人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

自作小説

まったく皺のないTシャツ 六章

中学生時代というのは正に思春期真っ盛りな訳だが元々几帳面で神経質だった一哉にとっては人生そのものが思春期であり年などは関係なかったのかもしれない。 中学に進学した一哉には何の心境の変化もなく今までと同様ただ学校に行って帰って来る。そんなごく…

まったく皺のないTシャツ 五章

年は明けいよいよ一哉は小学校を卒業する事になる。まだ春寒の残っている冷たい空気の中に芽や花の匂いが混じっているこの季節には春の到来を待ちわびていた人々の歓喜の心と、前年度を振り返り各々を評価したり懐かしんだりする思い等が錯綜する。 天真爛漫…

まったく皺のないTシャツ 四章

二日目の旅程は鳥羽水族館で可愛いラッコを見た後、真珠の養殖、取り出し方、アクセサリーを作る工程等を見学する。アコヤ貝から採取された真ん丸なその玉は正に海底に沈む財宝といった感じの神秘的なホワイトパールの色彩を帯びて神々しいまでの輝きを放つ…

まったく皺のないTシャツ 三章

三章 運動会も終わった10月下旬、秋の深まりも頂点を極めようとする頃、街路では風に吹かれた紅葉の花は地面に落ちた後も尚美しく旅情をそそる。一同は待ちに待った修学旅行へ向かう。 駅のホームでみんながざわつきながら汽車の到着を待つ間、一哉は一片の…

まったく皺のないTシャツ 二章

二章 小学生になった一哉は相変わらず沙也加とは仲良しこよしでよくお互いの家に行ったりして遊んでいた。 鯉のぼりが蒼空に泳ぐ季節、春の心地に心が柔らかくなった人々の顔には何処となく優しさを感じる。それは子供とて同じでみんなは快活に学校生活を楽…

まったく皺のないTシャツ 一章

一章 一哉は部屋の壁をボケーっと眺めていた。 「何で壁はこんなにも平らで皺一つないんだろう? 本当に綺麗だ、それに引き換え人間はどうだ、心身ともに皺だらけではないか、ほんとに醜い生き物だよ、勿論俺もだけど」悲嘆に暮れながらそう呟いていると奈美…

極道女子高生 最終章

最終章 朝起きて窓を開けると晴れ渡った空に一筋のヒコーキ雲が天高く流れている。誠二は「あや、ヒコーキ雲が出てるぞ」と言うと、あやは「そうか! 今日もいい日になりそうだな」と上機嫌で笑っていた。 誠二の母はあやが一晩泊まっていた事には勿論気付い…

極道女子高生 十四章

十四章 修学旅行はスキー旅行だった。 道中で渋滞が酷かったとはいえ大型バスで片道10時間も掛けてやっとこさ着いたその場所は寒風が吹きすさぶ見渡す限り一面が雪に覆われた絶景が夜目にもはっきりと分かる。バスから降りた一行は意気揚々として宿までの坂…

極道女子高生 十三章

十三章 あやと2回目の契りを交わした後窓を開けて空を眺めると見事な満月が出ている事に気付く。満月の夜は不吉だなどという迷信に少しは動じながらも誠二は全てを話すべく改めてあやの顔を真剣に見つめた。 「何だよ改まって」 「さっきは悪かった、未だに…

極道女子高生 十二章

十二章 年が明けて早や3月。寒さも幾分緩和して辺りには桃の花が美しく咲き乱れている。 実はこの梅、桃、桜の花は共に薔薇科桜属の植物で見た目が似ていても仕方なく、その違いは花の付き方と花びらの形に依るものである。 3月中旬、あやの一家では定例幹部…

極道女子高生 十一章

十一章 誠二は師範と向かい合ったはいいが何も言えなくただ立ち尽くしていた。何故か言葉が出て来なかったのである。そんな誠二の心中を察してか少し風が吹き始めたと同時に師範は言葉巧みに喋り出した。 「お前も本当は迷ってるんだろ? 顔を見れば分かるよ…

極道女子高生 十章

十章 親分が部屋のい入って来た時から月は傘を被り風は強さを増した。 親分は床にどっかと坐りあやに勺をする。あやは少し訝りならがも勺を受け一献飲み干した。すると親分は「相変わらずいい飲みっぷりだな~」と笑みを泛べる。 「で、話というのは?」 「…

極道女子高生 九章

九章 あやはその晩は誠二の家に泊まった。それは二人の総意でもあった。 実に心地よい眠りに就いたのだが二人共夢を観たのだ。あやの夢にはまた誠二が出て来る。今度ははっきりした夢で二人は夫婦になり倖せな家庭を築いて子供までいる。三人で手を繋いで公…

極道女子高生 八章

八章 シンの声と確信したあやは直ぐにでも奈美を助けに行かねばならないと思ったが流石に一人では危うい、だが親父に言うのはもっと危険だと考えたあやは取り合えず誠二に電話を掛けた。誠二はこう言う「親分に頼んだらいいのでは?」と。 「いや、親父に言…

極道女子高生 七章

七章 その晩あやは久しぶりに夢を観た。ストーリーははっきりしないが大蛇に喉を咬まれる夢だった。大蛇があやの体中に巻き付きいくら足掻いても身動き一つ取れない、そしていよいよ咬まれそうになった時夢は覚めた。 汗をかいて飛び起きたあやは素早く煙草…

