人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

盆の締め括り  総括 ~新たなる旅立ち

 

 

           送り盆  浮世に廻る  儚さよ(笑)

 

 

 いやいや、この前始まったばかりの盆ももはや終わりとは、本当に早いです。自分としては相変わらず世の無常を感じずにはいられないという所なのですが。

 とはいえ何時までも嘆いている訳にも行かず、ブログを執筆する事に依って心にめりはりをつけたいと思う次第です^^

 

総括

 まずは総括ですね。これを忘れてはいけません。物事には順番というものがあってこれを飛ばして次の段階に進む事は出来ない、いや、してはいけないと思う所なのですが、どうも現代社会はこの総括を忘れているような気がしますね~ 😔

 ま、愚痴はよしましょう。要は自分がそう心掛ければ良いだけの話ですね。

 

その壱 終戦記念日


 8月15日といえば終戦記念日。これだけは忘れようとしても思い出せません(バカボンパパ風)、いや忘れてはいけない事です。

 戦没者、その尊き英霊の魂達を送り迎えする日がちょうど盆である事は正に色即是空、因果因縁を感じる所であります。

 ただ一言に終戦、戦争と言っても、歴史を振り返る上では色んな想いが胸をよぎるのですが、戦争は絶体してはならないという事は言うに及ばず、戦後の日本の歩んで来た道についても些かなりとも疑問が残ってしまうのは自分の浅はかながらも神経質な性質に起因する、或る意味では己惚れに値するかもしれません。

 ですが想いは想いとしてどうしても書き留めておきたいので何分ご容赦願います。

 結論から言えば温(ぬる)いという話ですね。戦争反対という考えは無論自分も同じなのですが、戦後の日本の取って来た道はどうもおかしいと思ってしまいます。それは是非にも及ばない事ではありますが、二元論に依って進んで来たが故にこそ感じられるこの現状を憂わずにはいられないという話ですね。

 一言に戦争と言っても昔は多くの国々で戦争、紛争が起きていました。今でもそうです。古より戦争、紛争が絶えた事が一度も無い事は歴史が証明しています。日本でいえばそれこそ源平の動乱期、鎌倉時代末期から室町時代初期。戦国時代、そして幕末、明治維新と。

 近代に於いても日清、日露戦争第一次世界大戦第二次世界大戦、そし太平洋戦争と。世界史で見ればその数は何倍にも膨れ上がります。それなのにいくら侵略戦争に明け暮れていたとはいえ日本だけが責められる、亦卑屈になる必要などあるのでしょうか。世界でも唯一の被爆国であるとはいえアメリカもイギリスもドイツも戦争に明け暮れていました。そられの国々は良くて日本はダメみたいに言われている感じがして仕方ありません。それに戦勝国があれば敗戦国があるのも当たり前で、負けた国は日本だけではありません。でありながら日本は未だにアメリカの属国も動揺というのはどう考えても矛盾しています。

 もはや今の日本は軍事的、経済的、精神的、道徳的とあらゆる面で世界最弱小国に成り下がってしまったと言っても過言ではないでしょう。

 それは即ち日本という国が元々弱かったのでは? とも考えさせられるのでありますが決してそんな事は無いと思います。

 なら数ある敗戦国の中で何故日本だけがここまで骨抜きにされてしまったのか。それこそが当時のGHQの目論見だったという人もいますが、その通りかもしれません。

 何れにしても治世=温いという事にはならないと思います。ここまで平和ボケした国は日本しか無いのではと思います。この自体を打破するにはやはり憲法改正しか道は無いと思われるのですが、無論右左の二元論ではありません。本来の日本を取り戻して欲しいと節に願う、あくまでも純粋な気持ちから来るものです。

 幕末から明治初頭に掛けて命を落として行った維新の獅子達、戦没者、その英霊の魂達はこの日本の現状を見て本当に平和になって良かったと心底思っているのでしょうか。自分にはとてもじゃないですけどそうは思えません。

 無論一概に言えるものでもないのですが、年間2万人もの自殺者がいる今の日本が平和な筈が無いと思います。ま、真の平和などというものは存在しないのかもしれませんが、その英霊の魂達に直接訊いてみたいぐらいですね。

 またまた硬い話になってしまい恐縮です。

 

その弐 自分がした事 


 偉そうな事ばかり言って来ましたがはっきり言って今年の盆も自分は何もしていません。情けない限りです。墓参りすら行っていません。ですが心で墓参はしました。それは毎日の事です。特別な日にこそ実際に行動するべきとも思いますが、どちらかといえば日々心掛ける事の方が大事と思っています。

 強いてした事と挙げるとすれば銭湯に行きサウナに入って汗をかいた。ブログ執筆を欠かさず行っているという事ぐらいでしょうか。あとは寝て観る夢を観ましたね。

 それは昨晩の話です。眠りが浅い自分はしょっちゅう夢を観る訳ですけど、昨晩観た夢も実に奇々怪々な内容でした。

 それは何処なのか、何をしているのか、はっきりと分かる事は何一つありません。分かる事があるとすれば自分は明らかにそこに居る。そして何かをしているといった余りにも漠然とした様子だけです。

 でもそこに出て来る人達は皆笑顔で前向きに生活していました。実社会か黄泉の世界なのか天国なのか。そこでは一切の煩悩から解放され、解脱したかのように愚痴や文句を口にする者は一人もいないのです。その中にあっては流石の自分も愚痴などを言う気にはなれず、ただ心穏やかに振る舞っているだけでした。

 そして目が覚めたのですが、夢の内容は自分でも何一つ解明する事は出来ませんでした。元々夢とはそうしたもののような気もしますが、ここまで訳が分からない夢を観たのも初めてでしたね。正に陽炎、蜃気楼のような余りにも淡い夢でしたね 😮

 

新たなる旅立ち 

 そこで胸に想った事は正にこれからの人生、己が進むべき道ですね。

 これは夢とは違ってもっと具体的に考えて行く必要があると思うのですが、この具体的と抽象的という二つの対照的な言葉も対義語であって実は同じものであるような気もしないでもありません。

 別に先人達が作り上げた素晴らしい言葉に抗う訳でもありませんが、要は二極一対、表裏一体、紙一重で、言葉は心の表れで心は言葉を生みだす源であります。

 その源から発せられた想いも言葉も多少の差異はあれど元は同じで、それは素晴らしくも美しい一つの原石なのです。その原石を下手に言葉に表す事に依って価値を損なってしまう場合もあります。

