はこの他にあった。

 誠也は久しぶりに母校の高校の門を叩く。卒業してから数年が経った今では彼の直属の後輩はいない訳だが、生徒達は彼のその風貌、いや風格に恐れをなしまともに目を合わせて来る者は一人もいなかった。

 そんな事には一切無関心な誠也ではあったが、彼等の様子には何かやり切れないものも感じる。覇気が感じられないのだ。中にはヤンキーをかじっているような輩もいるのだが、その容姿といい顔つきといい実にチャラく見えて仕方がない。時代の流れとはいえ誠也が卒業して僅か数年の間にそこまでの差が生じたのか? 誠也は物足りなさを抱えたまま職員室へ向かった。

 誠也の担任であったその女教師は部屋で残務整理をしていた。彼女は誠也の突然の訪問に愕きを隠せない。

「失礼します」

「何? 誠也君なの?」

「お久しぶりです先生、急な訪問で恐れ入ります、でも居てくれて良かったです」

「そんな挨拶も出来るようになったのね、嬉しいわ」

 この時の誠也の目には先生が一際綺麗に見えた。

「大学は頑張って行ってるの? もう卒業の頃ね、院へは行くの?」

「いいえ、このまま卒業するつもりです、ただ司法試験に合格した事を伝えたくて参りました」

「え? 合格したの!?」

「はい」

 誠也から手渡された合格証書を間近に見た先生は目を潤むませながら確かめていた。その喜びようには誠也は無論、家族以上のものを感じる。思わず流してしまった一滴の涙に依って証書が濡らされる。

「あ、ごめん、私ったら何て事を」

「いいんですよ先生、自分は先生に喜んで貰った事が何より嬉しいんです」

「私も今、最高の気分だわ、貴方良く来てくれたわね、ありがとう」

 誠也の心は十分充たされたのだが、帰るには少し早いと思い話を移す。

「ところで先生、さっき徒達とちょっとすれ違ったんですが自分らが卒業した後の学校はどうですか?」

「そうね~、今のところ貴方達みたいな不良生徒はいないけど、平和になったとは言い切れないかな~」

「やっぱり」

「え?」

「はっきり言って下さい、半端軟飯な奴等が増えたんじゃないですか?」

「そう言ってしまえばそうかもね」

 少し俯き思案した後、誠也は徐に口を切る。

「先生、今度飲みにでも行きませんか? 自分奢りますんで」

「え、誘ってくれるの? ありがとう」

「では長いするのは悪いのでそろそろ帰ります」 

 誠也は多くは語らず電話番号だけを書き置いて立ち去った。先生はその後ろ姿に嘗ての教え子というよりは一人の男を見ていたのかもしれない。彼女は廊下を刻む誠也の足音が一歩づつ小さくなって行く様を最後まで聞き届けるのであった。

 

 

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 秋も深みを増し色鮮やかな紅葉が街路を飾る頃、気品のある洒落た服装で街を行きかう人々の姿はさながら映画のワンシーンのようにも思える。それに負けじと我流で着飾った誠也が向かう先は当然まり子の所だった。

 街の一隅で落ち合った二人は快活にハイタッチをし顔を見合わせて歩き出す。そして取り合えず入った喫茶店でお茶を飲みながら語らい始める。窓外に見える美しくも儚い秋の夕暮れ時の景色は二人を優しく包み込み恋心に弾みを付けてくれる。そんな漂いの中で飲む紅茶は実に甘く、芳醇な香りが立ち込めていたのだった。

