人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

甦るパノラマ  十三話

 

 光陰流水の如し。高校に入学して早や3年という歳月が経った今、英昭はいよいよ卒業の時を迎える。まだ寒さの残る3月上旬ではあったが、1、2月をやり過ごした事で少しは気が楽になっていた。

 桃の花を見上げながら思う事はその美しい佇まいと、この3年という歳月が表す懐かしさと、これから将来に向けての抱負だった。

 ぼんやりと眺めていた英昭の目には木の梢に停まった一羽の蝶の姿が映る。冬の間は幼虫として身を竦めていたであろうこの蝶は春の陽射しを感じ取り、その可憐な姿を目一杯広げて晴れやかに飛び回っている訳だが、果たして本当に嬉しいのだろうか。嬉しくないといえば嘘になるかもしれないが、真に嬉しいかといえばそれも言い切る事は出来ないようにも思える。

 人という生き物が他の生命よりも繊細であるかは分からないが、この蝶にも二元論の狭間で葛藤する事は時としてあるのではなかろうか。そう仮定した場合、今のこの蝶や樹々、あらゆる生命は何を想い、何を訴えようとしているのだろうか。

 ふとそんな細かい事に心を奪われた英昭であったが、眼前に拡がる綺麗な光景は彼をそこまで深く悩ませる事も無かった。梢から飛び立つ蝶の姿を確かめてから足を進める英昭。その足取りは軽くもなければ重くもない、あくまでも自然体に見えるのだった。

  卒業式では言い方は悪いが校長先生や他の先生達から尤もらしい言葉が述べられ、それを訊きながらそれこそ尤もらしい表情で屹立する生徒達。その中には涙している者もいれば泣き笑い、或いは澄ました表情を浮かべている者もいる。

 英昭の顔つきは至って冷静で多少涙腺が緩む場面があたっとはいえ決して涙を浮かべる事は無かった。目を移すと彼以上に冷静沈着な面持ちで坐っている者がいる。

 さゆりは終始そういう雰囲気を保っていた訳だが、無論白状な思いがさせる非情な思惑に依るものでは無い。彼女の気持ちは英昭こそが一番良く理解していた。上からものを言う訳でもないが、簡単に言うと二人にはこの三年という歳月の中にもそこまでの心を揺さぶるような思い出が無かっただけの話なのだ。言い方を変えると一々一喜一憂している他の生徒達が滑稽に見えない訳でもない。亦逆に言うと大した思い出を作れなかった二人が哀れにも思える。

 二人の出会いは正に青春そのものと言っても過言ではないのに、そこまでの感動を齎さなかったこの結果はどう見るべきなのか。真に心を通わしていなかった見せかけだけの恋愛、或いはまだそこにも到達し切れていないだけ。それらを省みる悔恨の念。

 何れにしても決して白状でもない二人が形だけとはいえ感動を表すさなかったこの式には余り価値を見出せない。それこそ身勝手な言い方ではあるが正直な気持ちを翻す事は至難の業である。式を終えた二人は同級生達との会話もほどほどにして静々と帰途に就く。無味乾燥とは言わないまでもその様子に冴えは無かった。

 だが二人にはその後があった。約束も無く例の公園に立ち寄る英昭。今日こそは来るだろう、いや来なかったらおかしい。確信するように自信満々で彼女の到来を待つ英昭。今の彼はさゆりと二人で会う事でしか卒業した証を得る事が出来なかったのだった。

 

 

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 公園にも春の到来を喜ぶ色んな樹々の浮き立つような心持が窺われる。先んじて花を実らせた桃に対し桜は少し焦りながらも悠然と己が咲き乱れる頃合いを見計らっている。沈丁花は梅、桃、桜に勝るとも劣らない美しい薄紅色を称え乍ら芳醇な香りを放ち続けてくれる。それに魅了された英昭は思わず木の下に赴き子供のような感じで我が身を浸透させて行く。

 樹の色香に酔いしれる彼はまた思う事があった。やはり人間よりも植物の方が良い。何がどう良いのかまではまだはっきりと分からない。だが理屈抜きにそう思う彼の心に同化するようにしてその姿を包み込んでくれる大らかな樹。その優しさは小規模ながらも神々の優雅にも厳かな、悪戯にも精妙な、計り知れない力を感じさせてくれる。

 そんな雰囲気に没頭する英昭の下にいよいよさゆりが姿を現した。彼女は英昭を見るなり口を切った。

「何してんの?」

 相変わらずのそっけない彼女の言い振りには少し淋しさを感じる所でもあったが、恥ずかしかった英昭は直ぐ様ベンチに戻り平静を装って答え始める。

「おうさゆり、やっぱり来てくれたんだな」

「だから、一体何をしたての?」

「何って、見ての通りさ、この木の恩恵に授かっていたのさ」

「ふ~ん」

「何だよ、おかしいか?」

 さゆりは少しだけ首を傾げてから答える。

「貴方ってやっぱり変わってるわね、普段からギャンブルなんかに嵌ってる癖にそういう粋な慣習もあるのね、似合わないわよ」

「そんなにおかしいか?」

「別に、ただそんな貴方もいいかなってふと思っただけかな」

 そう言ったさゆりの顔を神妙な面持ちで見つめる英昭。その手は彼女の身体に触れ、その唇は自然と彼女の唇に重なって行く。これこそが人間に於ける自然の理なのか。全く拒む様子を見せないさゆりは自分からも積極的に攻めて行く。それを感じた英昭も彼女に負けじと振る舞う。この間実に1分以上、長い接吻は今の二人には倍以上に感じられたに違いない。その甘美な味に酔いしれた二人にこれ以上の言葉は要らなかった。

 公園を後にした二人は何処へともなく姿を消して行く。二人だけの卒業式。これは公園に屹立する美しい樹々だけにしか分からなかった事象であるかもしれない。その一部を垣間見た公園。もしこれが人間であれば由々しき事態である。しかしあくまでも自然であるこの景色に見取られた二人に悔いは無かった。

 たとえこの後二人がどういった物語を作ろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  十二話

 

 

 それから一年余の月日が流れ高校三年生の正月を過ぎた一月中旬。秋の優雅な雰囲気を一切拭い去ったこの時期に感じる事はただ寒いだけという実に淋しいものだ。あれだけ鮮やかに咲き誇っていた樹々もすっかり枯れ果て、葉を失ったその姿はまるで案山子のようにも見える。

 白い雪にも風情を感じない訳でもないが、人間に動物、虫、植物、あらゆる生命の中で特に人が抱く正直な気持ちとしてはこの寒さの厳しい冬を出来るだけ早く通り過ぎ、穏やかな春の到来を待つというのが専らであろう。