 ならば何も言わないのか? といった短絡的な二元論ではありません。それを如何に磨いて更に美しく表現して行くかに懸かって来ると思います。

 それは取りも直さず「水魚の交わり」という事でもあります。魚水無くば魚足り得ず、水魚無くば水足り得ず。人間の心と言葉は正に水と魚の関係と同じで心も言葉も美しい原石に依って初めて生まれ来る一つの形であると思います。

 その原石から生まれた形を如何にして育んで行くか。その想いさえあれば決意は自ずと具現化されて行きます。その具現化された形を守り切る事も重要です。叶えただけでは真の夢とは言えません。寧ろ守る事の方が難しいでしょう。

 

 という事で以上、盆の締めからの新たなる旅立ちを夢観る稚拙な記事でした(笑) 

 たとえ終わってしまっても心の盆、心の正月は常に人間生命に深く滞在しています。しかしめりはりを付ける事も大切です。新たなる未来に向けて日々精進し、その原石を一層美しく磨き上げて行きたい所ですね 😉

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

   

 

哂う疵跡  九話

 

 

 また一つ橋を渡り終えた二人は互いの身体に内在する力を分け与えるよう、そして倍増させて行くような逞しい男女に成長して行く。

 一将の凛々しくも愛らしく、豪胆にも堅実な為人は優子を安心させ、優子の聡明でお淑やかながらも威風堂々と事にあたる荘厳な佇まいは一将を心強くさせる。

 男女の営みが織りなす世界には情愛や傾慕は言うに及ばず心身ともに人を強くさせるといった恩恵までもが含まれているような気もする。それを体現する事に依って更なる力が生まれる事こそが万物の成長であって美しい流れでもある。

 一夜を明かした二人は朝露に濡れた葉から零れ落ちる一滴の汗を窓外に眺めながら肩を寄せ合い語り始める。

「何時になく熱かったじゃないの」

「お前もな」

 優子は流し目で一将の背中にある大きな傷痕を手でなぞりながら、少し切ない表情を浮かべて言い表す。

「この傷、私が原因で付けてしまった傷なのよねぇ、もう痛みは無いの?」  

「もう何ともないさ、そんな事思い出させるなよ」

「いや、言わせて、私本当に感謝してるのよ、あの時貴方が来てくれてなかったらどうなっていた事か、貴方三人も相手にしてよく勝てたわよね、格闘技でもしてたの?」

「ただ喧嘩慣れしてるだけさ、それにあんな奴は大した事ないよ、もっと強い奴等なら負けてただろうけどな」

「でもこの傷痕、余りにも大きいし目立つわねどうにかして消す方法はないかしらね」

「その話はもういい、それよりお前、仕事の方は巧くやってるのか?」

「まだまだだけど、何とかやってるわよ、そうだ、私がちゃんとした医師になった暁にはこの傷痕を綺麗に決してあげるわよ、ね! 楽しみにしてて!」

 一将は軽く笑って優子に接吻する。重なり合う二人の唇は甘くも聖らかな味わいを具現化し、互いの心に優しくも神々しいまでの一筋の光を投げ掛ける。その光を受ける二人はこの一瞬だけでも神に近付く事が出来たのではあるまいか。

 改めて顔を見合わす二人は笑みを浮かべながらその将来を夢見るのであった。

 

 一将に代わって跡を継いだ弟の一弘は挨拶で述べたように誠心誠意グループの経営に心血を注ぎながらその勤めに勤しんでいた。

 父一彦も全身全霊で息子の後押しをしてくれる。この実に有難い親子愛は一将の頃には感じられなかった事かもしれない。無論それは一弘の頼りなさを立証する事でもある。だがそれ故にこそ育まれる親子愛。これを今更ながらに感じとった会長の一彦はまるで若い頃に帰ったかのようにばりばりと業務を熟して行くのだった。

 会長は一弘のデスクに帳簿を開いて見せて来た。

「おい、これを見てどう思う? いいからありのままに答えてみなさい」

 一弘はその帳簿に隅々まで目を通して答える。

「はっきり言ってヤバいね」

「何がどうヤバいんだ?」

「数字は減少の一途を辿っている、このままじゃ会社は持たないな」

「何を悠長な事を言ってるんだ、それだけか?」

「それだけって?」

「もっとよく見てみろ、僅かだが業績が伸びている時もあるだろ」

「まぁあるにはあるけど、それがどうしたんだよ?」

「お前幾つになったんだ? 小学生じゃあるまいし、一から十まで言わせるなよ、何故その良い数字に目が向けられないんだ? 本当にヤル気あるのか?」

 一弘は言い返したかったのだが、まだ会長の本心が見えて来ないといった様子で項垂れていた。考えても答えは出て来そうにない。改めて訊き始めようとする一弘。会長はその寸前に先に口を切って来た。

「何故その時だけでも数字が上がったのか、それだけを考えて仕事に専念しろ!」

 会長はそれだけを言い置いて立ち去る。一弘には一つだけ思い付いた事があった。数字が上がっている時の成果は全て兄一将が自ら営業をしていた時だったのだった。

 

 

f:id:SAGA135:20210122180816j:plain

 

 

 弟に比べて兄の一将は相変わらずといった感じで出世街道まっしぐらと言わんばかりの目覚ましい成長を遂げていた。

 不動産の営業の経験があった彼は神田組でも同じく不動産部門で華麗に立ち回り、亦金融業でも大いに業績を上げて行き、もはやそのシノギは組内でもナンバー1に躍り出ていたのだった。

 それを一番喜んでくれるのは他でもない組長の宇佐美である。彼は一将の到来を誰よりも喜びまるで子供のような微笑みを投げ掛ける。

「お前は最高だよ、このままじゃ俺の立場がねーな、今のうちに覚悟する必要があるかもな」

 たとえベンチャラでもこの宇佐美の言が一将を大いに勇気づける。

「何を言ってるんですか組長、自分はまだまだひよっこです、ただ真面目に仕事をしてるだけですよ」

「そうか、まぁいい、でもお前も俺の舎弟なんだから何時までも一人って訳には行かねーぞ、そろそろ一家を持たないとな」

 それはまだ極道社会に疎い一将には理解し難い事でもあった。

「しかし、自分みたいな新参者がいきなり一家を持ってしまえばどれだけの反感を買う事になるか分かったものじゃありません、自分は今のままでいいです」

 さっきまで快く笑っていた宇佐美は少々不機嫌になった様子で少し語気を強めて一将に言って来る。

「じゃあお前、一体何をしにヤクザになったんだおい? ただ金儲けがしたかっただけなのか? それなら自分とこの会社で頑張ってたら済む事だろ、俺達はあくまでもヤクザなんだぞ、どう考えてるんだおぃ」

