人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

hとsの悲劇 序幕 ─馴れ初め─

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 その日h(男)は朝から苛立っていた。昨晩もほとんど眠れなかった為である。s(女)は今まで何度となくこのhを殺そうかと逡巡している間に約十数年の月日が経った。

 

 1992年(平成4年)hは高校生になった。その頃のhは普通に学校に通い友人もそこそこ居る云わば青春を謳歌していた。

高校2年生になった或る日学校の廊下を歩いていたら向こうから三人組の女が歩いて来る。初めはhも何も気にしなかった筈がそれからは何故か敢えて毎日その廊下ばかりを歩くようになっている自分に気づいた。これがhの初恋の始まりだったのである。

hは中学生までは女と付き合った事が一度もなく女と喋る事すら苦手な男だった。こんな男がモテる訳もなく自分でもその事は十二分に自覚していた。

その癖に相変わらずその子を意識してか毎日のように同じ廊下ばかりを歩いていた訳だがすれ違ったところでただ見るだけの行為が精一杯で何一つ声も掛けられない、そんな情けない日々が続いていた。

それから約3ヶ月、hは未だにその廊下ばかりを歩いていた訳だがそんな中「大雨洪水警報が発令されました、全校生直ちに下校するように」との放送が鳴り響いた。「やったー帰れるぞ────!」とか言いながら笑顔で廊下を疾走する生徒の群れの中で一人の女が後ろからぶつかって来た。それはsだった。sも多少は嬉しかったのか「ごめんなさい」と言って足早に去って行ったがその足取りにはみんなとは違い比較的落ち着いた感じが見受けられたのはhの気のせいだろうか。

翌日hは廊下で早速sと出会った。その時sは「昨日はごめんなさい」とまた謝ってくれたのでhは「全然大丈夫だから気にしないで」と言った。これがhがsに掛けた初めての言葉であった。そしてs「貴方何組なの?」、h「2組だけど」、s「それで何時も会うんだね」、ここでhは思い切って「昼休み会えない?」と聞いたんだがsは何ら躊躇する事もなく「いいよ」と言ってくれた。hは思わず心の中で「よっしゃぁ!」と叫んだ。

そして昼休みになって廊下に行けばsが待っていてくれた。そのまま廊下を二人で歩いて自然と図書室に辿り着いた。二人は一応それぞれ一冊の本を手にはしていたがお互い読書なんかには身が入らなかったみたいでsは「何か話して」と言って来た。

hは相変わらず奥手で何を喋っていいか分からなかったが取り合えず「今どんな勉強してるの?」とか「部活動とかしてるの?」とか全く面白くもない話ばかりをし始めた。でもsは全く卑屈になる様子もなく色々と話は盛り上がった。

これが二人の馴れ初めだったのだろうか、今にして思えば一番良い時であった事は間違いない。