人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

約定の蜃気楼  十四話

 

 

 湖からワープして来たその場所は正に大都会そのものであった。二人の眼前に拡がる夥しいまでの人の群れとビルの群れ。行きかう人々はまるでロボットのように同じような恰好、同じような無表情、同じような歩調で周りには一切目もくれず、無関心を装ったまま歩き続けている。アスファルトの道路とコンクリートで覆い尽くされたビル群は冷たさだけを漂わす。自然を感じさせてくれるものがあるとすれば唯一街路樹ぐらいなものか。

 ここが最期の試練である人間道なのか、ここで一体何をしろと言うのか。こればかりは流石の瞳にさえ分からない。このような都会の雑踏を好まない二人は自ずと人気のない場所に移動しようとした。

 二人が歩き始めて横断歩道を渡り切った時にまず一件目の事件が起こる。チンピラ風の数人の男達はこの広い歩道でわざわざ二人に近寄って来て行く手を塞ぐ。

「お兄さ~ん、デートですかい? いい女連れてるね~、俺達と一緒に遊ばないかな~、いい店知ってんだけどさ~」

 こんな奴等は瞳の術や真人が体得した力と使えば瞬殺する事が出来るだろう。だがその力は一切封じ込まれている。となれば逃げるしか道はない。二人は取り合えず逃げようとした。

 しかし一つの思惑が真人の脳裏を過る。このまま逃げ遂せた所で試練に耐えた事になるのだろうか、その不安は瞳とて感じていた。でも瞳は真人よりも一瞬早く決心したようで、真人の手を取り精一杯駆け出した。足の速さだけは流石であった。二人は難なく追手を振り解き一時の安らぎを得る事が出来た。街はずれの公園に落ち着いた二人。ここで真人は瞳に対しこう言うのだった。

「何で逃げたんだ? あんな奴等、力が失われたとはいえやっつける事は出来ただろう、それなのに何故?」

 瞳はまるで何も無かったような清々しい顔つきで答えた。

「三十六計逃げるに如かずって言うじゃない、あんな時は逃げるに限るのよ、こんなのまだ序の口なんだから、ここで戸惑ってる場合じゃないのよ」

 確かに瞳の言う事にも一理はあった。あそこで奴等を倒す事が出来たとしても返って面倒な事になっていた可能性もある。やはり機転を利かす事に関しては瞳に分があるのか。真人はまた瞳に助けられたような気がしていたのだった。

 

 敷地としては優に200坪はありそうなこの広い公園にはブランコやジャングルジム等の一連の遊具が揃っており、中央には噴水まである。人間は無論、鳥達も寝静まったであろう夜の公園はあくまでも静寂な雰囲気に包まれていたが、何処となく怪しい漂いもある。

 周りをよく見てみると段ボールに包まって寝ている人や、幾つかテントが張ってある光景が確かめられた。その中の一人が噴水にやって来て手を洗っている姿が目に付いた。真人はこの人に近づいて行き声を掛けた。

「あの~、この辺に一晩泊めて頂ける所はありませんかね?」

 その人は手を洗い終えて自分の着ている服で手を拭いてから答え出した。

「珍しいな、あんたみたいな若い人がこんな俺なんかに声を掛けて来るとはな、その度胸が気に入った、こんな暗い場所ではなんだから、俺のヤサに来いよ、そこで酒でも奢ってやるから」

 瞳は首を振って行くのを嫌がっていたが真人が強引に連れて行った。その人のテントは結構広く、中は灯りまで付いている。それどころか冷蔵庫まであってそこから冷えたビールを出してくれる。電気は何処から引っ張っているのだろうか、それにこの男は大した事はないまでもそこまで見窄らしい恰好でもない。真人と瞳は取り合えず出されたビールを開け、美味しく飲んだ。すると男はつまみまで出してくれた。

「あー、旨い! そういえば今日は何も食べていなかったな、な~瞳?」

 「あ、あ~そうだったわね」

 瞳はまだこの場に馴染んでいないようだった。男はテレビまで付けてくれて、その場はまるでちゃんとした部屋のような装いに変化した。男は言う。

「遠慮しないでいいから、じゃんじゃんやってくれ、俺は久しぶりに嬉しいんだよ、お前さんらみたいな若い人に相手にして貰ってよ」

 二人は徐々にこの男の人の好さに絆され和やかに語らいながら飲み出すようになって行く。勢い着いた二人は既に3杯のビールを飲み干してしまった。男は冷蔵庫を開けてみたがもう酒は無かった。そこで男は

「よし、今日はとことん奢ってやる、今からこの裏にあるホテルに行こう、そこで飲み直しだ!」

 今度こそ瞳はその誘いを断った。だいいち何故こんなホームレスの男がホテルなどへ行けるのか、冗談にもほどがある。これには流石の真人も怪訝そうな顔で男の言を疑ったが、男はそれでも何の躊躇いもなく二人をホテルに案内しようとする。

 男の余りの自信と親切心に圧倒された二人は騙されたと思って付いて行く事にした。彼の言うように公園の裏にはそこそこの立派なホテルがあった。

 

 

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 男は堂々とエントランスから入りフロントに差し掛かった時、支配人が颯爽と近づき丁重な挨拶をして来た。

「これは倉科様、ご無沙汰しております、今日はどういったご用件で?」

「うん、この人達に部屋を取ってくれ、それとラウンジは開いてるかい?」

「はい、どちらもご用意出来ます、さ、どうぞ」

  支配人に促されて三人はラウンジへと赴く。それにしてもこの倉科とかいう男は一体何者なんだ、訳が分からない。ラウンジもそこまで豪勢でもないが、落ち着いた感じの雰囲気の良い空間であった。そこで三人は飲み直し、大いに語らい大いに歌い、充実した時間を過ごす。酒が回って来た真人は真実を訊いてみた。

「ところで貴方は一体何者なんですか、倉科さんとか仰いましたよね、とてもただ者には見えませんけど」

 男は悠然と構えたまま答える。

「ああ、俺は倉科だよ、このホテルのオーナー倉科守の兄貴の倉科英雄だよ、テントの電気なんかは全部ここから引っ張ってるんだよ、お前さん達が気に入った理由もただ嬉しかっただけじゃない、何か不思議な縁を感じたんだよ、これは今回で二度目だ」

 真人は敢えて一度目の人の事を訊かなかった。それは訊くのが怖かったからだった。倉科も教えようとはしなかった。その後宴会は御開きになり、倉科は公園へ帰って行った。

「じゃあお二人さん、いい夜をな」

 二人はその言葉に感謝し、部屋に通される。当然同じ部屋であった。二人は今日一日の出来事をおさらいしてあっさり床に就いた。

 

 2時間ぐらいが経った深夜2時頃、二人は目が覚めた。真人は瞳は互いのベッドへと進んで行こうとした。徐に、自然と口づけを交わす二人。その後二人が契りを結んだ事は言うまでもない。瞳はその美しい身体を思う存分躍らせてみせた。真人はそんな瞳の身体に優しく、そして烈しく触れて行く。

 快楽に酔いしれる二人の男女。この様子を見守っていた虎さんと司祭ルーナは落胆を隠せなかった。

「いきなり下手打っちまったかぁ~、若いもんには抑え切れん事かぁ、ま、これから巻き返してくれればいいんじゃが.......」

 そんな二人の長老の憂慮も他所に欲望のままに乱れ狂う二人。この後二人はどんな窮地に陥るのであろうか。絡み合う二人の姿は窓外に見える三日月のような美しい流線形を彩るのであった。

 

 

 

 

 

 

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