 一将は改めて宇佐美の恐さを知ったような気がしていた。確かにその通りではある。だがその問いに即答出来ない自分も歯痒くて仕方ない。

 でもこういう時にこそ優子が頼もしい味方となってくれるのだった。彼女は何時も言っていた。

「貴方に一つ足りない所があるとすれば、それは賢過ぎる所よ」

「お前の方が賢いじゃないか」

「いや、貴方のはちょっと違うのよ、はっきり言って可愛くないのよ、特に親御さんはそう見てるんじゃないかな、別に知ったかぶりする訳じゃないけど、勿論私は好きだけどね、もうちょっとでも馬鹿になったら?」

 馬鹿になれとは世間でよく言われている事でもあるのだが、それを額面通りに受け取る必要性は如何ほどなのだろうか。それを現代日本社会に当て嵌めた場合、現代人は必要以上に馬鹿になり過ぎているようにも思えないでも無い。

 一寸の虫にも五分の魂でたとえ一庶民であったとしてももう少しでもその身を律し、意識を高く持ち志、心意気、心根を育んで生きて行く必要もあるのではなかろうか。それは取りも直さずあらゆる生命が持って生まれた矜持へと繋がって行くような気もする。それさえ失ってしまった者は正に生きたまま死んだ事になるのである。

 生命の根源である魂。その息吹を感じた身体が現す所業。これこそが美しい生命の循環であって美しい流れでもある。

 ならばそこに見出される今の一将の想いはどういう形を彩るのか。

「分かりました、自分が間違っていました、組長の言う通りであります、一家を持つ方向で精進して行きたいと思います」

「よし分かった! お前の本心しかと聞き届けた、それでこそ俺の舎弟だ、俺達ヤクザは行く道は行くしかねーんだよ、それに一家を持ってもいない者をいくら舎弟とはいえ本家で紹介する事は恥ずかしいからな、ま、俺に任せておけ」

「有り難う御座います」

 一将が言い放った事は本当に真実だったのだろうか。それは本人にさえ分からない。だが極道社会に足を踏み入れた彼が一家の長になる事は実に目出度く大業を成した事になるのは言うまでもない。

 問題は彼の胸底深くに眠る真意である。それを未だ引き出す事が出来ない一将も所詮は弟同様まだ幼い青年に過ぎないのだろうか。

 兄弟が歩み始めた二つの異なる世界。それは図らずも二人の心に滞在する心根に依って形を現すのであった。

 樹々が鮮やかに色を付け始め、涼やかな風を運んでくれる秋の美しい景色はそんな二人を黄昏れさせるのに十分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらも応援宜しくお願いします^^

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

哂う疵跡  八話

 

 

 森羅万象。樹木が限りなく茂り並ぶ森羅、万物のあらゆる現象である万象。是れ全ては宇宙に存在する一切の現象であってものでもある。然るに有形無形に象られる人の心の赴きには常が無いと解釈する事も出来るのであるとすれば、今回一将が執った所業も決して浅はかなものでも無いような気もしないでもない。

 だがその真意を探ろうとする親の気持ちはどう扱えば良いものだろうか。一将は別に若気の至りでした事では無い。その想いだけでも理解して欲しくて文を認めていたのだった。

 続きを読む父一彦の表情は次第に険しくなって来る。

『自分が赴く場所は極道の世界です、でも決して親不孝をする気などはありません、あくまでも修行であり自らに与えた試練なのです、今直ぐ理解して頂く事は無理かもしれませんが、どうか長い目で見守っていて下さいますようお願い致します』

 読み終えた一彦はその文を破り捨てようとしたのだが途中で思い直す。何故手が止まったかは自分でも分からない。でも己が息子に抱く猜疑心は信頼には遙かに及ばない脆弱さを現す。

 だからといって息子を許す訳でもないのだが、事ここに至ったからにはその行く末を見守る事でしか親としての矜持を示す事が出来ない自分を不甲斐なくも微笑ましく省みながら日々の生活に戻る一彦だった。

 彼は妻の沙也加には適当に言って誤魔化し、改めて社員一同の前で一弘を次期社長に据える事を報告し挨拶をさせる。

「まだまだ不肖の身ではありますが、皆様の胸を借りるつもりで誠心誠意努力し兄一将に負けないよう精進して行く覚悟ですのでどうぞ宜しくお願い致します」 

 拍手で応えてくれた社員達の優しさは一彦一弘親子を感動させた。あとはその言葉に見合った行動を執るだけである。

 思想と行動が一致する事に依って初めて生まれる形。どんなに立派な思想を持っていても行動に出せない事には何の意味も無いと言う人もいるが果てしてその通りなのだろうか。

 一見尤もらしく聞こえるその言い方も実は少し底の浅い思慮であるような気もしないではない。何故なら思想無くして行動もクソもないとも思われるからである。その逆も然りで行動無くして思想は認められないというのが一般論ではあろう。

 でも思想を皆の面前で高らかに謳う事に依って心新たに行動しようと思う人の心持は決して先に身体が動くといった性格上の話だけに留まる事はないだろう。ならば思想を抱く事だけでも立派な所作であると言わねばならない気もする。

 行動と思想、見識。この二つを有形無形に例えた場合、やはり行動が有で思想は無に属するような気もするのだが、この二つの形が合致してこそ初めて大いなる力が生まれるのである。

 その力を養うべく精進する一弘の姿は精悍で凛々しく、実に頼もしい心根を皆に訴えていたのだった。

 弟の覚悟を理屈抜きに感じていた兄一将も己が人生に勤しんでいた。今や日本を二分するアウトロー団体の一方の雄である山誠会の二次団体、神田組にいきなり舎弟入りするという形で大抜擢された一将は、兄貴分である宇佐美組長共々に組織の中枢で働く事になる。それは実に有難い事ではあるのだが、一将は自分を謙遜したのかある進言を口にするのだった。