「誠也君ほんとにおめでとう、私も嬉しいわ」

「ありがとう、ま、受かる自信はあったんだけどな」

「そうよね、で、これからどうするの? 弁護士になるの?」

「ああ、そのつもりだけどな」

「ヤンキー弁護士か~、貴方ならいい弁護士に成るでしょうね」

「で、お前の方はどうなんだ?」

「あら、初めて私の事訊いてくれるのね」

「そうかな?」

「そうよ、貴方は余り訊いてくれた事は無かったわ」

「悪い、気が届かなかったな」

「別に怒ってる訳じゃないのよ、貴方のそういう唯我独尊な所は好きだから、ただ・・・・・・。」

「ただ、何だよ?」

「いや、これからの時代に貴方のような人が通用するかなって少し不安になってね」

 誠也は心の中で図星だと思った。この前見かけた生徒達といい、自分を取り巻く者達といい何か蟠りが残る。それは単に時代の流れから生ずるものなのであろうか。世は人に連れ人は世に連れとは言うものの、彼の身体の奥底に眠る是が非でも己が道は変えないという頑なな不変の矜持とも言える精神は人間社会、いや現世には通じないものなのか。誠也ほどの聡明な男であっても決して時代の流れに殉じようとはしないこの信条はやはり反骨の精神と見做されてしまうのであろうか。 

 だが歌舞伎の不動に例えられるように世の中には不動産や不動明王等なるものが実在している事も確かな話ではある。それなら人間の中にも誠也のような不動の精神を持ち合わせた者が居てもおかしくは無い筈だ。

 誠也はその矜持を何ら変える気にには成れずにまり子に相対していた。

「で、これからどうすんだよ?」

「実は私何も考えてないのよ」

「何だよ、ま、お前の事だから心配はいらねーだろうけどさ」

「そうでもないのよね~」

「何?」

 まり子はそれ以上は何も口にしなかった。誠也も深く詮索はしない。そして二人は店を出てまた歩き出す。

 外はすっかり日も暮れ街角には灯りが灯される。それは今の二人にはまるで蛍が灯す慎ましくも可愛い、切ない美しい光で、夥しく輝くその光は街はおろか二人の心の隅々にまで行き届いて来る。

 この灯りが照らす先にあるものは一体何なのか。二人の将来を暗示するかのような蛍の光はその輝きを増し続けるのであった。

 

 

 

 

 

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続・北斗の拳の矛盾点 3

 
 さあいよいよ北斗の拳2、まずは帝都編から始めたいと思います。北斗は1より2の方がおかしな点は多いような気がしますが、その前にちょっと気になるニュースがありました。
 
 このニュースに依ると女性キャラクター1位はあの人なのですが、それは自分も同じですね。あの人はユリアよりも色気があるんですよね~。やはり北斗ファンの見ている所は同じなのでしょうか(笑) 
 という事で本題に移りましょう。
 

拳王軍団と南斗の部隊は何処へ?

 時は流れ、世は天帝軍が支配する恐怖の時代に逆戻りしていました。ジャコウ率いる天帝軍は傍若無人の限りを尽くし、虐げられた民衆は貧しい暮らしを余儀なくされています。
 そこでバットとリンが率いる北斗の軍が反乱を試み大いに活躍はしますが、如何せんケンシロウのような圧倒的な強さはありません。みんなはケンシロウが再び現れるのを待ち望んでいました。
 まずここで引っ掛かる事があります。拳王軍団は完全に死滅したしまったのか? という事です。前回綴ったように拳王軍団も晩年は紳士的な部隊に様変わりして改心した者も多かったと思われます。あれだけ居た兵士達は全滅してしまったのか? 
 ラオウはファルコにも闘いを挑んでいますから時系列的に見ても年齢差は余り無い筈です。まして拳王軍団の兵士達が帝都に寝返たっとも考え難いです。
 そうなるとやはり死滅したか、散り散りになってしまったのかという事になると思うのですが、その中には猛者も沢山いた筈ですから、どうせなら北斗の軍に加わって活躍すれば良かったのではないでしょうか。
 次にリハク率いる南斗の軍団も同じです。だいたい南斗の都はどうなってしまったのでしょう? これすら天帝軍に潰されてしまったのでしょうか? 相変わらずのリハクの無能さにも困ったものです(笑) これらの軍団が北斗の軍に加わればかなり強大な部隊になっていたと思えます。
 そうなればバットやリンももっと活躍する事が出来、そこまでケンシロウ頼みになる事も無かったと思いますけどね~ 😕
 でもケンシロウと再会したシーンは泣けますけどね 😂
 
