欲望の色 四章 ─断ち切れぬしがらみ─
俺はもうこの人と関るのは嫌だったが逃げるのも性に合わない。取り合えず話を聞こうと思った矢先にまだ心の準備もないままにf先輩は切り出す「前の一件ではほんまに助かったわ、改めて礼言わせて貰うわ、そやけどお前〇〇会の親分と会うたらしいな、で、娘さんとも付き合うとうらしいやんけ」
蛇の道は蛇とはいえ、えらい早耳だなと思った。
「まあ、そうなんですけど」
「まあええわい、最初からは知っとった訳でもないやろうしお前のプラーベートにまで口出すつもりでもないけどな、そやけどその親分とはきっぱり縁切れよ」
f先輩はそれだけを言い置いて立ち去った。
俺は、寧ろあんたと縁切りたいねんやと心の中で叫んだ。が、はっきりと言う根性は未だに無かった。
修二は俺の顔を見て軽く笑いながらf先輩の後に続くように去って行く。
こいつは一体何考えて生きとんねん、なんぼアホとはいえ脳みそもあったら心もあるし神経も通とうやろと思ったが今では完全にf先輩の犬(パシリ)になっていた。
いよいよ高校を卒業する頃になりみんなで最期の暴走を楽しんだ。
そして英樹は家業を継ぐべく親父について鍵師の見習いをしていた。あゆみは大学に進学するがその後もあゆみとはいい関係を保っていた。
鍵師の仕事といえば家の鍵を忘れた場合に鍵を開けてやったり金庫のドア、車のキー閉じ込み対処等であるが余程の高価で厳重な物でもない限り基本的にはそこまで難しいものでもない。最悪どうしても開ける事が出来ない場合は強引に潰す事もあるが潰したら爆発するような金庫はあまりないし日本ではほとんどない。英樹は日に日に技術を身に付けて行く。
或る日英樹はあゆみとドライブに出かける。海岸線を走りながらあゆみはカーステレオで好きな曲をかけて自ら歌っている、実に上機嫌だ。えらい機嫌がええな~と聞くと「そら英樹と一緒にいるだけで楽しいもん」と笑いながら言う。英樹は信号待ちしている時あゆみの膝に軽く手で触れた。あゆみは何も言わず軽く笑っている。二人は夕食を済ませて英樹はホテルに向かう。あゆみはまだ機嫌がいい。ホテルに着いた時あゆみは「やっと決心が着いたのね、遅いからイライラしてたわ」と言う。
実はこれが初めてだったのである。部屋に入るとあゆみはいきなり抱き着いて来た。
英樹は焦ったが取り合えずあゆみの唇に熱く感情を込めて接吻した。それからあゆみの身体(からだ)を見る。可愛らしくも妖艶で聡明そうな顔立ち、純白の美しい肌、さらさらとした長い髪、滑らかな項、反り返るような張りのある乳房、流線形に描かれた腰つき。英樹は女の身体とはここまで綺麗なものかと思った。
その夜二人は激しく狂おしいまでの契りを交わした。
朝になってあゆみは言う「あんたほんまにお人よしなんやね」と
その意味は全く分からなかったが敢えて聞きもせず英樹はあゆみを家まで送って帰宅する。
するとまたまたf先輩が現れる。次は何やねんと思った。修二はいない。f先輩はちょっと暗鬱な表情を浮かべて俺に言う「おう英樹、ちょっと困った事になってな~」
「またですか?」
「そうや、またや」
「今度は何ですか?」
「金の話やねん」
「・・・自分、金なんかありませんよ」
「そんなもん分かってる、何もお前を恐喝する訳やない、実はここんとこ羽振り悪くてな~今月の会費払われへんねんや、そこでお前に頼みたいんや」
「・・・」
「お前鍵師やろ、或る会社の金庫を開けて欲しいんや」
「は!? そんな事出来る訳ないでしょ」とはっきり断ったつもりが
「ちょっと待ったらんかい、一応俺にも義理があるやろ、また助けたってくれや」
「もう義理は返した筈ですが」
「そんな冷たい事言わんともう1回頼まれてくれや、これが最後や! な!」
「出来ないものは出来ません」
「そうか~、じゃあしゃーないな、修二もあゆみもどうなっても知らんでな」
英樹はこいつは正に外道だなと思った。と同時に葛藤もしていた。そんな英樹の顔を見て
「所詮お前はそんな奴や、迷とんやろ、という事で頼むわな、これが詳細や」とメモ書きを渡して去って行った。
散々迷ったがこれがほんまに最後と思い行動に出た。獲物は近くにある金融会社の金庫でf先輩と見知らぬ奴がシケ張り(見張り役)をしてくれている。深夜に忍び込みダイアル式の金庫を開けて金を取り仕事は無事に終わった。数百万円入っていた。
それをf先輩に渡したら「これはお前の取り分や」と百万くれたんだが俺は貰わずに
「いや結構です、その代わりほんまにこれで最後にして下さい」と言って家に帰った。
何とか捕まる事もなく安堵していたがやはり後腐れが悪い。眠れない夜が何日か続いた。
それから数ヶ月が経った頃、竜が慌てて俺の前に姿を現す。
「どないしたんや、そんなに慌てて」
「実は修二が死んだんや」
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