人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

サメとワニ

  終章  ─行く末─

 

 

 雄二がした事とは汚職であった。

今度の再開発の件でも陣頭指揮をとっていた雄二にはそのダメージは計り知れない。

雄一が「何でそんな事をしたんだ?」と訊くと。

「図に乗ってたんだよ」

「・・・」

「みるみる出世して行く自分に酔ってたんだろうな」

「で、これからどうするんだよ?」

「恐らくは捕まる事になるだろ」

「・・・」

母が冷静な面持ちで

「豚箱に入って来なさい、そうすれば頭も覚めるでしょう」

と言い放った。

雄一も正にその通りだとは思い汗顔の至りであった。

 

その内容は大物代議士に賄賂を贈って贈賄の罪に問われる可能性があるのだと言う。

会社でも昇格する事が決まってしまい、もはや雄二に味方する人はいないらしい。

母はさっき言った事とは裏腹に佐伯先生に頼むとか言い出した。

それを訊いた皆は流石に愕いた。

今までこの雄二を倒すべく佐伯先生に頼っていたものを何故逆にこいつを助けようという気になったのだ。いくら息子とはいえそれは余りにもおかしい。

雄一もかみさんも苛立っている。

しかし結局母はそうする事にしたのである。

 

その事を訊いた佐伯先生は呆気に取られていたがそれなら別に構わんと意外にも割り切った言葉を出す。

雄二もそれを訊いて安堵したいた。

 

だが数週間後結局雄二は書類送検された。

 

降格したとはいえ財力のあった雄二は直ぐに拘置所を保釈され裁判でも執行猶予が付きまたシャバに出て来た。

 

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しかし僅か数日とはいえ勾留されていた雄二は今までの雄二ではなかった。

家に来た雄二はこう言う。

「母さん兄貴、本当にごめんなさい、自分が間違っていたよ、再開発の件は流れたし、俺も心を入れ替えて生きる事にするよ」

すると雄一が「お前そんな半端な考え方であんな事してたのか?」

「・・・・」

母は「もういいじゃない、終わったのよ」と言った。

すると雄二は土下座をした。

みんなは呆然とその姿を見ていたが雄一は母に問う。

「一体俺と雄二、どっちの生き方が正しいんだろ?」

「それは分からないわ」

「・・・」

暫く話した後雄二は帰った。

 

その晩母と雄一は久しぶりに酒を飲みかわした。

 

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この酒は勝利の盃なのかそれとも哀しみの盃なのか雄一には分からなかったが母はいい顔色をしている。

「何でそんな晴れやかな顔をしてるんだい?」と訊くと。

「別にそんな訳でもないけど一つ感じた事があるの」

「何?」

「あんた達はサメとワニなのよ」

「え?」

「ほら、何時か沙也加が持っていた玩具があったでしょ、あれよ」

「ああ、それがどうかしたの?」

「あんた達兄弟は正にサメとワニのようにどっちが強いのか分からないのよ、亦どっちの生き方が正しいのかもね」

「そういう事か・・・」

「でもどっちが強いかを決める必要もないのよ、いくら兄弟とはいえあくまでも別人格だから」

「俺はどっちなんだよ」

「そうね、どっちかと言うとあんたは人格者の部類に入るかな、勿論そんな大袈裟なものでもないけど」

「じゃあ雄二は」

「あの子は金の亡者ね、今まではね」

「・・・」

「でも二人共十分親孝行してくれたし母さんはそれだけで十分よ」

「まだまだ足りないよ」

「いいのよ、その気持ちだけで、でもやっぱり私は雄一の方が好きだけどね」

その言葉を訊いた雄一は嬉しくなって照れていた。

だが雄二に対する憂いの心があったのも事実であいつの人生を否定する気にもなれない。

 

この二人の兄弟の行く末は誰にも分からなかった。

 

                                  完 

 

 

  

 

 

 

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