 

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孤軍奮闘する北斗の軍
 

ソリアの立ち位置

 ファルコの次に強いであろう元斗の将軍紫光のソリア。このソリアはマミヤの村の洞窟で彫り物をしていた長老を滅殺してしまいます。
 そしてケンシロウを誘き出し、見事ケンシロウにやられるという無様なオチが付いて来る訳なのですが(笑) いくらケンシロウを誘き出す策とはいえ、何故一般人の長老までをも手にかけたのかという話なのです。惨過ぎますね~。こいつがファルコ寄りの将軍であったとすればそんな酷い真似はしないのでは? と思うのです。実際ファルコは帝都内でもか弱い老人を助けたりしています。それなのにソリアに至ってはいくら北斗に組する者とはいえ長老にまで手をかけるとは言語道断です。ケンシロウを誘き出す為だけならば少しヤキを入れる程度で良かったのではないでしょうか?
 それともソリアはファルコ寄りの将軍とはいえファルコほど甘くは無かったという事なのでしょうか。北斗の拳1の前半から登場していたこの長老が気の毒で仕方ありませんね。
 ソリアの立ち位置は釈然としませんね~ 😕
 
 

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非道にも長老に手をかけるソリア
 

全てはファルコの甘さに端を発している

 ファルコ本人がこう言っていますが本当にその通りです。ファルコがもっとしっかりしていれば何の問題も無かったのです。それは勿論天帝ルイの双子の妹として生まれたリンを殺さなかった事などではありません。それは素直に優しかっただけと思います。  
 真の過ちは元斗光拳最強を自負しながら帝都を掌握出来なかった事に尽きます。
 
ラオウにジャコウを殺せと言われた時

 この時点でジャコウが将来悪の元凶となる事を見抜いていたラオウは流石です。それを母の姿を見て戸惑ったとはいえジャコウをそのままにしたファルコはやはり甘いですね。
 ですが民衆の事を想い己が片足まで差し出したファルコの優しさを感じたラオウラオウです。それならばいっそラオウが直々にジャコウを殺していれば良かったのです。そうすれば完全に後顧の憂いを絶ち切る事が出来たでしょう。そういう意味ではラオウにも非はあるとも思えます。
 
ファルコ自身の甘さ

 こうしてみすみすジャコウをのさばらせる事になってしまった訳ですが、その過程に於いていくらでも天帝の身をジャコウから救い出す事も出来た筈です。だいたいいくらジャコウが悪賢いとはいえこんなヘタレ丸出しの奴に帝都の兵士達は言うに及ばず、何故元斗の将軍までもが付き従っているのかという話でもあります。
 天帝の命を握っているとはいえジャコウのようなヘタレをファルコは何故どうにも出来なかったのでしょうか? ファルコの圧倒的な強さを持ってすれば一人だけで帝都を牛耳る事も可能だった筈です。それが何故ジャコウ如きの言いなりになっていたのか?
どう考えてもおかしいです。
 ファルコがもっとしっかりしていればショウキを死なす事も無かった訳で、万事巧く遂行していた筈です。(それを言ってしまえば物語は成り立ちませんが)
 とにかく甘いですね~。ソリアは非道に見えますがファルコは甘過ぎると。いやはや、アニメの話とはいえつくづく人間というものは難しいですね~ 😒
 そしてリンは修羅の国へ連れ去られ、ファルコもまたケンシロウに助けられると。結局はケンシロウがいない事には何も成就していないんですよね。いくら強い拳法家が揃っていてもみんな無駄死にしています。勿体ない話です。 
 
 

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その甘さ故にジャコウ如きになぶり者にされるファルコ

 
 という事で北斗の拳2、帝都編はこんな所ですかね。次からはいよいよ修羅の国編に進みたいと思います  😉 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 