 そんな些か贅沢に思える感情とは別に、質の違った贅沢、或いは夢物語とも思える幻想に浸っていた者が居た。

 英昭のギャンブルの調子はあれからもちょっとした浮き沈みはあったものの、その収支はあくまでもプラスで景気の良いものであった。

 ギャンブル好きな者なら誰もが一度は見る夢、玄人(ばいにん)。博打で生計を立てる事など普通に考えれば馬鹿げた話である事は言うまでもないのだが、まだ人生経験の少ない英昭のような若者がそんな夢を観てしまうのも不思議ではないかもしれない。ギャンブルの調子が良いのであれば尚更だ。

 ビギナーズラックで最初だけ儲かっただけなら直ぐに諦める事も出来たに違いない。しかしその後も至って順調にギャンブルに依って貯金を増やしていた彼を諫める確実な術があるだろうか 。いくら他人が何を言った所で大した効果は見込めない。自分自身を律するしか道は無いのだ。負け続けているのならまだしも、勝ち続けていた事こそが最大の問題であった。

 高校三年生の年明けは学校は殆ど休みに等しかった。大学に進学するつもりが無く就職する事を希望していた英昭には受験勉強なども全く関係ない。となると自由な時間は増える一方だ。この頃の彼はほぼ毎日のようにパチンコ屋に通い、或いはさゆりとデートをしたりして遊び呆けていた。

 さゆりは大学に進学する為の勉強が忙しかったので英昭と会う機会は少ない。そんな彼女の邪魔をしてはいけないと控え目に振る舞う英昭。この事といい、あれからもギャンブルを続けながらもその仲を保ち続けていた狡猾さといい、彼の周到さにも或る意味では感心させられる。彰俊はそんな英昭を羨むように嫌味を言うのだった。

「お前は凄いよ、こんな状態でもまだ仲良く付き合ってるしペテン師みたいなもんだな、それに比べて俺なんか......」 

 彰俊を反面教師にして来なかった英昭は決してペテン師などではなく、さゆりとの仲も単なる偶然の産物に過ぎなかったのだ。そんな自分の姿を省みる事なく何時ものように軽い言葉を掛ける英昭。

「今日も行くか?」

「決まってるじゃん!」

 二つ返事で答える彰俊もまた単細胞な性格であった。

 

 この日学校の授業は昼までだった。放課後颯爽と帰途に就く英昭の姿を少し訝りながら見つめるさゆり。だが家に帰ってからも勉強が待っていた彼女はそこまで気に掛ける事もなく何時ものように静々と歩いて行く。その道中で彼女は例の公園に一人立ち寄った。そこでベンチに坐り遠くを見つめる。

 一昨年まではしょっちゅう来ていたこの公園。ここで逢瀬していた時の英昭は穢れの無い好青年という感じがしていた。何度か口喧嘩をした事もあったが、その内容についても彼は何時も真正面から自分の言を聞き入れ真正面から反論する。そうして二人は少しづつでも絆を深めていたのだ。

 屈託なく接して来る彼も気持ちには翳が感じられない。だからこそ今までも付き合って来たのだ。しかし最近、特に年が明けてからの彼には何処となく裏表が、いや違う、寧ろ稚拙と言うべきか。その様子には何か理屈抜きに引っ掛かるものがある。でもそれを稚拙と言うのなら今までの自分が浅はかであった事を肯定する事にもなる。はっきりとした事は分からないまでも彼が変わってしまった事には違いないように思われる。

 寒くなって来たさゆりは長居する事なく公園を後にした。冷たい北風は葉が殆ど付いていない樹々をも揺らめかせる。そんな淋しい情景はさゆりの心にも浸透して来ていたのだった。

 

 

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  分厚いジャンパーを着込んでいた英昭と彰俊の二人は家に帰り着替えるまでもなく、そのままの恰好で店に赴く。パーラーマンモス。そこは二人が初めて行く店であった。

 まだ昼下がりのこの時刻、店には如何にも常連といった風の年配の客の姿が目立つ。そんな事は一向構わずに台を物色し始める二人。その目は真剣で正に勝負に出る者の鋭い峻厳な目つきだった。英昭は久しぶりにスロット台に坐る。彰俊はパチンコのセブン機に坐った。

 当時のスロットは3号機が主流で店に依ってはまだ2号機もちらほら置いてあった。何れにしてもAタイプ(ノーマル)機種で大当たり確率も比較的甘いながらも出玉は結構多いが連チャン性は低い。正に運勝負となって来る。

 彼は5000円で初当たりを引く事が出来、その後少し嵌りはしたものの結局はそこそこのプラス収支が見込める出玉を手にする。

 一方彰俊は全くダメで既に15000円をすっていた。様子を見に来た英昭は今日はもう止めるよう進言するが諦めがつかない彰俊はその後も打ち続け結局3万円という高校生には大金を使い果たす事になってしまった。

「だから止めとけって言ったじゃねーか、勿体ないな~、運が無い時は素直に退く事も重要なんだって!」 

 一見尤もらしい英昭の言も今の彰俊の耳には何か説教でもされているような鬱陶しい響きがあった。

「いいな~、お前また勝ったのかよ、やっぱりお前には博才があるんだな」

 英昭は自分の席に戻り出玉を交換しようとした。その時一人の店員が彼に近付き脅すような声を掛けて来た。

「自分、まだ18になってないだろ? この出玉交換出来ないぞ」

 英昭は一瞬物怖じしたがせっかくの出玉を交換出来ないとは聞き捨てならない。彼は少し顔を強張らせ勇ましく反論する。

「高校生だけど18にななってるよ、だいたいそれなら何で今まで注意しなかったんだよ? 今になってそんな事言われても従えないよ!」

「いいから大人しく帰れ、まだ反抗するようならただじゃ済まさねーぞ!」

 問答無用で威嚇して来るその男は見るからにヤンキー上がりのような厳つい風貌を誇示するかのように全く退こうとはしない。こうなれば英昭ごときでは勝ち目がない。彼が諦めかけて帰ろうとした時、一人の男が悠然とした雰囲気で近付いて来た。

「いいから、交換してやれや」

「これは澤田さん、お知り合いですか?」 

「ああ」

「分かりました、では」

 店員は一瞬にして態度を変えた。掌返しとはいえ澤田さんの登場は正に渡りに船、地獄に仏であった。英昭は交換し終えた後、店内に戻り澤田さんに礼を言って少額の金を手渡した。

「何だこれ?」

「ほんのお礼です、この前の件といい今日といい本当に助かりました、有り難う御座いました」

 澤田さんは深々と頭を下げる英昭を外に連れ出してから顔に力強い一撃を放った。

「博打はそこそこにしろと言っただろうが!」

「すいませんでした! これからは自重しますから」

「お前があちこちで勝ち続けてる事なんかとっくに耳に入って来てんだよ、これから三ヶ月の間にもう一度お前の姿を見かけたらその時は容赦しないからな」

「分かりました、すいませんでした」

「もういい、行け」

「はい」

 澤田さんにビビり上がった英昭は彰俊と共にしゅんとした面持ちで家に帰る。

「英昭、大丈夫か?」

「ああ、お前も一時辞めた方がいいぞ」

「そうだな」

 二人の足取りには全く覇気が感じられなかった。

 北風は更に勢いを増し、辺りに厳しい冬の姿を見せつける。既に陽が沈んでしまった街の光景はまるで昼と夜が一緒にやって来たようにさえ思われる。英昭はさゆり以上に淋しい気持ちに冒されて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  十一話

