人生は花鳥風月

森羅万象様々なジャンルを名もなき男が日々の心の軌跡として綴る

甦るパノラマ  十一話

英昭が足早に駆け付けた店は天遊会館という如何にも昔ながらな屋号のパチンコ店であった。そこは彼の地元の隣町に位置するのだが歩いていけない距離でもない。 午後5時半、店の前には既に人だかりが出来ていた。新装開店という変則時間に開店するイベントは…

甦るパノラマ  十話

それから数日が経った体育祭当日、この日も朝から気持ち良く晴れた渡った空は地上を明るく照らし出し、万物に生命の息吹を与えてくれる。正に体育祭日和。そこまでの関心が無いまでもまだ若い英昭や他の生徒達は意気揚々と胸を弾ませ、気を逸らせながら登校…

甦るパノラマ  九話

拍手で迎えられたさゆりは皆にチヤホヤされながらも相変わらずの冷静沈着な様子で自分の持ち場へ戻る。殆ど息も切らせてはいない。本人よりもテンションの上がっていた同級生が笑顔で語り掛ける。 「さゆり凄いじゃない! また速くなったんじゃない? 女子で…

甦るパノラマ  八話

料理を食べ始める英昭の手は些かなりとも震えていた。母が丹精を込めて作ってくれた料理は美味しいに決まっているのだが、せっかくの御馳走も気が沈んでいた今の英昭の喉を余り通らない。だが母を悲しませてはいけないと思った彼は少し大袈裟な物言いをする…

甦るパノラマ  七話

パーンパパパパパパパーン。 軽快に、高らかに鳴り響くファンファーレは如何にも今から一大競走が始まるかのような大袈裟な雰囲気を辺り一帯に漂わし、観客達の心は更に昂奮して行く。 第一回秋華賞、レース場に姿を現した騎手達は各々の馬に跨り颯爽と返し…

甦るパノラマ  六話

この日のメインレース(11R)はG1秋華賞だった。牝馬のクラシック戦線であるこの重賞レースは今年から新しく始まったG1レースで場内も熱気にに溢れていた。 英昭はデートに必要な最低限の金しか持って来ておらず、前もって予想もしていなかったのだが、いざ…

甦るパノラマ  五話

二日後のデート当日は薄曇りながらも雨が降る気配は余り感じられない。英昭は何時ものように傘を持たずに家を出る。すると後ろから母が声を掛けて来た。 「一応傘持って行ったら? 何時降って来るか分からないわよ」 「いいんだって」 母の忠告に耳を傾けな…

七夕は年間行事No.1  ~不変の想い

天の川 夢に観ゆるは 七夕か(笑) 笹の葉さらさら~ のきばに揺れる~ お星さまきらきら きんぎんすなご ♫ この歌を思い浮かべるだけでも心が癒され気持ち良くなって来ます。 年間行事や記念日には余り関心が無い自分ですが、七夕だけは本当に好きですね。…

甦るパノラマ  四話

さゆりと母が異口同音に投げ掛けた言葉は英昭を悩ませるのに十分だった。さっきまでは平静を装っていたが、いざ自室で独りになるとその哀しい、やるせない想いは自ずと胸に込み上げて来る。過去を振り返る事が特段嫌いでもなかった英昭は横になり、追憶に浸…

甦るパノラマ  三話

棚から牡丹餅とでも言おうか。思いもしなかったさゆりとの出会いは最近の英昭にとっては大袈裟な言い方をすると、ギャンブルで勝った時以外で初めて経験する喜びであったようにも感じる。やはり幸運というものは掴もうとして掴めるものではなく、意図せずに…

甦るパノラマ  二話

義正はこちらの意見を訊くまでもなくいきなり口を切り出す。 「金貸してくれないか?」 確かに少し無神経な奴ではあったが、会っていきなりの無心とはどういう了見なのだろう。英昭はムカつく気持ちを抑えつつ喋り出す。 「取り合えず俺の話を訊いてくれない…

論破とは?  ~真意を探ろうとしない現代日本社会

月替わり 未だ感じぬ 夏の色(笑) いやいや、梅雨やコロナの影響も然ることながら、なかなか心の夏は訪れないものです。無論それは自分次第という事なのでしょうけど。 とのかく7月、文月になった訳です。こうなったからには心身ともに綺麗さっぱりリフレッ…

甦るパノラマ  一話

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。 「じゃあまた明日~、さようなら~」 生徒達にとって終業のチャイムほど嬉しいものはなかった。部活動や習い事に勉強、交友やデート、アルバイトや娯楽等。気の赴くままに行動出来る放課後は正に自由…

約定の蜃気楼  最終話

突如姿を現し、いきなり発言を試みようとするレーテを司祭は制する。 「レーテや、およしなさい」 だが他の長達の寛大な計らいに依って発言を許されたレーテは、携えて来たものを皆の前に出し、こう言いだすのだった。 「まずこの籠に入れられた二匹の蝶と二…

約定の蜃気楼  十九話

身体が重い。まるで鉛でも付けられたように重く感じる。湖の奥深くまで沈められた真人の身体はもはや自力では浮かび上がる事は出来ないだろう。こうなれば反省もクソもない。観念した真人は何も抗わず何も考えずに、ただ死を待つ。 すると何も考えていなかっ…