「組長、やはり自分のようなついさっきまで堅気のトーシローであった者がいきなり舎弟になる事は要らぬ災いを招く事になりかねないとも思われるので、部屋住みから始めたいのですがどうでしょう?」

 宇佐美はそんな弟分の律儀な姿勢を見て改めて甘い言を投げ掛ける。

「流石だな、だが心配する事はねー、お前をいきなり舎弟にしたのにはそれなりの考えがあるからさ、いいからドンと構えておけって」

 その甘言を額面通りに受け取る一将でも無かったが、宇佐美に逆らえる訳もなく、取り合えずは彼の手となり足となり、言われるがままに身を任せ動いていたのだった。

 

 

f:id:SAGA135:20210122180816j:plain

 

 

 一言に月日の経つのは早いといってもそれこそ千差万別、十人十色の価値観に依る所が多いような気もする。例えば幼い子供達が思う時間に対する概念と、大人が感じるそれとは明らかに隔たりがあるのは事実である。

 小学生や中学生、高校生が5、6時間目にも及ぶ一日の授業の行程も社会人として働いている大人にとてはまだ短く感じられる。だがそれを短いと感じない学生達の心持はただ時間に対する概念性だけではなく、寧ろ一刻も早く授業を終え遊びたいといった、自由を求める素直な気持ちが表す時間への反逆性から生じる想いではあるまいか。

 それとは対照的に時間の経過が早いと思う大人は仕事に専念する余り、或る意味では時間を無駄に過ごしているような気もしないでは無い。

 何れにしてもこのような稚拙な思慮を巡らす事自体が世の流れに抗っているようにも思える訳なのだが、殊自分の人生に於いてはその時間が如何に大切であるかを改めて自分に言い聞かせる一将はまた久しぶりに優子に会いたくなって仕方がなかった。

 いつの間にか9月中旬になったこの時期に見る街の光景は実に麗しい秋の装いに充ちた自然と人々の優雅な姿だった。

 もはや蝉の鳴き声など全く聞こえなくなった街路には色鮮やかな紅葉に銀杏、ハナミズキ等の美しい樹々が佇んでいる。中でもハナミズキがその葉を緑から赤へと変色して行く様はまるで童が成長して行くような可憐にも誠実で、己が姿を目一杯咲き誇らせたいといった素直な夢を漂わす。

 その行程こそが見事な過程であって、結果を急がない自然の理はやはり人間などには遙かに及ばない神仏の領域であるように思える。

 季節毎にきっちりと姿を現す自然を横目にしてその様に抗う事なく悠然とした態度で現れる優子もまた、自然の恵みを存分に受けながら生きている一人である。彼女は季節感のある綺麗な容姿で一将の前に現れた。黄緑色の服は少し赤みがかっているようにも見える。そこに靡かせる長い髪は風が吹く度にその衣服と辺り一帯を綺麗な色に染めて行く力を感じさせる。それに敏感に反応するあらゆるものは彼女に恩返しをするかのように更に美しい姿を見せつける。

 この美の循環こそが人の心を安んじる正の連鎖であるのではあるまいか。そこには一切の負が形を現さない。

  自然と融合する優子は或る意味最高最強の女神の化身になったのかもしれない。会う毎に進化する彼女の姿は一将をまた初心な青春時代へと誘(いざな)うのだった。

「しかし何時見ても綺麗だな~、お前は本当に女神なのか?」

 そんな一将の言を笑いながらも少し照れたように答える優子。

「何言ってんのよ、ほら、行くわよ」

「行くって何処に?」

「それは分からないわよ、取り合えず立つのよ、そうしないと何も始まらないでしょ」

 確かにその通りではある。二人は行先も決めぬまま歩き出す。静々と粛々と、そして果敢に。だがこれも二人には何時もの事で今までも大した予定を立てていなかった逢瀬は反って胸が躍るものでもある。

 何処の角度で、何処に向かって、何を求めて。そんな目的などは邪魔なだけである。互いの素直な心の赴くままに進む道。ここにこそ真の情愛が生まれるような気もしないではない。

 それはあての無い旅で、ただ人生に彷徨うだけの頼りない非力さを漂わせているようにも見えるのだが、無論その限りでは無い。あてが無いからこそ生まれる素晴らしい発展があるのである。そこにこそ真の充実感、真の喜び、真の生きる意味が見出されるのではなかろうか。

「さ、ここにを渡るわよ」

 こことは何処なのだろうか。それは一将の目には単なる道に見えるのだが、優子にはどう映ったのだろう。そこを渡り切ってから言葉を交わす二人は互いの心を包み隠さず、全てを解き放つが如く清純な童に帰ったのである。

  渡ってこその橋、その橋を形だけでも渡り切った二人は今正に一心同体になり美しい形を己が姿に現すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 こちらも応援宜しくお願いします^^

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盆に聴きたい曲

 

 

           納涼の  優美漂う  お盆かな(笑)

 

 

 いよいよ本格的な盆に入りましたかぁ~。ついこの前七夕が来たと思っていましたが、この早い月日の流れこそが無常観の現れなのでしょうか。

 何れにしてもこの盆と正月こそが日本の美の神髄にして花鳥風月ですよね ✨ もはや他の記念日や行事などは要らない感じもしますが、そんな事はありません。

 という事で今日は盆や帰省に因んだ曲について語って行きたいと思います。五輪ピックは堂々と開催しておきながら帰省は控えるよう促しているお上にも憤りを隠す事が出来ませんが、ならばせめて心だけでも故郷へ帰ったような想いにさせてくれる曲が聴きたいと思い付いたものです。

 でははりきって行きましょう^^

 

少年時代 <井上陽水

 この曲は自分が井上陽水で一番好きな曲なのですが、これこそが陽水さんの真骨頂と言わんばかりに彼の素晴らしい歌声、、メロディー、心根(音)が余すところなく表現されているといった感じがしますね。

 特に陽水さんのあの柔らかい声には本当に癒されます。自分は歌もどちらかと言えば硬い曲が好きなのですが、陽水さんだけは別格ですね。正に神といっても過言ではないでしょう。

 

 

www.youtube.com

    

 