 

 

 英昭が足早に駆け付けた店は天遊会館という如何にも昔ながらな屋号のパチンコ店であった。そこは彼の地元の隣町に位置するのだが歩いていけない距離でもない。

 午後5時半、店の前には既に人だかりが出来ていた。新装開店という変則時間に開店するイベントは当時は新台入れ替えの際、当たり前のように行われていたイベントであり、その日は良く出ていた。その最たるはやはりパチンコ、スロット共に仕組まれていたモーニングというサービスで、この台を引き当てる事が出来れば小資金で大当たりをゲット出来、勝利する確率も大幅に上がって来る。

 普段からこのモーニングを入れてある店なら尚更で、新装開店時なら全台に入ってる事もしばしばあった。となるとこの時は正に勝利する気満々、寧ろ勝って当たり前のような気持ちで店を訪れる者が殆どと言っても過言ではない。

 午後6時の開店を待つ皆は殺気立っており中には喧嘩を始めている者もちらほら居る。英昭はそんな奴等を後目に彰俊の姿を探す。地元であった彼は既に列の真ん中ぐらいに並んでいた。そこから数十人を挿んだ後ろに控える英昭は彼の下まで行きたかったが、この大勢の人並みを掻き分けて前に進んで行く勇気は流石に持ち合わせていない。英昭は致し方なく後ろの方で大人しく並んでいた。

 時刻は5時45分。いよいよあと15分で開店だ。逸る気持ちを抑えられない英昭にはこの15分が1時間ぐらいの長さに感じられる。早く開けてくれないものか、表は並んでいる人達でパンク状態だ。落ち着かない様子で並んでいた英昭の更に後ろの方から、その気持ちに火を付けるような一団が訪れる。

 5、6人で颯爽と現れた彼等は厳つい表情をして一番後ろから人混みを掻き分けて一番前まで進んで行く。その道中では誰一人として文句を言わない。彼等こそはこの界隈で幅を利かせていた言わばアウトロー達で中には英昭や彰俊の先輩にあたる人もいる。

 一番前まで押し進んで行った彼等は店のシャッターを蹴り上げ

「早く開けろやゴラ!」

 などと怒声を上げて皆を威嚇する。ようやくシャッターが開き店内にはこれまた厳ついマネージャーが睨みを効かせているのだが、決して真正面は見ずに身体は客に対して90度の角度を保ったまま立っていた。

 先輩達はドアまで蹴り上げてまた怒声を浴びせる。店のドアは今にも壊れそうな感じだ。それでもマネージャーは何ら動じずに突っ立っている。

 そしてやっとこさ6時になり開店する。大勢の客達はまるで突撃するかのように勇ましく店内に雪崩れ込んで行く。今まで大人しくしていた英昭はこのどさくさに紛れて出来る限り前に突っ込んで行き何とか台をゲット出来た。

 取り合えず500円分の玉を上皿に流し、彰俊を探しに行く。彼は一シマ向こう側の台に坐っていた。

「おう、取れたんだな、安心したよ」

「お前は?」

「勿論取ったさ、じゃあ頑張ってな!」

 そう言って自分の台に戻り勝負を始め出す英昭。皆の殺気が伝わって来る。怖いぐらいの殺気だ。そんな鉄火場のような雰囲気の中で英昭は見事に1000円ポッキリで大当たりを射止める事が出来た。

 回転数にして二十数回転、一発目のリーチ。モーニングが入っていたに違いない。当時はまだノーマルリーチしか無かったが、このノーマルリーチこそが最大のスーパーリーチであったようにも思える。リーチしてから三つ目の図柄が何処で止まるか全く分からないこのノーマルリーチは正に射幸心を煽る瞬間であり、胸が高鳴る中でピターっと同じ図柄が揃った一瞬は感動ものである。

 結構早めに大当たりを引き当てた英昭だったが辺りを見回すと既に当たっている者も多くいた。一斉に台のランプが光り始める。お祭り騒ぎ一色の店内は落ち着く姿を一向に見せない。英昭はその後も何度か大当たりを引き当て昂揚感に浸っていたのだった。

 

 

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 ギャンブルには関心が無い、或いは嫌いな人達にはこの気持ちは分からないかもしれない。ギャンブルに於ける射幸心や昂揚感とは他のものとは異質なものにも感じられる。それは賤しい話かもしれないが仕事もせずに巧く行けば一瞬にして大金が手に入るといった魔法のような力を感じる事に他ならない。

 これこそがギャンブル依存症の根源であって、そこに惹かれる人間の意志とは実に脆いものかという事にもなる。しかしこの昂揚感は医学的にも証明されており特にギャンブルで勝った時などはより多くのエンドルフィンやドーパミンが分泌されるとも言われている。それは自分自身が取った行動に依って脳が一時的にも麻薬に冒されている事を証明する。

 問題はこの後で、ギャンブルに打ち興じる事はその昂奮を自ら欲した上での所作なのか、将又現実逃避がしたいだけなのか。無論何れも当たっているような気もするのだが、ギャンブルを嫌う者にとっては後者を思い浮かべる事が多いと思われる。

 この人もそう思う一人であった。

 英昭の帰りが遅い事を心配していた母は未だ夕食には手を付けずにただ息子の帰りを待っていた。ダイニングのテーブルに肘をついて思いに耽っていた母は一人呟く。

「あの子やっぱりギャンブルに嵌ってるんじゃないかしら、あれだけ忠告しておいたのに.......」

 母の心配も他所にパチンコを続ける英昭はもはや夕食の事などは完全に忘れていた。連チャンを続ける彼は正に脳内麻薬に冒され他の事など顧みる余裕も無くしていた。足下を見ると既に十数杯の玉の詰まったドル箱が積み上げられていた。

 ようやく連チャンがストップした頃英昭は徐に時計を見つめた。午後8時過ぎ。時刻を知った彼はここで初めて正気を取り戻したように家で待ってくれているであろう母の事を思い出す。

 出玉を流しメダルを貰って景品交換所に赴く英昭。彰俊に声を掛けようともう一度店に入ろうとした時、自分の腕を掴む怪しい影が現れる。その者は英昭を威嚇するような少しドスの利いた声で脅して来た。

「兄ちゃんよく出たな~、こんなに出しちゃダメだろ~」

 数人居た怪しい連中だったがその顔つきから察するにそこまでヤバそうな奴等にも見えない。英昭はまた一人だけでもぶん殴って逃げようとも思ったが、行動に出る間もなくもう一つの力が彼の前に現れ連中を一瞬にして叩きのめした。