約定の蜃気楼  十八話

信じていた、尊敬していた人にさえも裏切られる。確かに長い人生に於いては無い話でも無い。でも見聞きした事はあってもいざそれが自分自身に降りかかって来た場合、人はどういう心境になるのだろうか。 今回の事件の犯人は恐らくあいつらだ。悪い勘ほど当た…

約定の蜃気楼  十七話

真人の叫び声に愕いた誰かが通報したのだろうか。夜半の公園には大勢の警察官が駆け付け、辺りは騒然とした様相を呈して来る。真人も目撃者として聴取を受けた。そんな中、警察達は口々に言う事があった。 「倉科の英さんとうとう仏さんになっちまったか」 …

約定の蜃気楼  十六話

「覚えておけよっ!」 捨て台詞を吐いて逃げるチンピラどもの姿は滑稽であった。結局二人がした事は連中を叩きのめしただけで食事の代金を払わせるまでには至らなかった。それより真人が気になった事は瞳の力だった。彼は正直に真正面からその事を訊く。 「…

約定の蜃気楼  十五話

朝目が覚めた時、瞳は後悔していた。その暗鬱な表情の意味する所とは何なのだろう。それに引き換え明朗な面持ちで窓を開け外の景色を眺める真人。 今日も燦然と輝く陽射しは眩しく、その下で元気良く飛び回る雀達。その可愛い鳴き声はホテルの7階までも十分…

約定の蜃気楼  十四話

湖からワープして来たその場所は正に大都会そのものであった。二人の眼前に拡がる夥しいまでの人の群れとビルの群れ。行きかう人々はまるでロボットのように同じような恰好、同じような無表情、同じような歩調で周りには一切目もくれず、無関心を装ったまま…

今週のお題  ~100万円に対する想い

今週のお題「100万円あったら」 軒下に 日陰求める 雀達(笑) いやいや、夏はもう目の前までやって来たという陽気ですね。この調子だと何時蝉が啼き出しても不思議ではないような気もします。こんな時期だからこそ心を落ち着かせてブログ制作に勤しむ必要が…

約定の蜃気楼  十三話

二人が舞い戻った夕暮れ時の湖には珍しく人だかりが出来ていた。霧が晴れているとはいえ、このような幻想的な場所に人が群がっている光景は何ともぎこちなく感じる。 一体ここで何が始まるのだろう。真人はそう思いながらも敢えて訊こうとはしない。それは虎…

約定の蜃気楼  十二話

久しぶりに会った瞳の珍しい仕種に愕いた真人であったが、彼は気の向くままに彼女を自分の身体で休ませてやり、優しく髪を撫で互いにその切なさを共有していた。 その後こんな地獄道に長居は無用と感じた真人は瞳の身体を起こし、取り合えず歩き出した。二人…

三島由紀夫の魅力とは

日の長さ 夜が恋しい 天邪鬼(笑) 確かに日が長い事は有難い事で感謝しなければならないと思いますが、なるべく人目を避けて生活している自分としては早く夜になって欲しいような気もしないではありません。かといって冬になり余り日が短か過ぎるのもどうか…

約定の蜃気楼  十一話

「そうです、そのままじっとしていなさい、餓鬼達は決して貴方の身体に触れる事は出来ません、何も怖れる事はありません」 この神々しいまでの威厳に充ちた綺麗な声の主は一体何者なのだろうか。真人はその指示に従い、身体を仰向けにして微動だにせずその場…

約定の蜃気楼  十話

西軍の本陣から数十分歩いただろうか。遙かに霞んでいた敵本陣にようやく辿り着いた一行は快く迎え入れられ、手厚いもてなしを受けた。取り合えずと一献授かった真人は悠長に構えているなと感心しながら酒を飲んでいた。 敵総大将の榊原泰幸はその恰幅の良い…

約定の蜃気楼  九話

何時ものように朗らかな表情で真人を見つめる瞳ではあったが、今日は何処となく少し神妙な風にも感じられる。瞳はその長い髪を荒野の強風に靡かせながら語り掛けて来た。 「これで3つの合格認定を頂いたのね、貴方なら次の試練にも耐えられると思うわ、でも…

限りなく透明に近いブルー<村上龍>を読み終えて

肌寒さ 嬉しく思う 梅雨の雨(笑) いやいや、梅雨というものは本来蒸し暑いというイメージが強かったのですが、昨日辺りから少し肌寒さを感じるぐらいです。自分としては6月中旬はこれぐらいの気候で丁度良いとも思うのですが。 これも偏に昨今の地球が暑く…

約定の蜃気楼  八話

血と臓物とは正にこの事か。巨大な鰐に飲み込まれた真人の眼前には見るも恐ろしい闇の世界が拡がっていた。ここが胃袋なのか、胃粘液の強力な粘着きに依って手足の動きを封じられた真人には何ら抗う術が無かった。だがこのままでは何れ死んでしまう。真人は…

約定の蜃気楼  七話

瞳は無言のまま真人の顔を凝視し、射貫くような鋭い眼光で彼の両目を見つめ出した。そんな彼女の姿に動じた真人は不甲斐なくも瞳と接吻する覚悟をするのだった。しかし瞳は何時になってもその目を閉じようとはしない。寧ろ、いやに攻撃的なその様子は真人を…