夏休み <吉田拓郎> 

 夏休みと一言に言っても色んなものを想像すると思うのですが、この曲は静と動で言えば正に静で夏を表現していると思いますね。

 烈しいばかりが夏ではない、静かにもしみじみと夏を感じさせてくれる、その切ない曲調の中にこそ真の夏の風情、優美があると思います。そして幼い頃の淡い思い出に浸りたい時などは最高の曲ですよね。

 

 

www.youtube.com

 

 

風の盆恋歌 <石川さゆり> 

 やはり我らがさゆりさんですよね。盆、正月にまで恋をするんかい! と言いたくもなって来る訳なのですが、そんな事はどうでもいいのです。さゆりさんが唄えば全ては形になり美になります。

 一味違った盆を感じさせてくれますね。

 

 

www.youtube.com

 

 

故郷 

 帰省といえば故郷、故郷といえば故郷。この曲なしに故郷は語れませんよね。これこそが日本の原風景を思わせるような日本の原点にして万物の根源であると思います。

 兎追いし○○、小鮒釣りし○○などと友人の名前を入れて昔よく替え歌にしてふざけて唄っていました。それをし過ぎて喧嘩になった事もありましたけど(笑) 懐かしい思い出です。

 正に心が洗われる曲ですよね。

 

 

www.youtube.com

 

 

乾杯 <長渕剛> 

 最後はこれです。長渕ファンとしてはこの曲を挙げない訳には行きません。

「あれからどれくらい経ったのだろう、沈む夕日を幾つ数えたろう、故郷の友は今でも君の心の中に居ますか」  

 このフレーズだけでも泣きが入ります。

 ま、故郷を想わせる場面はここだけなのですが、その追憶から現代、そして将来、未来へと繋がって行くこの美しい流れ。これこそが自然の理であって、人間に見る美の象徴だとも思えます。

 特にあの当時の長渕がこの曲を唄っている姿は最高にカッコいいです。今とは別人のようにも見えるぐらいです。いや~あの頃の長渕は本当に良かったです、神がかっていましたね。勿論今もいいのですけどね。

 

 

www.youtube.com

 

 

 という事で以上、盆に聴きたい、故郷を感じさせてくれるような自分の好きな曲を挙げてみました。他にもまだまだあるのですけど、取り合えずはこんな所ですかね。

 故郷自体が無い、生まれも育ちも同じという方も結構いるとは思いますが、形はどうでもいいと思います。たとえ故郷が無くとも心の故郷はある筈です。それはつまり地元を想う情義、情愛であり、幻の故郷を想う情念でもあります。

 皆様も良いお盆を   😉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

哂う疵跡  七話

 

 

 多少なりとも優しく感じ始めた陽射しに大人しく聴こえる蝉の鳴き声。風に揺らめきながら色を変えて行く樹々や草花の涼やかな様子は人の心を和らげ、快活に登校する子供達の姿は元気を与えてくれる。

 まだまだ残暑が厳しいこの時期ではあるが夏の到来を喜ぶ童に対し、その残り香を愛おしむ大人達の姿は未練がましくも憂愁に充ちている。

 大切な仕事とはいえ多忙にかまけて今年も夏らしい事を何もしなかった一将は、まるでその事に報いるかのように明るい面持ちを保ったまま両親の下を訪れるのだった。

 相変わらず悠然と構えている父一彦と、依然として変化が見られない浪費家だった母沙也加の変わり様は一将を安心させる。そんな両親の心持に負けじと毅然とした態度を現す一将も流石ではあった。

「あら一将、突然どうしたの?」

「何か用か? 今度はお前からの急な訪問か」

「落ち着いて訊いて欲しいのです」

「何だ改まって」

「俺はグループから抜けます」

「何だって!?」

「後は弟の一弘に任せます、その事だけを伝えに来ました、今までお世話になり誠に有難う御座いました、では」

「ちょっと待てよ! 何があったんだ?」

「全てはここに認(したた)めてあります、本当に有り難う御座いました、失礼します」

 深々と頭を下げる一将はその文だけを残して立ち去る。呆然と立ち尽くす二人の親御は互いの目を見つめながらその想いを無言の裡に確かめようとしていたのだが、答えなど出よう筈も無い。だが一将のあくまでも明るく装っていた表情が二人の間に僅かな光を指し込んで来た。

「貴方、何も心配するには及びませんわ、あの子にはあの子なりのしっかりとした考えがあるのでしょう、今までもそうだったじゃありませんか、それに今止めた所で気の強いあの子の事、訊き届けてはくれないに決まってますわ、あの子に任せましょう」

「あ、ああ、そうだな」

 楽観的な沙也加に対し一彦は少なからず陰鬱な表情を浮かべてはいたが、落胆までには至らないその様子は沙也加の根明な性格が齎す効果に依るものなのかもしれない。

 対照的な人同士だからこそ発揮出来る力。それは得てして互いの感情を傷つける事もあるのだが、こういう決して穏やかではない時の救いになる事は有難い限りでもある。

 しかし問題はこれからだ。息子の行く末を案じる一彦はただ悠長に構えている訳にも行かず、一弘は無論、社員一同に対し報告かたがた新たなる決意を示し士気を高めて行く事に専念するのであった。

 真にその身を律しなければならないのはグループを託された一弘だった。まだ学生であるにも関わらず、衰退途上であるとはいえこの大きな組織を束ねて行くには明らかに無理が感じられる。だが事ここに至ったからには兄から任されたものをそう簡単に投げ出す訳にも行かない。兄にも勝る親思いな一弘は昨晩一睡もせずに考えていた。

 兄は絶体に帰って来る。一時的に何処かへ修行に行くに違いない。ならば留守を守る事こそが弟である自分の使命だ。帰って来るまでに業績を伸ばして愕かせてやろう。

 些か微笑ましくも感じる一弘の覚悟も大したものではある。血は争えないとはこの事か。二人に共通する前向きな性格も実に頼もしい限りだ。親子共々が描く未来図。それを成就させるか否かは全てこの二人の兄弟に懸かっていたのだった。

 

 

f:id:SAGA135:20210214171547j:plain

 

 

 一将の父一彦は息子が認めた文を読み始めていた。

『拝啓、御両親に置かれましては一層ご健勝の事と存じ上げます、まだまだ残暑が厳しいこの時期ではありますが、如何お過ごしでしょうか、お陰様で自分は相変わらず元気に生活していますが未だ突破口を見出せないグループの不透明な先行き、その不始末は全て自分の不甲斐ない所業に依るものです、という事で自分は一時時間を頂き修行に赴きます、その場所は.......』 

