人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

hとsの悲劇 終幕 ─希望─

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 空を見上げると蒼い、実に蒼い。美しく晴れ渡る空の青さはまるで俺達の結婚を祝福してくれてるかのようだ。hはそう思いこの蒼天に感謝した。

 

二人はささやかではあったが親族と仲間内だけで式を挙げた。

sの傷も癒えすっかり元気になりhも益々仕事にも精を出して頑張っていた。

sは料理も巧く毎日栄養のある手料理を作ってくれる。

こんな幸せになっていいものだろうかと思うぐらいだ。

何でもないような日常がこんなにいいものとは思わなかった。そして二人で散歩に行ったり、ドライブに行ったり、旅行に行ったり、飲みに行ったり昔のようなラブラブな関係が出来ていた。そんな最高の日々が2年ぐらい続いた。

 

或る日家に帰ったらsがちょっと疲れたような顔をして「今日も早いのね、残業は?」と聞く。

「今日は定時だよ」

「あらそう、たまにぐらい飲みにでも行ってから帰って来たら?」

「たまに会社の付き合いはあるけどな」

「じゃなくて個人的によ」

「何言ってるんだよ」

「冗談よ」

その時hは何も気にしなかった。

そして数週間後

hは職場からの帰途、スピードを出して走る車と接触しそうになった。よく見ると助手席に乗っているのはsだった。その日sは家に帰って来なかった。

翌日仕事を終えて帰りsにその事で問い詰めると

「実家に帰ってたのよ」

「何かあったのか?」

「別に何もないわよ」

「何か隠してるのか?」

「しつこいわね~、何もないって言ってんじゃん」

「何でそんなに怒ってるんだ?」

「別に怒ってなんかないわよ」

どうも様子がおかしい、腑に落ちない。sはもう今では病気の気配も全くないし他に何があるのだろう。hはいやらしいとは思ったが晩にこっそりsの携帯電話を調べた。するとそこにはhの親友tとの度重なる着信履歴があった。

その夜hは一睡も出来なかった。

翌朝その事を聞くとsは「姑息な人ね~、そんな事までして何か疑ってんの?」

「はっきり言えよ」

「じゃあ言うわ、t君と不倫してるわよ、これでどう? 今流行ってんのよ、あなたもたまにはしたら?」

hは黙ったまま何も言わずに出勤して帰りにtの家に寄った。

有無を言わさずtを殴って蹴ってボコボコにした。tは全く反撃して来ない。ただその場に蹲っているだけだ。

その後hは警察に捕まり連行された。tはまだ一応親友と思ってくれてたみたいで無条件で示談、和解してくれて初犯であった事からもhは事なきを得る。

それからsはごめんねと謝ってくれて不倫もしなくなっていた。だがhはまだ釈然としない気持ちで仕事もあまり手に就かず、イライラする毎日が続く。

俺の何が悪いんだろう、そこまで俺が不器用なのか? 俺が時代錯誤なだけなのか?と色々と思いを巡らし葛藤していた。

そんな或る日仕事が終わって一人で飲みに行った帰りに如何にもチンピラ風の奴に絡まれる。金を出せと言う。全くどいつもこいつもと思ったがむしゃくしゃしてたし幸い相手は一人、酒の勢いもあってそいつを打ちのめした。弱い奴で相手にもならなかった。そして再び連行される。俺は何をやってるんだと情けない気持ちになったが、もうどうにでもなれと開き直っていた。

前にもやったばかりなので今回は懲役2年の実刑判決を喰らう。

sも仲間達も何度となく面会に来てくれたがhはどうせ俺なんかと完全に自暴自棄に陥っていた。刑務所の中でも色んな事を考え今までの人生を顧みる。でも自分がそれほど悪い事をしたとはどうしても考えられない。

そんな中一人の年配の囚人が相談相手になってくれた。その人も色んな罪を犯して懲役の経験も豊富らしい。そして俺に「世の中色んな事があるさ、俺だって理不尽な理由でここに入った経験もあるしあんたの気持ちが分からんでもない、ただそれに真正面から立ち向かっても必ずしも良い結果が出るとは限らない、全ては人様が決める事。だから。あんたももうちょっとでも寛容になる必要があるな、そんな事言ってる俺も昔はめちゃくちゃだったがね」と悟りでも開いたような事を言ってたが俺も確かに一理はあるなと思った。

その後もsは何回も面会に来てくれた。その度に入院してた時と同じように「ごめんね~ごめんね~、もう二度とあんな事はしないから、あなたが帰って来るまで何年でも待ち続けてるから」と泣きながら訴える。それでもhにはまだ一抹の不安があったが檻の中で生活している間にどんどん寛容で大らかになって行く自分にも気付いた。

そして無事1年半の刑期を終え出所する事になる。sには出所する時を知らせてはいなかった。

刑務官に一礼して門を出る。そして空を見上げる。すると真っ青な晴れ間が拡がっている。俺は蒼天に感謝して希望に満ちた面持ちで「sは絶体に待っていてくれている」

そう確信して歩き始めた。

                                    完

                                     

 

 

 

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