「お前ら何処のもんだよ、おー! 慣れねー事してんじゃねーよゴラ!」

 その人は開店直前に現れた先輩だった。先輩達はその半端者達をシバき回して更に金まで取る。連中は泣きを入れてそそくさと退散する。

「すいませんでしたー!」

 そこまでしなくてもと思った英昭は恐る恐る先輩に礼を言った。

「澤田さん、有り難う御座います、お陰で助かりました」

「おう英昭、久しぶりだったな、お前結構儲かったみたいだな、良かったじゃん、でもパチンコばかりしてたらダメだぞ、分かったな!」

「はい、分かりました、本当に有り難う御座いました」

 深々と頭を下げた英昭は彰俊の事を忘れそのまま帰って行く。後ろを振り返ると店はまだ赤々と眩しいぐらいの灯りを灯し続けていた。

 

 家に帰った英昭を待ち続けていた母は当然の事ながら訊いて来る。

「直ぐに帰って来ると言いながらこの時間なの? 一体何処で何をしてたの?」

 英昭は考えられる限りの嘘をつく。

「最近出来た彼女に会いに行ってたんだよ、それだけだよ、心配掛けてごめん」

 そんな嘘で騙される母では無かった。彼女は英昭の履いていたズボンに目をやりその膨らんだポケットを見つめる。

「あんたポケットに入ってる財布出しなさい」

 観念した英昭はこれ以上は抗う事なく素直に財布を差し出す。すると母は中身を確かめようともせずに英昭を叱り始める。

「やっぱりなのね、その大きさなら結構儲かったのね」

「ま、ま~、そうだけど」

「取り合えず嘘だけは辞めなさい、絶体にギャンブルを辞めろとも言わないわ、私はお父さんの気持ちもよく分かってたから、その代わりほどほどにする事、そして絶体に人からお金を借りてまではしない事、分かった!?」

「分かったよ」

 一見母の言い方は甘いようにも受け取れるが、実はそうでもない。この時の母の表情は真剣そのものだった。それを感じたからこそ英昭も何も言い返す事が出来なかったのだ。だがもう一歩掘り下げて考える必要もあったように思える。それをしなかった母はやはり甘かったのか、それともまだそこまでの憂慮は無かったのか。

 何れにしても正直に白状した英昭の気持ちは今の母には嬉しく思える。そして精魂込めて作っていた夕食を二人で食べ始める。この時の二人には明るい笑みは無く、ただもくもくと食べる二人の姿は虚しささえも漂わすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  十話

 

 

 それから数日が経った体育祭当日、この日も朝から気持ち良く晴れた渡った空は地上を明るく照らし出し、万物に生命の息吹を与えてくれる。正に体育祭日和。そこまでの関心が無いまでもまだ若い英昭や他の生徒達は意気揚々と胸を弾ませ、気を逸らせながら登校する。

 その心意気に乗じるように華麗に飛び立つ鳥や、虫達の微笑ましくも勇ましい果敢な姿は恰も体育祭に出場する一選手のような漂いさえある。

「母さんも後で見に行くから」 

 玄関先まで英昭を見送った母もそう言って明るい笑みを浮かべていた。英昭は内心別に来なくてもいいよとは思いながらも母と同じく笑みを浮かべてアイコンタクトを取り、軽い足取りで歩き出す。

 学生服に身を包んだ生徒が日曜日に外を歩くのは部活動か何か特別な行事があるに違いない。近所の人達も英昭の姿を見るなり

「おはよう、体育祭? 頑張ってね」

 と愛想の良い声を掛けてくれた。

「おはよう御座います、頑張って来ます」

 明るい表情で返事をする英昭。挨拶が人に齎す力はやはり侮れない。その一言だけでも十分に心が洗われる。それはギャンブルに依って多少なりとも荒んだ人生を歩み出していた英昭にも感じられる事で、感受性の強かった彼は尚更気を良くして学校に向かうのだった。

 

 登校し教室で着替えた後グランドに赴くと体育祭は颯爽と開かれた。始めに校長先生からの挨拶があり、その後は着々と一つ一つの競技種目が執り行われて行く。その中でも午前中のメイン競技はやはり徒競走である。

 笛の音と共にスタートを切る生徒達の姿は美しかった。足の速い者がいれば遅い者もいる。ヤル気満々な者もいれば、そうでもない者もいる。

 有形無形、その有り様は人それぞれなれど、いざ走り出すと一生懸命に事にあたろうとする健気で純粋な気持ちは自ずと伝わって来る。そういう観点で言えば一概には言えないまでもやはり人というものは静止している時よりも運動している時の方が美しく見えるような気もする。躍動する若い生徒達の姿は皆に勇気と感動を与え、それは自信へと繋がって行く。

 そんな中で端から自信があったと言わんばかりに、練習と動揺当たり前のように悠々と一着でゴールしたさゆりの姿は本番になっても一際輝いて見えた。

「流石ね、さゆり!」

「おめでとう!」

 歓喜に沸く同級生達はただ純粋にさゆりを褒めそやし拍手を贈る。彼女の躍動に感化された英昭も黙ってはいない。練習では何時も2、3着を走っていた彼ではあったが、いざ本番になるとその脚は我知らず速くなり必死に走った甲斐もあってかとうとう一着でゴールする事が出来た。

 神風でも吹いたのであろうか。人間の気持ちとは実に不思議なものである。元々運動音痴では無かったとはいえ、今までは決して一着を取る事が出来なかった彼をここまで速く走らせたのは他でもないさゆりへの気持ちが味方したに違いない。

『健全な精神は健全な肉体に宿る』とは言うが、この時の彼の肉体はあくまでも健全で、それに相乗した精神もまた健全であったのだ。だが裏を返せばそれは今までの彼の行いが怠慢であったと言っても過言ではない。何故今までは本気を出さなかったのか、出せなかったのか、いや違う、出そうともしなかったのだ。出来ないものは仕方ないが、出来る事をしないのは一番ダメな事だ。今更言うまでもないこの理屈こそ今の英昭にはピッタリと当てはまる言葉であった。

 人の事を喜び褒めそやす事は好きでも、自分の事を自慢する目出度い行為が嫌いだった英昭は他の同級生は勿論、さゆりにも決して近付いて行こうとはしなかった。 

 

 

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 昼を挿んでから午後の競技も滞りなく行われ体育祭は無事終了した。10月中旬の秋の夕方、グランドでは砂が風に舞い始め少し肌寒ささえ感じる。

 祭りのあと。それは得てして今まであれだけ盛り上がっていた雰囲気を一瞬にして無に還してしまう虚無感、そして憂愁の想いを投げ掛ける。物語に於ける起承転結。これも必要不可欠な事象ではある訳だが、最期の結は欲しくないという考え方は贅沢なのだろうか。亦それが無ければどうしても物語は完結しないのだろうか、寧ろ道中のストーリーの方が大切ではないのか。稚拙に思えるこんな考え方も捉えように依っては満更間違ってもいないような気さえする。

 何れにしても祭りは終わったのだ。グランドには『第50回○○高等学校体育祭』と高らかに掲げられた旗とテントだけが虚しく残っていたのだった。

  