 一彦はここで一旦文を閉じる。

 一将が一人向かった先は神田組の事務所だった。無論表向きは例のお礼を言いに来たのである。しかしその真意は。

 部屋に通された一将は宇佐美に会うと深々と頭を下げこの前の礼をする。

「この度は本当に有り難う御座いました、お陰で我がグループは命拾いが出来ました、全ては貴方様のお陰です、これはほんのお礼ですが是非ともお納め下さい」

 宇佐美は一将の顔だけを見つめながらその封筒を取った。その上で更に峻厳な面持ちを現しながら切り出す。

「これは有難く頂いておくが、お前さん、何時もと様子が違うな、どうした?」

 一将は改めて姿勢を正し意を己が覚悟を示すようにして口を開く。

「自分を子分にして下さい! 御願いします!」

「おいおいいきなり何を言い出すんだよ、お前さん会社はどうするんだ?」

「会社は辞めて来ました、以前ここに来た時から腹に決めていた事なんです、どうか自分を子分にして下さい!」

 90度以上腰を屈めて懇願する一将の様子は宇佐美さえも動じさせる。だが多くを語る事を毛嫌いする宇佐美は一言だけを口にしてその決意を確かめようとする。

「お前さんの腹はよく分かった、だが俺達はヤクザだ、堅気じゃねーぞ、その辺の覚悟は出来てるんだろうな!?」

「勿論です!」

「分かった! じゃあお前は今から俺の大事な舎弟にしてやる、その代わり一生親御さんには会えないと思え、分かったな」

「有り難う御座います! 精一杯精進致します!」

 宇佐美は自ら手を叩き拍手をする。それに影響された他の組員達も拍手をして一将の組入りを歓迎してくれる。

 前の一件といい今回といい何とも簡単に事が運ぶものだ。それは宇佐美が一将の事を目に掛けていた事は言うに及ばず、一将もまた宇佐美の事を好いていたからである。相通ずる二人の熱い想いに大した言葉は要らないかったのだった。それは少々飛躍した言い方ではあるが、東から昇ったお日様が西へと沈んで行く、季節の移り変わり、生まれるものあらば死するものあり、亦は万物が育む情愛。そんな自然の理ともいえる情景の中にあって余計な言葉や思慮を廻らす人の性質自体が寧ろ滑稽に見えると言っても過言ではないような気もしないではない。

 しかしただ気の向くまま身体の赴くままといった時代に流されるだけしか能が無い思考が停止し精神までをも去勢されてしまった腑抜け現代人が現す愚行でも無い。あくまでも己が意志に依って決心したその様は正に自然の理に合致しているようにも見える。

 一将の組入りを歓迎してくれた宇佐美は若い衆に言い早速酒の段取りをさせるのだった。親分の意向を察した若い衆は気を利かせて儀式用の盃まで用意して来た。

 それを手に取らせて酒を注ぐ宇佐美。一将はその意を受けるべく一気に飲み干す。そして注ぎ返す一将の心意気に応えるべく一気に飲み干す宇佐美。

「相変わらずいい飲みっぷりだな、これはまだ仮盃だが何れは本家親分の前で正式な儀式が執り行われる、それまでにお前も精進する事だな」

「はい、頂きましたる盃に恥じぬよう誠心誠意精進して行く覚悟で御座います」

「よし、硬い話はここまでだ、今日は目出度い日だ、お前らも思う存分飲んでくれや」

「親分、有り難う御座います!」

 一同は大いに飲み大に食べながら充実した時を過ごす。

 想いが通じたのか、酔いしれる皆の目には一本の天翔ける橋が姿を現す。その橋を渡らんとする一将と宇佐美。現時点では何ら猜疑心を抱く事なく手に手を取って橋を渡って行こうとする二人の行く末には一点の曇りさえ見えない気もする。だが曇りが無いから明るいといった浅はかな二元論で片付けられるほど甘い世の中でも無い。

 自らに試練を与え続ける一将の真意は自然の理に適っていると言えるのだろうか。晩夏の涼やかな風は優しくも厳しく一将の身体と心を吹き抜けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 こちらも応援宜しくお願いします^^

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

哂う疵跡  六話

 

 

 宇佐美組長の功と、両親に報いたいという一将の志も虚しくグループの経営状態は悪化の一途を辿っていた。

 無論その理由は低迷し続ける景気に依る所が大きかったのだが、もっと言えば時代の流れそのものにあると言っても過言ではないような気もする。千変万化する世の中にあって常に安泰を保障される業種など幾つある事か。だがそれに挑むからこその企業経営であり、そこにこそ人の真価が問われるのである。

 一将は仮にグループが廃業に追い込まれようとも、その矜持だけは持ち続けたいと深く胸に刻むのであった。

 まだまだ残暑が厳しい中にあって一将はまた自ら色んな場所へと営業に赴いていた。古くから付き合いのある得意先や新規開拓を求めて東奔西走する彼の姿は単なる一社員のような漂いがあった。或る企業の者は

「これはこれは西グループの御曹司様、わざわざのお運び有り難う御座います、どうぞゆっくりして行って下さい」

 などと愛想の良い丁重な応対をしてはくれるものの、世間話に興じるばかりでビジネスの話などには全く取り合わないといった風で、また或る企業の者は終始不愛想な態度で一将が出て行く頃には陰口まで叩く始末だった。

 このような事はそれこそ営業職では日常茶飯事な訳なのだが、経営が悪化して来たこの現状ではかなり堪えるのも事実ではある。大した打開策が浮かばなかった一将は公園に立ち寄って淋しそうな面持ちで一人ベンチに腰掛けていた。

 日中の公園に見る景色も相変わらずである。強い陽射しの下、綺麗に立ち並ぶ樹々に生き生きと生い茂る草花。子供を遊ばせている親御さんにゲートボールに励む御老人達。その何れもが一将に投げ掛ける雰囲気は元気に身体を動かす様子だった。

 それは一将とて同じなのだが少々疲れていたのか何時になく元気が出ない。そんな中、遊んでいた子供が手にしていたボールが一将の方へと転がって来た。それを手に取って優しく子供に返す彼は少し動揺するのだった。