早熟の翳  十六話

 歳月人を待たず。誠也は早や大学4回生になり後は卒業を待つばかり。だが彼にはやり残していた事があった。

 大学在学中にどうしても司法試験に合格したい。去年試験に落ちた誠也は今年が最期と言わんばかりに躍起になって勉強に勤しんでいた。周りからは別に卒業してからでもいいのではとも言われていたがそんな悠長な事は言っていられない、在学中に合格したいと言う気持ちはあくまでも誠也の信念であり、それは目標や夢というよりは是が非でも成し遂げなければならない彼の必須課題のようなものであった。

 こういった誠也の考え方に他意はなく、それを達成しない事には大学に進学した意味自体が無くなってしまう、別にカッコをつける訳でも何でもなくただ単純に目標を持ちたかっただけかもしれない。しかし傍から見れば何か焦りも感じられる。そんな誠也に母と姉は言う。

「あなた、そんなに頑張ってどうするのよ、確かに大学在学中に試験に通れば凄い事だとは思うけどさ、ボチボチでもいいんじゃないの、あなたの生き方を見てるとどうも行き急いでるように感じるんだけどね~」

「思いついた事は成就させないと意味ねーんだよ、思うだけなら誰でも出来るだろ、俺にそんな軟派な生き方は出来ない、今更言うまでもねーだろ」

 誠也の凄まじい気迫に圧された二人はそれ以上は何も言えなかった。

 誠也の志は今までの人生で翻意した事などただの一度もなく、頓挫した事も無い。彼は常に初志貫徹、思い立った事は完璧に成功させて来たのだった。

 神童と言えば大袈裟に聞こえるが完璧主義という訳でもない。幼い頃から何一つ失敗して来なかった誠也にはこの司法試験の事も一つの段階でしかなかったのだった。

 しかし世の中に完璧な人間など存在しない事も歴然たる事実で、彼の人の好さや女心が分からない点だけは今までも悩みの種であった。だが三年前のまり子との契りでその唯一の弱点ですら克服した誠也には今の所怖いものなど何一つ無かった。

 

 そのまり子とはこれまでも絶えず逢瀬を重ねていたが、彼女も誠也に勝るとも劣らない隙のない聡明な人物で、その精神的なレベルは常に誠也の上を行っていた。

 腕力は言うに及ばず、統率力や求心力では誠也が勝っていたが、包容力や洞察力、そして女性ならではの魔力みたいなものまで加えると四部六でまり子の方が一枚勝っていたのかもしれない。

 そんな二人の間柄こそが早熟で、既に生涯を添い遂げる覚悟を互いに持ち合わせていた二人には極端な言い方をするとこれからの長い人生に於いては他の目標を持つ事さえ軽率にも感じられる。それこそ傍から見れば神様仏様じゃあるまいし、そんな崇高な人生を送る事に意味があるのか、調和を超えたその間柄は完璧過ぎて面白みが感じられない、その先にあるものは一体何なのか。寧ろそれを見出す、完璧な答えを出す事こそが最終目的なのか。

 燦然と照り輝く夏の眩しい陽射しはそんなキリのない問答に逡巡する暇(いとま)を与えず、ただ強く光彩を放ち続けるのであった。

 

 夏の夜に快活に疾走する暴走族の姿は相変わらず勇ましい。論文短答共に司法試験を終えていた誠也は久しぶりに修二、清政の二人を擁して夜の街に繰り出す。この三人が歩けば道を譲らない者はいない。だが三人はあくまでも謙虚な姿勢で行動する。彼等を知っている者はその光景を見て流石と感心するぐらいであった。

 少し街を流した三人は例の居酒屋に入る。店に入った時点で彼等を怖れしゅんとなる客までいる。大将はそんな客に気を遣い三人を奥の座敷に通した。

「大袈裟だよ親っさん、俺らそんな立派なものでもないったら~」

「いいから、ここで大いに語らってくれや」

 大将の気遣いはただ優しいだけではなく、三人に対する誠意でもあった。それは勿論彼等にも感じられた事で、そのご厚意に応えるべく三人は腹を割って話をし酒を飲み出すのであった。