 放課後下校の途に就く生徒達の表情は明るかった。虚無感に浸っていたのは英昭だけなのか、いやそんな筈は無い。彼はさゆりに声を掛けるまでもなく何時もの公園に立ち寄る。今日も紅葉の落ち葉で作られた絨毯は健在であった。その上を歩きベンチに坐る英昭。今の心境はその虚無感をさゆりと会う事に依って癒やしたい。ただそれだけだった。

 しかしそんな彼の想いも虚しくさゆりは何時になっても姿を現さない。何故だろう、きっと何処かに隠れているのだろう。そう思った英昭は辺り一帯を見回しさゆりの姿を探す。だが一向に姿を現さないその光景に半ば諦めの表情を浮かべながらも明日に期待を懸けて少し項垂れた様子で席を発つ英昭。その刹那公園に屹立する樹々が音を立てて揺らめくのを目にする。

 どちらかと言えば神経質だった英昭はそれを訝りながら敢えてゆっくり足を進める。すると木陰から一人の男が姿を現す。同級生の彰俊だった。

 彼は控え目な雰囲気で近付いて来る。英昭は毅然とした態度でそれを見ていた。徐に傍まで近づいて来た彰俊は少し切ない面持ちをして語り掛けて来る。

「英昭、何でこの前俺に付き合ってくれなかったんだよ、大事な話があったのに」

 確かに英昭の取った行動は裏切りに値するかもしれない。しかしそこまで大袈裟なものでもないと踏んでいた英昭は彰俊を前にしても尚、悠然と構えたまま答える。

「そんなに落ち込むなって! どうせふられたんだろ?」

 その何気ない言葉は彰俊の心を傷付かせる。

「軽く言うなよ、人の気も知らずに.......」

「いや、そんなつもりで言ったんじゃないけどさ」

「まぁいいよ、それよりお前今日頑張ってたな、足速かったんだな」

「ま~な」

 敢えて余裕をかました英昭の表情は返って彰俊を頼もしくさせる。

「ふっ、お前らしいよ、その俺の前でだけ見せる己惚れにも似たお前のその性格こそが俺も好きなんだよ、もう桃子との事はどうでもいいよ、そこで改めて提案したい事があるんだよ」

「何だよ?」

「今更言うまでもないだろうけど俺もお前も生粋のギャンブル好きだ、俺はお前みたいに器用な立ち回り方は出来ない、だからこの後あるパチンコ屋の新装開店に一緒に行こうと思って誘いに来たんだよ」

 高々一瞬間とはいえ、この間は一切ギャンブルをしていなかった英昭にとっては彼の提案は性急ながらにも或る意味サプライズでもあった。迷いはしたもののさゆりとも会えなかった英昭の今の気持ちはギャンブルの方に傾いていた。英昭の内心を見透かしたように少しほくそ笑む彰俊。結局二人は一緒に行く事にするのだった。

「じゃあ5時半に店の前でな」

 彰俊はそう言って帰って行く。その後ろ姿は何も映し出す事なくただ消え去って行く。強いて言えばパチンコで勝つという邪な野心ぐらいなものか。だが彼と動揺、いやそれ以上にギャンブルが好きだった英昭には祭りのあとの更なる祭りという、言わば嬉しい行事が待っていたのだ、彰俊に続くように帰途に就く英昭。

 公園に敷かれた美しい紅葉の絨毯は些か色褪せて行くように見えた。

 

 家に帰った英昭を待っていた母はまた御馳走を作ってくれていた。

「おかえり~、今日は頑張ったわね」

「来てたのか? 会わなかったじゃん」

「あんたが走ってるとこだけ見て直ぐ帰って来たのよ」

「そうだったのか」

 部屋に上がり着替えてから颯爽と出て行く英昭。それを訝る母は当然のように声を掛ける。

「そんなに急いで何処行くのよ?」

「悪い、これからちょっと用事があるんだ、直ぐ帰って来るから」

 そう言って家を出て行った英昭は執拗に時計を眺めながら約束していた店に急ぐ。先週さゆりと行った競馬場の件は魔が差して馬券を買っただけだ。だが今回はそうではない。いくら彰俊の誘いに影響されたとしても自ら決心した事である。

 今日の体育祭よりも胸を弾ませ速い足取りで歩き出す英昭。その歩みは曲り形(なり)にも果敢で前向きな雰囲気を漂わすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  九話

 

 

 拍手で迎えられたさゆりは皆にチヤホヤされながらも相変わらずの冷静沈着な様子で自分の持ち場へ戻る。殆ど息も切らせてはいない。本人よりもテンションの上がっていた同級生が笑顔で語り掛ける。

「さゆり凄いじゃない! また速くなったんじゃない? 女子ではno.1間違いなしね」

 女子達で盛り上がっている中に恐る恐る近づいて行く英昭。彼もまた自分の高揚感を抑え切れない一人であった。

「お見事!」

 訊き覚えのあるその声に振り向いたさゆりは以前として落ち着いた様子で済ましていた。英昭は次の言葉に迷いながらも正直な想いを投げ掛けてみた。

「まだ怒ってんのか? 俺が悪かったよ、それにしてもさゆりがこんなに足が速いとは全然知らなかったよ、正に知勇、いや才色兼備だな」

 この瞬間さゆりは少しだけ微笑んだように見えた。だが未だ何も答えてはくれない。

「放課後あの公園で待ってるよ」

 とだけ言い置いてその場を立ち去る英昭。さゆりは返事をしなかったが、その横顔には何故か安心を覚える英昭だった。

 その後も順調に体育の授業を終えた一同は教室に戻り最後の授業を受ける。ギャンブル好きな英昭は数字には結構強く、何ら苦にする事なく数学の授業を熟す。だがその数字も時としては人を悩ませる要素を多分に含んでいる事も事実である。

 真面目に授業を受けながらも英昭が考えていた事は確率論であった。自分がギャンブルで勝つ確率、そして今後もさゆり仲良く付き合って行けるかという確率。ギャンブルはまだしも己が恋路までをも数字に表そうとするのは邪道と憚られたが、どうしても考えずにはいられない。

 今の予想ではさっきのさゆりの笑みを加えるとまだ縁が切れていない方が四分六で勝っていた。一見自分に都合の良い解釈にも思えるが、その前向きな精神を軽視するのは些かな軽率であるようにも思える。英昭はそれ以上深く掘り下げて考える事はせずに放課後に向けて胸を弾ませるのだった。

 

