人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

欲望の色 参章 ─期せずして─

 f先輩はさりげない感じで言う「おう英樹、久しぶりやんけ、学校頑張っとんか?」

「お久しぶりです。お陰様で何とかぼちぼち頑張ってますよ」

「そうか~、ところで相談なんやが、お前んとこの兵隊何人か貸してくれへんか?」

「と仰いますと?」

「今言うた通りや、実は今ちょっとやいこしい事なっとってな」

「やいこしいとは?」

「だから、皆まで言わせんなよ、他所の組と抗争になっとんやー言うとんねん」

「そうなんですか?」

「そうなんですかちゃうねん、お前舐めとんかい、2、30人でも貸してくれたらええだけや、簡単な話やろ、これ以上言わせんなや~」

英樹は色々と思案したが渋々承諾した。これが間違いだったのである。

暴走族同士の喧嘩乱闘なら何の躊躇いもなく承服する所だが本職の出入りともなれば話は別でただ事では済まない。それを分かっておきながらも逆らえなかった自分自身が情けなかった。

出入りには俺を含めた約30人でその内本職はf先輩以下たったの3人だった。俺は驚いた。何故そんなに少ないのか俺らの方が多い。それに対して相手は優に50人はいる。そのうえ手には木刀にドス、日本刀、バット等あらゆる道具を携えている。それに引き換え俺達はほとんど丸腰でやられる可能性も十分あった。

結果はみんなが奮戦した甲斐もあり苦戦の末何とか勝つ事が出来たのだがその後直ぐ警察にパクられる。

俺とf先輩を含める主要メンバーとみられた奴等十人ほどが警察署の留置所で一晩を明かした。この時警察からはあまり執拗に尋問される事もなくあっさ帰された事に俺は疑問を感じたがこれには結構大物の口利きがあったらしい事を風の噂で知る。

 

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登校しても意外とその事について言及する者もなく先生でさえ何も言っては来ない。

取り合えず一安心してたらあゆみが微笑を浮かべて俺に近づいて来る。あゆみはいきなり俺に抱き着き「良かった~無事で」と言う。訳が分からないまま

「何言うとんや? 何かあったんか?」

「いいのよ別に言わなくても、全部知ってるから」

おかしな事を言う奴だと思ったが大して気にも留めないままその夜は久しぶりに暴走に出る。あゆみも参戦していた。

二百台を超える数の単車で国道を真っすぐ、ひたすら真っすぐ突っ走る。何処までも果てしなく続く道、綺麗で哀愁のある夜の海、爽快な風、轟く爆音、赤赤とした数珠繋ぎのテールランプ、俺はみんなより100mぐらい前を先頭で疾走していた。

時速70kぐらいで走っている中、後ろに跨っているあゆみが叫ぶ「この前の喧嘩の件、口添えしてくれたの私の父なのよ」と。

海辺で一服している時改めてその事に触れたんだがみんなは「そんな事言われても信じられへんな~、あゆみちゃんも冗談キツイわ」などと談笑していたが一人の男が「それほんまやで、俺あゆみちゃんとは小学生から一緒なんやけど親っさん〇〇会の親分やで」

あゆみは「しー!」というジェスチャーをする。

みんなはざわつく。俺も一瞬たじろいだ。でもそれが事実だと知ったみんなはそれからはあゆみの事を「姐さん」と呼ぶようになった。

あゆみは「そんな呼び方やめてよ」と笑いながらも照れていた。

取り合えず学校では普通にあゆみちゃんで通す事になった。

俺はその事の礼とあゆみと付き合ってる事の挨拶を兼ねてあゆみの家を初めて訪れた。

ちょっと郊外ではあるが一目見ただけでも数百坪はあると思われる敷地に訪れる者を威嚇する程の立派な門構え、素晴らしく美しい庭園には榊に松、牡丹の花等も植えられていて英樹は組員らしきガタイの大きなスーツ姿の男に一礼しその人に案内して貰いながら歩く。ちょっと物怖じしていたがそんな中「ヒデー、こっちよ」と可愛らしくも涼しい声が聞こえ英樹は安心した。

「おうあゆみか、こんな立派なとこに俺なんかが来てよかったのかな?」

「いいから、早くこっちこっち」

誘われるままに俺は進んだ。30畳はありそうな和室に通される。

風景が描かれた障子に青々とした縁に何か模様の入った高そうな畳、金色の屏風、床の間にはカッコいい刀が三本置かれていて上を見上げると「至誠一貫」と書かれた額縁が飾られている。英樹はどんだけ金持ちなんやと思ったと同時に感動した。

やがて親分、つまりあゆみの親っさんが入って来る。これまた高そうで気品のある着物を召している。その余りにも背筋を張った姿勢に英樹は峻厳とするものを感じた。

一礼して俺は「初めまして英樹と申します、お嬢さんとお付き合いさせて頂きながら挨拶が遅れて申し訳ございませんでした、そしてこの前の一件では誠にお世話になり有り難う御座いました」と慣れない挨拶をした。

親分は「まあそんな固くならんでもええ、楽にしたらんかい」と言ってくれる。

「有り難う御座います」

「噂通りの男前や、あゆみが惚れたんも分かる、ところでなこの前の一件実はお前らがやってくれた相手はうちの若い衆なんや」

「そうやったんですか!? それは知らん事とはいえほんまにすいませんでした!」

「別にお前を責める訳ちゃうねん、お前誰かに頼むまれてやったんやろ」

「・・・」

「言いたくないか、無論それが誰かなんかとうに分かっとうねんけどな」

「はぁ・・・」

「まあお前にも色々あるやろうけどあいつとはもう縁を切れ、それがお前の為でもあるんや、分かるな」と言葉少なに言う。

俺は色々と考えたが確かにその通りやと思い「分かりました」とはっきり言い放った。

「よっしゃ、気に入った! これからもあゆみの事宜しく頼むわ」

「はい」

「おい、客人に一献差し上げて家まで送ったれ、あ、土産も忘れるなよ」

「はい分かりました」

俺は何か気が大きくなったような心持ちで家に帰り親父にもその事を告げてから床に入った。

親父は「そうか、ええ事もあるんやな」と軽く呟く。

それからの俺はあゆみとも正に相思相愛で清々しい青春を謳歌してた。

 

やがて高校3年の年も明けて卒業の時期を迎える。

そんな中、また修二がf先輩と一緒に英樹の前に現れた。