 お互いの近況には大した変わりは無かった。三人は大いに語らい談笑をして楽しい時間を過ごす。修二の性格柄、職業柄ともいえる小気味の良い様子も相変わらずで、清政のこれまた如何にも家業のヤクザらしい腹を据えた話し方も相変わらずであった。

 それを見て安心した誠也は思わず言う。

「二人共もはや一端の親分だな、そんなに早く成長してどうすんだよ」

 二人は少し怪訝そうな面持ちで答える。

「何言ってんだよ、誠也こそが一番の早熟の例じゃねーか、俺達は大して成長なんてしてねーよ、ただ年なりに生きて来ただけさ」

 それを訊いた誠也は含み笑いで切り返す。

「なるほど、未だに子供のままって事か、それでいいんだよ、十代の気持ちこそがこの世の中に一番大切なんだよ」

 二人の表情は一気に落ち着きを取り戻す。結局この三人は互いに義兄弟の契りを結んでいたとはいえ誠也無しではその形を成す事は出来なかったのだ。だがそんな驕りは当然誠也にも無く、あくまでも五分の付き合いをしているといった心持には何の変わりも無い。誠也はただ理屈抜きにこの二人が好きだったのだ。その間には卑しい駆け引きなどは一切存在しない。

 安心した誠也はらしくもない少し軽率な自慢にも思えるような事を口にする。

「それはそうと、俺は弁護士になるぞ、試験には合格したも同然だ」

「そうなのか!? 流石は誠也、22で弁護士かよ~」

 酔いが回っていた二人にはその誠也の言葉には何ら不快感を覚える事もなく、純粋に誠也の才能と努力を褒め称えるだけであった。

 そして清政も誠也に釣られるようにして軽はずみな事を口ずさむ。

「誠也よ、そうなったらうちの顧問弁護士になってくれよ、親父も喜ぶ筈だぜ」

 誠也は愛想笑いをしながらこう答える。

「それも一興かもな」

 それは清政を大いに喜ばせた。清政は更に続ける。

「そういえば健太、あいつ最近俺の家によく来るんだよ、その動機がまた笑えるんだ、俺をヤクザにして欲しいだってよ、おかしいだろ、はっはっは~」

 修二も釣られて笑い出す。だが誠也一人は一向に笑みを浮かべる事はなく一気に興ざめしたような面持ちで清政に迫る。

「お前、勿論冗談で訊いてたんだよな? 絶体にあいつをアウトローの世界に入らせるなよ」

 誠也の表情は何時にない真実味を帯びていた。清政はその切迫した心境を抑える事が出来ずに誠也に抗って見せた。

「誠也よ、俺もそんな事真剣に考えてる訳でもねーけどさ、でももうお互い二十歳を超えた訳だし、健太だってそこまで幼稚な奴でもねーだろ、もうそろそろあいつにも好き勝手やらせてもいいんじゃねーか?」

 誠也は神妙な表情を崩す事なく清政に対峙する。

「いいからヤクザだけにはさせるなよ!」

 誠也のこの気持ちは健太を慮った上での事だが二人には何かそれ以上のものを感じる。ヘタレ丸出しだった健太にヤンキーとして常に王道を歩んで来た誠也。この相対する人生を送って来た二人が友好関係を築けた要因は何処にあったのだろうか。それは修二と清政の二人と結んだ硬派な契りとはまた異なる絆のようにも思える。

 静と動陰と陽、男と女、水と油。この二極の原理とは本来どういう意味を齎すのであろう、この相対する事象が歩み寄る事は出来ないのだろうか。物質的には当たり前の事かもしれないが人の心はそう簡単には割り切れない。

 二元論が嫌いであった誠也は健太の事が心配でならない。それは単なる正義感というには底が浅く、誠也自身の奥底に眠る、本人でしか知り得ない人間生命の根源にある阿頼耶識というものではあるまいか。