 一日の授業を終え、学校を後にする事、また彰俊が声を掛けて来た。

「おーい、英昭、待ってくれよ!」

 昼休みには彼との話に専念していた英昭だったが、今となっては彼の存在が少し鬱陶しくも感じられる。

「悪い、ちょっと急いでるんだ、また明日な!」

 身勝手ながらも英昭はそう言って彰俊を体よく遠ざけた。彰俊は淋しそうに帰って行く。公園までの道中英昭が考えていた事はさゆりの事だけだった。

 公園に着いた時、沈みかけた陽は辺り一帯に秋らしい夕暮れ時を演出し、地面に落ちた無数の木の葉は色鮮やかな絨毯を作っていた。その上を少し遠慮しながら歩いて行きベンチに坐る英昭。まだ見えないさゆりの姿を思い浮かべながら遠くを眺める彼の表情は淋しさの中にも清々しさを漂わせる。風に舞う落ち葉に合わせるようにして目を移した時、さゆりは現れた。

 相変わらず静々と歩く彼女は公園に入った後も敢えて英昭には目を合わせず、傍まで来て何も言わずに突っ立っていた。

「坐れよ」

 微笑を浮かべて優しく語り掛ける英昭に対し、それでも坐ろうとはしないさゆりの心境は計り難い。英昭は一片の落ち葉を手に取りこう言った。

「見てみろよ、綺麗だよなこの葉っぱ、まるで今の俺達みたいじゃねーか?」

 さゆりは軽く微笑んで答えた。

「何がどう私達みたいなのよ? 訳が分からないわ」

「やっと口利いてくれたな、ありがとう、自分でも良く分からないけど綺麗だけど切ないっていう感じかな?」 

「ふん、尤もらしい事を言うのね」

 満更間違ってもいないと言いたかったのか、さゆりの表情は若干緩んで来たような気がする。そして徐にベンチに坐るさゆりは英昭と同じように遠くを見つめて黄昏れ出すのであった。

 

 

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 言っても学校に近いこの公園の周りの道には、登下校する同じ学校の生徒や先生達の姿もちらほら見える。一見逢引きのように見えるこの二人の行動も周りの状況から察するには大っぴらなもので既に気付いていた者がいたとしても全くおかしくはない。

 それを警戒する事なくあくまでも自然な様子で一緒にいる二人の姿も堂々としたものだ。その毅然とした態度ではさゆりの方が勝っていたようにも思える。

 一時沈黙していた後、今度はさゆりの方から喋り出した。

「ところで貴方、足は余り速くはないのね」

 意表を突かれた英昭は思わず反論する。

「そりゃ、さゆりよりは遅いさ、お前何かやってたのか?」

「だらしない男ね、女に負けて悔しくないの?」

「悔しくない訳でもないけど、俺はたださゆりの足の速さを素直に褒めてるだけだよ、それに俺にだって負けてはいない事もあるしな」 

「何よ?」

「それは.......」

「言えないじゃない」

「人情だよ」

「ふ~ん」

「無論人情というのには愛情も友情も色んな情けが含まれてあるんだよ、俺はそれだけは誰にも負けてないと思ってるよ」

「なるほどね」

 さゆりは決して褒めるような事はしなかったが、堂々と言い切った英昭の表情を見て心の中では少し認めてもいた。別にそれを誇る訳でもない英昭は訊き直した。

「で、何かやってたの?」

「私は中学生の頃陸上部だったの、他にも水泳も習ってたし、空手もやってたわ」

「凄いな! それで普通の女の子とは少し違って見えたんだな、なるほどな~、でも何で高校では部活動に入ってないんだ? 勿体ないような気もするけど」

 さゆりは少し俯いて考えた後、徐に顔を上げて答えた。

「私、群れを成す事が余り好きじゃないの、だいたい分かるでしょ」

 そう言われれば確かにそんな感じにも見える。それは英昭とて同じで、人と絡む事を余り好かない彼もはっきり言って人脈は薄い。だからこそ二人は付き合う事になったのだろうか。真意は分からないまでも互い共通点は少なからずあった。

 そうなればその行く末も正に二人の気持ち、行いに委ねられて来るだろう。だが互いの性格が似通っている場合、自然と口数が少なくなって来るようにも思える。そんな中で恋路を発展させて行く事は難しい。何かサプライズが必要なのだ、気の利いた面白いサプライズが。

 女性に不慣れな英昭にはそんな良案など思い付く筈も無かった。さゆりはどう思っていたのだろうか。相変わらず口数の少ない二人は遅々として盛り上がる様子を見せない。純愛というにはまだほど遠い二人の仲は、ただ秋の黄昏れにだけに依って保たれていたのか。それも実に淋しい話だ。発展を願う英昭の気持ちは空回りする一方で、純粋な気持ちは返って彼を焦らせる。

 言葉を思い付かなかった英昭は無言のままさゆりの唇に触れて行こうとした。てっきり拒むと思われたさゆりだったが、何ら抗う事なく唇を重ねて来る。

 やはり俺の予想は当たっていたのだ。昂揚感で溢れる英昭の心は熱くなり口づけは些か長く続いた。さゆりの厚い、甘美な唇は英昭を快楽の境地へと誘い、嫌な事など全てを忘れさせてくれる魔法のような力を感じる。

 目を瞑ったまま辺りなど一切気にしなかった英昭だったが、その時風が止んだにも関わらず、樹々が揺れるような、怪しい音を感じる。その音は直ぐに消えた。

 長い口づけを終えた後、英昭はさゆりの顔を見つめて訊いた。

「今、何か音がしなかったか?」

「別に聞こえなかったけど?」

 この期に及んでも毅然とした態度を崩さないさゆりの様子は英昭にも頼もしく思える。自分も男らしくならなければならない。そう決心する英昭の様子もまた僅かながらも凛々しく映るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  八話

 

 

 料理を食べ始める英昭の手は些かなりとも震えていた。母が丹精を込めて作ってくれた料理は美味しいに決まっているのだが、せっかくの御馳走も気が沈んでいた今の英昭の喉を余り通らない。だが母を悲しませてはいけないと思った彼は少し大袈裟な物言いをする。

「めっちゃくちゃ美味しいよ! こんな料理を食べたのは生まれて初めてだよ!」

「ふん、大袈裟な子ね」

 一口食べただけでそこまで感動する英昭の様子を訝った母は彼の顔にはっきりと目を見据えて今日一日の事を訊いて来た。

「で、競馬場デートはどうだったの?」

 益々慌てた英昭はて少し活舌の悪い言い方をする。

「な、何でデートだと分かったんだよ?」

「あんたの様子を見てたら嫌でも分かるわよ、彼女とはどうなの?」

「ま~、巧く行ってるけど」

「ふ~ん」

「何だよ?」

「別に、ところであんた儲かったの?」

「何の話だよ? 馬券なんて買ってないって」

「なら何で競馬場なんかでデートしようと思ったの?」

 英昭は一時間を置いてから答え出す。

「俺がまだ幼い頃、親父と三人で競馬場に行っただろ、あおの時の風景が今でも目に焼き付いてるんだよ、あの景色を好きな人と一緒に見たい、ただそれだけの話なんだよ」

 訊いていた母の目は既に涙で潤んでいた。母もあの時の事は当然覚えていて、あれこそが三人が仲睦まじく生活を送っていた、言わば倖せの絶頂であったのかもしれない。それが僅か数年で終わってしまうとは誰が予想出来よう。いくらギャンブル好きであったとはいえ、二人を残して夭折してしまった父を決して恨みに思う事は無かったのだった。それどころか未だに父の面影を目に浮かべる英昭と母。互いの想いは哀しさ、淋しさの上にも固い絆を漂わす。