「はい」

「ありがとうお兄ちゃん」

 親御さんもこちらを向いて軽く会釈をしながら優しく微笑んでいた。このお兄ちゃんという言葉に敏感に反応した思惑は自分でも良く分からない。でもその言葉から感じ取れる事は呼んで字の如く兄弟が現す情愛に他ならない。弟一弘は今どうしているのだろうか。真っ先にそう思った一将は一弘に連絡して会社で話そうと告げるのだった。

 公園では未だ元気に立ち回る子供とご老人の姿が大自然の力に負けないかのように健気にた佇んでいたのだった。

 会社に戻った一将は珍しくも茶を用意して一弘の訪いを待っていた。一弘は何時もながら楽観的な表情を浮かべながら部屋に入って来る。その様子は恰も生徒が嫌々ながら教室に入って来るかのようなヤル気の無さを訴えているようにも思える。

 茶を差し出して徐に口を開く一将。彼の様子は弟とは全くの対極を現す。

「お前、もうちょっとでもしっかりしろよ! そんな事で部下達に示しがつくのか?」

「だって俺はまだ学生なんだぜ、そう責めないでくれよ」

「じゃあお前の同級生はみんなお前みたいな幼い顔つきをしてるのか?」 

「それは......」

 だがそんな一見頼りなく見える弟一弘の為人こそが一将を安堵させる大きな要因の一つでもあった。依然として感じられる勝気に勝る性格とは裏腹な頼りなさ。それは良く言えば天真爛漫にも見えないのでもない訳だが、悪く言えばただのアホなのである。

 でもこの一弘とて一将に勝るとも劣らない知性の持ち主でもあった。そして感性では一将の上を行っているのではないかと思われるぐらいに彼の豊かな感情には人を引き付ける魅力があった。

 それは一将には無い素晴らしく芸術的な感性なのであった。

 

 

f:id:SAGA135:20210130174735j:plain

 

 

 幼い頃から絵を好んで描いていた一弘は小学生時分から何度となく表彰を受けていたのだった。海に山、木に森、動物に虫、果ては都会の街並みまでをも見事に一枚の絵に納める彼の才能は実に素晴らしいものだった。

 神童とは言わないまでも一将には備わっていなかったその才能は時に嫉妬に値するものでもあった。

 そこで一将が思い付いた事は唯一つ、弟一弘をグループの後釜に据えようとする些か滑稽な覚悟であった。まるで幸正のような欺瞞にも思えるこの覚悟も実は狡猾でも何でもなく、あくまでも己が正直な気持ちの現れであった事は一将自身が一番よく理解していた。だからこその覚悟であり諦観なのである。

 意を決した一将は弟が茶を一口飲んだ後に事を告げる。

「よく訊いてくれよ、お前が俺に代わってグループの跡取りになるんだ」

  流石の一弘もこれには戦慄し身を震わせながら反論する。

「何言い出すんだよ! 冗談が過ぎるぞ! 俺にそんな事が出来る訳ないだろ! 何考えてるんだよ!?」

「落ち着けって! これは冗談でも何でもない、真剣に言ってるんだ、だからお前も真剣になれ!」 

 「俺は真剣に言ってるんだよ!」

「いいから訊け! 俺みたいに出来る奴には敵も多い、だがお前には敵など殆どいないだろう、それにお前には俺にない才能もある、頭もいい、まだまだ頼りない面もあるがそこがいいんだよ」

「嫌味か?」

「訊けって! そこでだ、お前が跡取りになれば少々規模を縮小しても西グループは安泰でやって行けるだろう、今の事態を切り抜けるにはそれしか道は無いんだよ」

「そんな事急に言われてもな、俺には全く実感出来ない話だな」

「今直ぐに腹を決めろとは言わない、そういう方向で考えて欲しいんだよ」

「で、兄貴はどうするんだよ?」

「俺は潔く身を退き違う道を進もうと思ってる」

「何だよ?」

「それはまだ言えない、でもあくまでも俺達は兄弟だ、親孝行しなくてはならない、天真爛漫な母に天真爛漫なお前とは相性もいい筈だ、とにかく頑張ってくれ、あ、それと幸正は馘にするから後の事も心配するな、俺が型をつけてやるから」

 一弘は返事をしないままに部屋を出て行く。その姿は部屋に入って来た時とは真逆な悲観的にも凄まじい淋しさを訴えていた。でも一将の覚悟は何ら衰える事なく前進する一方だった。

 この事を知った両親はどう思うだろうか。それすら察しがつく一将は既に身辺を綺麗に整理して己がケジメを付けるべく幸正に会いに行く。

 最近仕事を休みがちだった幸正は一将の突然の訪問にも全く狼狽える事なく姿を現す。対峙する二人は一時言葉を発しなかったのだが、先に口を切った一将は冷たい口調で喋り出す。

「お前、何サボってんだよ、もうお前は馘だ、勿論それなりの金は渡す、だから大人しく去れ、分かったな」

 幸正は不敵な笑みを泛べてながら答えた。

「なるほど、お払い箱ですか、何時かはこうなると思ってましたが、こんなに早いとは思ってなかったですね」

「何か文句があるのか? 最後だ、はっきり言えよ」

「じゃあ言わせて貰いますが、弟君を後釜に据えようと言ったのは自分が先ですよ、貴方は部下の意見を真似ただけですか? 何とも無策な話ですね」

 一将も不敵に笑いながら答える。

「お前らしい言い方だな、だが、お前とは全く違う点がある、俺は弟を信頼してるからこそ後任に据えたんだよ、お前みたいな賤しい企みなど持ち合わせてないんでな」

 この言は幸正の心を大いに傷つかせた。図星であった事は仕方ないとしても人格否定までされる覚えはない。憤た幸正はいっそぶん殴りたい気持ちに襲われたのだが、勝ち目のない喧嘩をするほど愚かでもなかったのだ。

「ま、お互い頑張りましょうや」 

 捨て台詞を吐くようにして立ち去る幸正。その後ろ姿も何処となく淋しさを訴えているように見えないでもない。

 一将の前に聳える試練は今初めて産声を上げたのかもしれない。雨が降る気配が全く感じられないこの厳しい残暑に。 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらも応援宜しくお願いします^^

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

もし諸葛亮孔明が源平合戦に参戦していたなら

 

 

           頑なな  心和らぐ  夏の喜雨(笑)

 

 

 いやいや、連日の酷暑の中に見る雨は本当に有難いものです。心安らかに迎える盆。これこそが日本の美の神髄であり花鳥風月だと思う所であります^^

 という事で今日はあの天才軍師、諸葛孔明がもし源平合戦に参戦していたならばどうなっていたか? という甚だ滑稽で歴史を語る上ではタブーとも言われているifについて綴って行きたい次第なのですが、何卒ご容赦頂きたく存じます。

 

そもそも源平合戦自体が起きていたのか?