 夏の夜風はそんな誠也の錯綜する想いを涼しく通り過ぎて行くのであった。

 

 

 

 

 

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早熟の翳  十五話

 一行が立ち去った後には健太に仁美、誠也、修二、清政の5人の姿しか無く、夜の国道には少し冷たい風が吹き荒ぶ。5人は仁美の放った言葉に依って一時何も言わず、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

 誠也は気を落ち着かせた上で改めて健太に向かう。

「とにかくダメなもんはダメなんだ、分かるな」

 健太はしゅんとしていたが仁美は尚も抗う。

「何でダメなのよ? 別に悪い事なんていてないでしょ?」

「姉さん、俺らの世界にもルールってのがあるんだよ、族は18一杯で引退するのが鉄則なんだよ、そうしねーと示しが付かなねーし秩序が乱れるんだよ、悪には悪のルールってもんがな、こいつはそれを知った上でその規律を乱したんだ、そうなると勿論ケジメってのが必要になって来る、俺達は単なる愚連隊じゃねーんだよ」

 仁美もやっとこさ収まりを見せた。健太も素直に詫びを入れる。

「ほんとにすいませんでした、もう二度としません!」

「もし今度やったらただじゃおかねーからな、やるんなら一人で走ってればいいんだよ、何も難しい事じゃねーだろ」

 誠也も一応は彼を許し、修二と清政はただ静観していた。

 その後健太は仁美と大人しく帰り、誠也達三人も引き返す。後のメンバーへのケジメは後日にした。

 誠也はその帰途、少し弱気な事を口にする。

「俺もまだまだだったな、これでは先行きが危ういな」

「そう落ち込むなって、俺達も目を光らせとくから」

 誠也は改めて人の上に立って来た自分の不甲斐なさを痛感し自責の念に駆られていた。夜風は更に冷たさを増し、三人は少し切ない面持ちで殆ど口を利かないまま帰って行ったのだった。

 

 しかし学生生活の方は以前と変わりなく充実していた。毎朝大学に通い、帰りにはバイトに赴く。そして家に帰った後も勉強に勤しむ。この一連の流れは言うなれば太陽が東から昇って西に沈む、川水が上流から下流へ流れる、美しく咲き誇った花が落ち葉となって土へ還る、人間とて同じように、この自然の理(ことわり)に従うような澱みのない滑らかな一筋の線を描いていた。

 そこで誠也が何時も胸に想う事はこのままの良い状態を保ち続けたい、ただそれだけだった。それも彼一人だけならば難なく達成出来る事であろう。しかし今までの人生に於いては図らずも彼の前には常に幾多の障害が立ちはだかり、それを一つ一つ突破して来たとはいえ後に残る愁いもある。

 それはやはり誠也が今まで団体の長であった事に起因しているのではなかろうか、無論是非にも及ばぬ話ではあるが、今の彼はそんな柵(しがらみ)から解き放たれたいと思っていたのかもしれない。だが生来根明であった誠也は余り物事を掘り下げて考える事なく日々の暮らしに前向きに没頭するのであった。

 