 言い方は悪いがこの英昭の言が功を奏したのか母はこれ以上何も訊いては来なかった。それは勿論英昭にとっても好都合だった訳だが、母の心中を察すると自分まで哀しくなって来る。英昭は料理を平らげ大人しい口調で

「ご馳走様でした」

 とだけ言って部屋に戻って行く。母は切ない表情を浮かべたまま夕食の後片付けをしていた。

 

 翌日も晴れていた。紅葉の秋。季節毎に咲く樹々や花々の中でもやはり紅葉は一層色鮮やかに見える。赤、黄、緑、様々な色合いを映し出すその姿は恰も人の心までをも映し出しているようにも感じる。今の英昭の心の色は何色だろうか。赤ではない、黄色でもない、ならば緑か、いやそれも違うような気がする。となると今の紅葉には無い色になる訳だがその明確は色までは英昭本人でさえ分からなかった。

 こういう時さゆりなら何と答えるだろうか、彼女のような聡明な女性ならきっと適格な答えを与えてくれるような気がする。だがこの状態で彼女に声を掛けるのに明らかには無理がある。英昭はこの余りにも馬鹿正直な己の気持ちと自然の理自体を少し鬱陶しく思った。家を出てまだ僅か数分が経っただけで駅にも着いていなかった彼は初めて学校を休みたいと思うのであった。

 それでも嫌々ながらも登校した英昭。来週に体育祭を控えた学校では生徒達の姿が何処となく活気に充ち溢れているように思える。校門を潜ると後ろから肩を叩き快活に声を掛けて来る者がいる。

「おう英昭、何か久しぶりに会った感じがするな、週末の収支はどうだった?」

 同級生の彰俊は相変わらずも一切辺りを憚る事なくいきなりギャンブルの話をして来た。何故こいつはこうも単細胞なんだ、神経が通っているのか、一度叩きのめしてどんな泣き方をするのか確かめてやりたいとまで思う英昭。この飛躍した考え方こそがギャンブルに身を堕とした者の過激な論理なのかもしれない。無論英昭は真に受ける事もなく軽く返答する。

「おう上々だよ」

「流石だな~」

 この後二人は一緒に教室に向かうのだった。

 

 

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 さゆりは既に席に坐っていた。何時もながらに大人しく行儀良く坐っていたさゆりの姿は悪い表現をすると少し浮いているようにも見える。しかしその聡明であるが故の彼女の品性に充ちた佇まいは、まるで神に仕える淑女のような漂いがある。

 そんな彼女を姿を眺めていた英昭は改めてさゆりに惚れ、自分が真に好いている事を確信するのであった。

 午前の授業を終えた英昭は昼を取った後、5時間目の体育の授業に備え体操服に着替えてからグランドに出て行った。教室から離れた場所にあったこのグランドではいくら昼休みとはいえ遊んでいる生徒は少ない。となるとエネルギーが有り余っていた若い生徒達にとって5時間目が体育である事は有難いとも言えよう。

 颯爽とグランドに赴いた英昭に対しまた声を掛けて来る彰俊。彼は何時もとは違い少し角度を変えて語り掛けて来た。

「英昭、実は折り入って話があるんだが.......」

 彼の顔は真剣だった。こんな顔を見るのは久しぶり、いや初めてかもしれない。英昭は微笑を浮かべながら答えた。

「柄にもない表情するなって、さっさと話せよ」

 彰俊は少し照れながら喋り出す。

「実は俺今付き合ってる女がいるんだ」

「へ~、誰よ?」

「桃子さ」

「あ~そう言えば」

「何だ知ってたのか?」

「いや、誰かがそんな事言ってたような」

 彰俊は多少訝りながらも言葉を続ける。

「ま~いいよ、彼女に言われたんだよ」

「何を?」

「ギャンブルが好きな人は嫌いなんだってさ.......」

 英昭はさゆりとの会話を思い出す。確かにさゆりもそう言っていた。あの時はそれほど気には留めなかったが今になって彰俊の放ったこの言葉が自分を苦しめようとは思いもしなかった。この二人の男、そして二人の女は明らかに同じ道を辿っているように見える。性格まで同じなのか。

 性格が似た者同士である場合、その仲は巧く行かないと言われる事もある。だが似た者同士であるからこそ相思相愛になる事も多々ある話でもある。人間関係とは正に複雑怪奇なものでその相性は当事者にも理解出来ないといっても過言ではないだろう。

 しかしその性格や感性が全くの真逆で天地の差があるとすれば話は変わって来るのではあるまいか。守りに入る訳でもないがこの時英昭は完全な同類の人種を見つけたような気がした。

 英昭は残り僅かな休み時間で取り合えずこう告げる。

「彰俊、その辺の事はまた折を見てじっくり話をしよう」  

 彰俊は表情の変わった英昭の顔を凝視して

「あ、ああ、そうだな」

 と答えるのだった。

 

 体育の授業が始まった。果敢にグランドに駆け出す生徒達はスポーツの秋を謳歌するように意気揚々と羽を伸ばし、その身体を思う存分拡げてみせる。彼等が馳駆するグランドは一時的に砂埃を巻き上げ、その光景は宛ら体育祭本番のような様相を呈していた。指揮監督する先生はそれを咎めるように大声を張り上げる。

「集まれー!」

 体育の先生というのは今も昔も厳つい雰囲気を漂わす人が多いように思える。その先生は鋭い眼光を緩ませずに生徒達を睨みつけるように言葉を続けた。

「今日も来たるべく体育祭に向けて練習を行う、皆気合を入れて行くように!」

 先生に促されるままに皆は色んな競技の練習に勤しむ。まずは体育祭では恒例の徒競走。これは皆が参加しなければならない競技の一つで、亦体育祭を盛り上げる最大のイベントにも思える。

 英昭の出番は後の方だった。皆が見つめる徒競走のリハーサルではみんな精一杯に走り続ける。僅か100mの距離ではそこまでの差もつかない。そんな光景をボケーっと眺めていた英昭の目にはさゆりの姿が映る。

 彼女はその100mの距離を少し差をつけて一着でゴールした。1年生の頃はその存在を知らなかった英昭。今彼にはさゆりの運動神経が如実に感じ取られる。

 ここまで速いのか? あの大人しいさゆりが。

 この瞬間英昭は戦慄した。文武両道、知勇兼備、言うなれば昔の女武者。さゆりは正にそれに違いない。思わず拍手を贈る生徒達。その歓声はグランド全体に響き渡り先生をも驚愕させる。

 英昭も思わずさゆりに近づいて行き声を掛けようとするのだった。

 

 

 

 

 

 