極道女子高生 六章

六章 いよいよ長かった夏休みも終わり新学期が始まる。誠二は意気揚々とした心持で学校に通う。今や二人の仲は学校でも周知の事実となっていた。 新学期になったとはいえまだ夏も終わってはなく九月上旬は暑く誠二の半袖の学生服の上からも汗が滲み出て来る…

極道女子高生 五章

五章 部屋に通された何も口にせずただ座していた。あやは女のくせに胡坐をかいている。 すると親分が「おう誠二君久しぶりだな、よく来た、どうだ面白かったか?」と意外と気さくな挨拶をしてくれた事に誠二も少しは力が抜けた思いになり素直に「はい」と答…

極道女子高生 四章

四章 夏休みに入り今度は誠二から積極的にあやを海水浴に誘った。 「海か~、でも私は背中に墨入れてるからな~、そうだ、それなら親父が贔屓にしてるプールに行こうか?」 「海もプールも一緒だろ?」 「それが違うんだよ、そこは親父とは古い付き合いで貸…

極道女子高生 

三章 「セイヤ! セイヤ!」 道場にはけたたましい掛け声が響き渡る。初めの内は正拳突き一つ出来なかった誠二も徐々に慣れて行き今では組手の稽古まで行っていた。 あやはそれを横目で見ながら安心していた。 師範は言う「あや、この子初めての割には覚えが…

極道女子高生 

二章 朝になり登校のおり当番の若い衆シンが車の中で 「お嬢、昨晩は何処に行かれていたんですか?」と訊いて来た。 「だから何処だっていいだろ、一々干渉してんじゃねえよ」 「すいません、ですが久しぶりに暴れたくなって来ませんかね? 自分ら若い衆もみ…

極道女子高生

一章 その朝は天気が良かった。 燦然と晴れ渡る澄みきった空には一筋のヒコーキ雲が一本の矢を射たように果てしなく続いている。 あやはこのヒコーキ雲が大好きだった。 朝食を済ませたあやは日課のように愛犬のシェリーとヘルメスにハグをしてから学校に行…

サメとワニ

終章 ─行く末─ 雄二がした事とは汚職であった。 今度の再開発の件でも陣頭指揮をとっていた雄二にはそのダメージは計り知れない。 雄一が「何でそんな事をしたんだ?」と訊くと。 「図に乗ってたんだよ」 「・・・」 「みるみる出世して行く自分に酔ってたん…

サメとワニ

八章 ─摩擦─ 「雄二、お前何しに来たんだ?」 「見ての通りさ、土地売買の交渉に来たんだよ」 「何でお前が?」 「うちの会社は不動産も手掛けててね、今回の再開発の件でも重要な地位を占めてるんだよ」 「で、ここを出て行けって?」 「その通りだよ」 「…

サメとワニ

七章 ─無明─ この雄二の言動にはまたもや雄一を憤らせるものがあった。 雄一は言う「やはりお前は変わったな、昔のお前じゃないよ」 「ああ変わったよ、人間変わるもんなんだよ、悪いか?」 「お前の変わり方は頂けないという話だよ」 「分かんないな~、何…

サメとワニ

六章 ─蟠り─ やがて兄弟は結婚して子宝にも恵まれる。 子供の名前を考えていた時、母がこう言った。 「二人共全然違う名前にしなさい、これだけは是非とも聞いて欲しい」と。 二人の夫婦は共にそれを承諾して雄一の子には「真治」、雄二の子には「沙也加」と…

サメとワニ

五章 ─神妙─ 早くに死別した父が夢に出て来るなど雄一にはとてもじゃないが信じられなかった。 でも何故母はそう思ったのか。寧ろそう確信したような節もあった母の顔には混沌たる思いが描かれているようにも思える。 雄一は思い切って母に訊いてみた。 「何…

サメとワニ

四章 ─暗雲─ 雄一は取り合えず雄二と母に謝った。 「悪かったな雄二、お母さん、ちょっと苛立ってたよ、これからは考え方を改める必要があるな、雄二、俺を一発殴れ」 「そんな事はいいんだよ」 母は「頼むから兄弟仲良くしておくれ」と泣いている。 確かに…

サメとワニ

三章 ─暁暗─ 二人はそれぞれの進路を決める時期に来ていた。 雄一は高校を卒業して中小企業に就職した。雄一は大学に進学する。 母は取り合えず雄一が仕事を始めた事に安堵していた。 中小企業とはいえ立派で広大な敷地を見た雄一は戸惑っていた。 こんな広…

サメとワニ

二章 ─青春の黄昏れ─ 二人共中学を卒業すれば直ぐにでも就職して母を楽にさせる事ばかりを考えていたが、流石に今の時代高校ぐらいは出てないと恰好がつかないという母自身の思いもあり二人は高校に進学する。 季節は春、美しい桜の花が咲き乱れて公園や街路…

サメとワニ 

「兄貴の言うてる事は分からんでもないけど甘いな。そんな事ではこの世の中渡って行けないし所詮人生は勝つか負けるかしかないんだよ。」 「お前は誰に口きいてるんだ? お前からそんな講釈垂れられる筋合いはないし調子乗ってんじゃねーぞコラ」 最近の二人…