 この日バイトを終えた誠也は久しぶりにまり子に会う。春も終わりを告げんとする頃、まり子は夏を先取りするような薄手のシャツに可愛いスカート姿で颯爽と佇んでいた。

 二人は顔を会わせた瞬間に取り合えず軽く接吻する。そして少し笑みを浮かべながら話し出す。二人の間に時というものは決して障害の役割を果たさなかった。

 まり子は快活な面持ちで言う。

「あなた大学の方はどうなの? 頑張って勉強してるの?」

「あぁそっちは全然大丈夫だよ」

「そっちはって?」

「いや、別に」

 それでもまり子決して卑屈になる事なく言葉を続ける。

「あなたも相変わらずね~、悩み事があるのバレバレよ、いいから行ってみなさいって!」

「じゃあ言うけど、お前の幼馴染っていう聖子だっけ? そいつが同じ大学に入って来たんだよ」

「それで?」

「それでってお前・・・・・・。」

 まり子はまだ平然として誠也の顔を少し上から目線で眺めている。

「あなたの気持ちはどうなの? どうせちょっとぐらい付き合ったんでしょ」

「一緒にお茶飲んだだけだけどさ」

「ふ~ん、あの子私とは大して仲良くないわよ」

「そうなのか? あいつの言い振りでは如何にも仲良さそうな感じに聞こえたけど」

「ほんと女ってものが分かってないのね、いくら暴走族の総長でも女には弱いのかな~」

「・・・・・・。」

「私は別にあなたを疑ったりなんかしないけど、あなたのこれからが心配よ」

「何だよ、他にも何かあるのか?」

「はっきりした事は分からないけど、人が好過ぎるのかもね」

 誠也はこのまり子の一言が痛恨の極みであった。確かにその通りで彼はヤンキーの割には優し過ぎたのかもしれない。だが優しさも必要である事には違いない、要はその質なのだが、まだ若い誠也は優しさのベクトルなるものを我が物にしていなかったのであろうか、でも人を見て態度を変えるような器用な事は誠也には出来ないししたくもない。それは誠也にとっては卑怯で半端この上ない事であった。

 しかし彼のこういった大っぴらで度量の広く、情け深い人柄が災いした事も自明の事実で、それを悔やみ恥じた過去もあったが誠也はそれを決して逆説的には捉えず寧ろ真の意味で寛仁大度な人間に成りたいと思うのであった。

 誠也が考え込んでいる間もまり子は余裕のある態度を崩さず、可愛いながらも泰然自若とした様子で誠也の顔を愛おしく眺めている。そんなまり子に誠也は言う。

「お前はほんと天真爛漫で羨ましいよ、それも持って生まれた特権みたいなもんだよな 、俺にもその一片でもいいから分けて欲しいぐらいだよ」

 まり子は整然とした面持ちのまま誠也の身体に凭れかかる。

「なら分けてあげるわよ」

 まり子のしなやかな指先は誠也の顔から身体至る所にまで行き届き、その肌に接する感触に依って誠也の心は忘我の境地へと誘(いざな)われる。

 久しぶりに抱いたまり子の身体は実に香(かぐわ)しくも妖艶で、その色香に酔いしれた誠也は恰もまり子の子供のような風采で彼女の身体に埋もれて行く。 

 そしてまり子はさっき言った事を成就するべく己が精神を誠也に分け与えるように美しくも艶やかに舞い、誠也の心と身体を丁寧に解して行く。その姿はまるで親が子をあやすようにも映るが決してそうではなく、誠也も誠也でまり子に負けじと果敢に立ち回る。二人は正に双竜の画を成していたのだった。

 事を終えたまり子は誠也の顔をまざまざと凝視し己が課題を果たしたと言わんばかりの表情を浮かべてこう言った。

「成功したみたいね」

「あぁ、お前のお陰だよ、ありがとう」

「二人で出した成果よ」

「そうだな」

 烈しく舞った二人は汗をかきながら喋っていた。その汗は夏を間近に控えたこの時期、更に熱を持って二人の心を勇み立たせる。そして蒸気となって消えて行く物質はやがて天空へと舞い上げる。そして最終的にはまた二人の元へ還って来る。

 この輪廻転生、万世不朽とも言える事象こそが自然の理なのだろうか、世の中に不変のものなど存在しないというのが仏教の教えであるとすれば、今の二人の様相にはそれとは真逆なものさえ感じる。

 数ある事象の中でこの『愛』というものだけは不変の定理を呈するものなのだろうか。まだ若い二人はそこまで深く掘り下げるまでもなく確実に愛を確かめたのであった。

 この純粋無垢な二人の若者に対し、天は味方するように窓外から暖かい追い風を運んで来るのであった。

 

 

 

 

 

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