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甦るパノラマ  七話

 

 

 パーンパパパパパパパーン。

 軽快に、高らかに鳴り響くファンファーレは如何にも今から一大競走が始まるかのような大袈裟な雰囲気を辺り一帯に漂わし、観客達の心は更に昂奮して行く。 

 第一回秋華賞、レース場に姿を現した騎手達は各々の馬に跨り颯爽と返し馬に赴く。その可憐な雄姿に魅了された一同は歓声を上げて応援する。天高く響き渡る歓声に共鳴するように二つに割れた雲間からは眩しいまでの光芒が差し込み、光輝く競走馬の毛艶は美しさを増す。これには流石のさゆりも感動したようでその表情は多少なりともうっとりとしてた。

 そんなさゆりの肩に手を添えレース場を遠くに見つめる英昭。この時の彼の表情はあくまでも一人の純粋無垢な好青年といった感じに見える。今の英昭なら.......とふと思うさゆり。二人の心の争いはこの一瞬だけ止んだような気がした。

 そうしていよいよゲートが開かれた。勇ましく走り出す競走馬は騎手を背に乗せただ前に突き進む。人馬一体とはこの事か。人と馬、この二者が映し出す美しくも精悍な姿は、恰も戦国時代の騎馬武者のような勇敢な心持を人々に見せつけるようだ。

 力強くターフを踏みしめながら走る馬の轟音は迫力に充ち、恐れを成した鳥達は思わず翼を広げて飛び立って行く。鳥だけではない、虫や魚、土に樹々、あらゆる生命が甲高い声を上げて動揺する姿が目に見えるようだ。さゆりが感動するように英昭もまた声を出さずにはいられない。

「行けぇぇぇー!」

 この声に敏感に反応したさゆりはまた英昭の顔を見つめていた。そして競走馬達は次々にゴールしてレースは終了した。

 結果は1着が本命の2番の馬であったがヒモ(2着)に大穴の5番の馬が入って来た為、馬連ではかなりの配当が見込める。この時英昭は心の中でほくそ笑んでいた。僅か500円分しか買っていなかった馬券が的中してしまったのだ。

 もし隣に居るのが男友達であったなら英昭は大はしゃぎして歓喜の声を上げていただろう。しかし今居るのはさゆりという聡明な女性で、ギャンブル嫌いな彼女の鋭い洞察力を怖れた英昭は必死の思いで平静を装っていた。

 だがそんな英昭の努力も虚しく、さゆりは一瞬にして英昭の芝居を見抜くのであった。

「貴方、馬券当たったんでしょ?」

 それでも英昭は体裁を繕って笑って誤魔化す。

「何言ってんだよ、馬券なんて買ってもないし」

 するとさゆりは英昭を試すような、或る策を思い付いた。

「私、正直な人が好きなの、嘘つきは大嫌いよ」

 己が真意がまだ分からないまでも、さゆりに嫌われる事を怖れた英昭はありのまま正直に答えるのだった。

「ああ、察しの通りさ、当たったよ、でもたった500円だぜ! これでも俺が悪いのか!?」

 さゆりは落胆して溜め息をついた。その表情からは憤りというよりも寧ろ憐み、哀びん、憂愁と決して明るくはない気持ちが感じ取られる。

「やっぱり貴方は嘘つきよ、初めから正直に言っていたなら私もここまで動揺する事は無かったと思うし、貴方も大喜びする事が出来たのよ、残念ね......」

 さゆりはそう言い置いて帰ってしまった。

「おい、待てよ!」

「もうお別れよ」 

 その余りにも冷たいさゆりの表情は英昭の足を踏み止まらせてしまった。それにしても何故ここまで自分の事を嫌うのか、たった一度嘘をついただけではないか、それがそんなに悪い事なのか、彼女はそれほどまでに潔癖なのか。英昭の気持ちは何時になっても整理がつかない。

 レースが終わりまだ数分の出来事であった。一時晴れていた空にもまた雲が立ち込めて行くのだった。

 

 

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 的中馬券を2枚(2百円)買っていた英昭は一瞬にして数万円という大金を手にする。しかし今の彼に喜びの笑みは無かった。

『さゆりはちゃんと安全に帰る事が出来ただろうか、明日から学校でどういう風に立ち回ればいいのだ、俺は一体どうすればいいのだ』暗鬱な表情を浮かべる英昭は下を向いたまま競馬場を後にして例のオケラ街道を歩き出す。

 オケラ街道とは言ったものだった。今の英昭には高校生には十分な金があったにも関わらずその内心は完全にオケラ同然で、足取りも実に重い。だがこの帰り道はあくまでも下り坂であって体力的には然程疲れない。重い足取りながらも次々に人を追い越し進んで行く英昭。傍から見れば収支はプラスのように見える彼の姿、これこそが若さの特権なのかもしれない。英昭は行き道で目にしていた閑静な住宅街に佇む綺麗な樹々だけを目の保養にして歩き続けるのだった。

 

 寄り道をせずに真っすぐ家に帰った英昭には更なる試練が待っていた。この日パートが休みだった母は軽い買い物をした他は一日中家で家事に勤しんでいた。

「おかえり~」

 優しい母の声は返って英昭の心を曇らせる。行先すら告げていなかった英昭は

「ただいま」

 という言葉だけを発して家に入る。そしてダイニングルームのドアを開けた時、そこに並べられていた豪勢な夕食に愕く英昭。いくら日曜日とはいえ何故ここまでの料理が並べられているのか。自分の馬券的中を祝ってくれるとでも言うのか、冗談にもそんな事は思えない。ならば何なのか。英昭は取り合えず自室に上がり財布を蔵(しま)って窓を開け、深呼吸をする。その後横になって今日一日の出来事を思い出しながら独り呟く。

「さゆりは今何をしてるんだろうか、まだ怒ってるのか、俺には愛想を尽かしたのか、これからは赤の他人になってしまうのか、そして豪勢な夕食が意味する事とは.......」

 想いに耽る英昭はこのまま眠りに就きたいとまで考えていた。徐に時計に目をやると時刻はまだ午後6時ちょうど。時間を持て余す事を憚られた彼は一冊の本を手に取り読み出す。タイトルは『美しいパノラマ』この本を読み出そうとした瞬間に母が声を掛けて来る。

「夕飯出来たわよ~」

 母の声に誘(いざな)われるままに階段を下りて行く英昭。この足取りさえも重く感じる。ダイニングに赴いた英昭に快活に語り掛ける母。

「今日は御馳走よ~」 

 英昭はこの時ほど母の言葉が怖く思える時は無かった。自分の様子を見守る母を憂慮して繕った明るい面持ちで料理に手を着け始める英昭。それを眺める母。今二人の間には目に見えない切ない空気が漂っている。それに気付いてか気付かないのか母は何気ない表情で口を切り出す。

「どう、美味しい?」

 優しい眼差しを向ける母に対し英昭はまたもや芝居を演じるのであった。

 

 

 

 

 

 

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