 ますはここですよね。孔明が居たなら一連の源平の戦い自体が発生していたか? これすら無ければ話は始まらない訳なのですけど、戦が起きていなかった可能性を否定する事も出来ません。

  元々武士が台頭する事を願っていた源平の両雄、源義朝平清盛保元の乱では共に手を取り戦い抜きました。これに依って左大臣藤原頼長は自ら武士の世を招いてしまうといった間抜け極まりない愚行を露見してしまった訳ですが、一番不憫なのは崇徳上皇ですよね。自分ははっきり言って後白河天皇よりも崇徳上皇の方が好きでしたね。

 一連の源平合戦の発端がこの保元の乱にあるとすれば、孔明はまずこれを起こさないよう勤めたのではないかとも思われます。両雄並び立たずとはいえ源氏と平氏は何も不倶戴天の仲では無かった筈です。ならば奥州藤原氏のように源氏と平氏、そして奥州藤原氏三者が互いの力を牽制し合って共存共栄を図って行く事こそが大道と思うのではないでしょうか。

 奥州藤原氏は敢えて日和見主義的な立ち位置に固執していましたが、別に腑抜けになっていたとも思えません。正に三国志なのです。小さな諍いこそあれどこの三者が手に手を取って世を平定していれば良かったのです。そうすれば内裏で権力を振るっていた藤原氏もその力は次第に弱まり、武士を侮るような事もしなかったと思います。

 

源氏方に付いた場合

平治の乱 


 まずは平治の乱ですね。これも同じです、義朝は軽率過ぎましたね。孔明がいれば清盛と敵対するような馬鹿な真似はさせなかったと思います。

 とはいえ起きてしまった事に文句をつけても始まりません。当時はまだ平家の方が勢力に勝っていたと思われるので真っ向勝負を挑んでも負けていたでしょう。となれば源氏には力を養う猶予が必要です。

 そこで頼るべきは奥州藤原氏なのです。こういう時の為の奥州、三者三様の特性が発揮されるのです。そして力を蓄えた後、改めて平家と相対すると。孔明ならではの実に良い策ですね^^

 

木曾義仲


 この人も武には長けていましたが知に劣る所の多い武将でしたね。性格的には男らしくて好きだったのですけど。

 義仲は実に目覚ましい活躍をして平家を圧倒して行きましたが上洛したのがまずかったですね。孔明なら決して上洛はさせなかったでしょう。これも奥州藤原同様に自分達だけで一大勢力を保持していれば良かったのです。ならば頼朝とてそう簡単には手出し出来なかったでしょう。源氏の棟梁はあくまでも嫡流である頼朝なのですから、それに抗ってどないすんねんという話ですよね。

 こればかりは如何に天才軍師孔明が付いていたとしてもどうにもならない事です。

 

源義経


 正に不運の武将義経で、あれだけの功を上げたというのにその最期は実に御労しい限りでした。でもここでこそ孔明の真の力が発揮されると思います。

 まずは獅子身中の虫梶原景時を処罰する事です。こんな無能極まりない奴に足を引っ張られていた義経が不憫で仕方ありません。

 この者を処罰する方法や大義名分はいくらでもあります。

1-このままなら平家に負ける可能性があります、邪魔なだけなので引っ込んで頂くようにと頼朝に言上する。

2-元々は平氏の武将で裏切者なので平家側に殺させる。

3-いっそ暗殺してしまう。仮に頼朝に疑われても義経抜きでは戦いにならないので心配

 には及ばない。

 そして大前提として兄頼朝を信用してはならないと念を押す。義経は人が好過ぎますね。無論それこそが義経の魅力でもある訳ですけど。壇ノ浦で勝利した後朝廷に匿って貰うのもよし、奥州藤原が頼りないのであれば壇ノ浦の後直ぐ返す刀で鎌倉(頼朝)を滅ぼすのもよし。

 もっと狡猾に立ち回るべきでしたね。

 

平家方に付いた場合 

 源氏に付く場合と真逆になって来る訳なのですが、保元m平治の乱までは清盛は連戦連勝していましたから、源平合戦の途中からという話になって来ると思うのですが、平治の乱で勝利した後、常盤御前からの懇請があったとはいえ頼朝、なか義経兄弟を抹殺するべきでしたね。完全に後顧の憂いを絶てなかった清盛はまだ甘いです。所詮は人の子だったという事でしょうね。

 清盛が世を去った後、一気に弱体化して行った平家の勢力では義仲に勝つ事は出来なかったでしょう。これも孔明の奇策を持ってすれば何とか持ち堪える事も出来たかもしれませんが、時としては負けを認める度量の広さも必要です。

 そして西国に退く折り、安徳帝を伴って行く訳ですが、これではまだ弱いですね。いっそ後白河法皇を引き連れて行くべきだったのです。そうすれば流石の源氏もそうやすやすとは追って来れなかったでしょう。

 それでも義経の勢力は侮れません。そこで奥州藤原にも繋ぎを入れるのです。奥州も源平がはっきり勝敗をつけてしまう事は望んでいなかった筈です。そうなれば喜んで源氏の背後を襲ってくれたと思います。奥州藤原氏は結局何もしませんでしたね。せっかくの力を持て余していただけです。いくら平和主義に徹していたとはいえ、奥州藤原の元を作り上げた藤原経清もそこまで事を傍観するようなやり方を望んではいなかったでしょう。

 こうして孔明の策に依って一連の源平の動乱も実に賢い終焉を遂げていたと思われますね。孔明のような名軍師さえ居れば事は美しく収まるのですね。

 

 という事で以上、諸葛亮孔明の偉大さを改めて考えてみるといった稚拙な記事でした(笑) 孔明が総理大臣になっていたらと言われても、時代が全然違いますからその真意は測りかねるでしょうね。曹操も乱世の奸雄でしたが治世では能臣。今の時世でどれだけ活躍出来たかは未知数だと思います。

 引き続き小説の方も宜しくお願い致します 😉